ムーンフラワー
気分を切り替える。今日は『ムーンフラワー』を取りに行く。かろりと。
さて、どうかな?
フレンドリストを開く。でも、まだかろりはいなかった。あたしはしゃがみ込み、流れる小川を見つめながら、何秒かおきにリストを開いてはかろりがログインしているかを確かめた。
いた。
「こん」
すぐに声をかけた。すみません、遅くなってとか言いそうだ。
「こんにちは。すみません、遅くなっちゃって」
やっぱりね。
あたしはかろりのいるラーンの村の入口へ走った。
ブルーニャ山を登る。一度目は敵が強すぎて下山したけど、今はあたしのツメ攻撃とかろりの回復魔法がある。群れカラスも倒すことができた。反時計回りに山を登る。
途中で切り株に座って休憩をする。景色がきれいだった。ササラ海岸の白い砂浜が遠くまでずっとつづいているのが見える。
かろりと一緒に道具屋で買ったおにぎりを食べることにする。
「なんの具にしました?」
とかろりが聞いてきたから
「タラコ。大好きなの」
と答えた。かろりのおにぎりをのぞいてみた。なにも具が入っていなかった。なんで具なしなのかなあ? それでもおいしそうに食べるかろりを見て、今度あたしがおにぎりをにぎってあげようかなと思った。でも、ゲームだからできないか。
山頂では『ランラン』と書かれた石柱と、途中見かけた穴をここでも見つけた。どれがムーンフラワーなのか。
その時ムービーイベントが始まって、お墓の前に月に照らされた淡く黄色いお花が3つ現れた。
「これかしら? ムーンフラワーって」
「そうですね。これですよね」
といってかろりがお花に手を伸ばした時コウモリのような姿の人間が石柱に立って言った。
「ゆるせん。わたしの愛するランランをけがす者はだれだ。見捨てた者はだれだ」
『山の主ジェイド』との戦闘が始まった。
ジェイドは、月の浮かぶ夜空を飛び交い、そしてあたしに襲い掛かってきた。
「いたい……」
バタバタとした翼の音が耳に残ったまま、自分の裂けた武闘家の服を見ていた。なおもジェイドは執拗にあたしを襲ってくる。
体が少し楽になった。かろりの『フーワ』だった。ありがとう、かろり。よ~し。
「メロンさん、一度自分でやくそうを飲んでください」
「えっ? 今からあたしのミキサーク……」
「いいから早く!」
そんなかろりは初めてだった。大声で言うかろりの言葉に圧倒され、あたしはやくそうを飲んだ。そしてあたしに『マモロ』をかける。
ジェイドの攻撃は効かなかった。やるね、かろり。よ~し。今度こそ。
「ミキサークロー!」
ジェイドの翼に傷を与えた。だけど飛べなくなったジェイドは、今度はかろりに向かって突進していった。かろりの焦った顔が見える。
まかせとけ! かろりに秘密の!
あたしはリズムよくステップし、ジャンプした。
『サンダークロー!』
決まった。
ジェイドが倒れても、あたしはポーズを決め動かなかった。そして、チラチラとかろりの顔をうかがってみる。どう? 決まったでしょ?
驚いているかろりの顔をみるのも楽しい。
人間の姿に戻ったジェイドの話を聞き、ムーンフラワーを手にしたあたしたちは下山した。かろりはさっきから一人でなにか考え事をしているよう。
そういえば、あたしがまだ子供のころ。あれは何歳のときだったんだろう。
家族で山に出かけたことがあった。そもそも何をしにいったんだろう。あんまり憶えていないけど、緩やかな斜面の中では一応平らな場所にシートを敷いて、家族でご飯を食べた。
あたしはそのあと草原に咲くお花を摘んでいた。白いお花だったと思う。すると兄があたしのとこにやってきて赤いお花をいくつか渡してきた。あたしは白いお花がよかったから、せっかく摘んできた兄の赤いお花を「いらない」と言って受け取らなかった。すると兄はあたしの集めていた白いお花を払った。あたしは泣いた。「なにしてるの!」と兄は母に怒られた。
帰りの車の中であたしと兄はグズグズと、めそめそとしていた。
あたしも悪かったよね。
そんなことを思い出した。
「ルナって本当優しい子だよね。大人の事情はどうであれ、想いを伝えようと素直にお花を摘みになんか行っちゃって。かろり、走るよ。早くムーンフラワーをルナへ届けてあげよう」
村長に会い、ムーンフラワーを飲んだルナはすぐに元気になり、今はすぐそばでルナと遊んでいる。ふ~ん、意外と子供と遊ぶんだぁ。
ルナも楽しそうな表情をしている。
あたしは村長に旅のヒントを聞いた。どうやらバレットの港町に行けばいいらしい。
ん?
(…………、あの……ねえさん……こと好きなの?)
そんなふうに聞こえた気がする。見るとルナが座り込むかろりに耳打ちをしていた。
村長の家を出て振り返ってみると、ルナがかろりに向かって口に指を一本立てていた。内緒にするよということかな。
さっきの会話、なんだろう? あやしい。ためしに聞いてみる。
「ルナ、なんで『シーっ』ってしてるんだろ」
かろりはとぼけた顔をした。ま、いっか。




