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かろりに会いに  作者: かろりんぺ
2/20

あたしの一歩

「ようこそおいでくださいました。私はあなたの魂です」

 あたしの声があたしに話しかけてくる。真っ白な世界の中で、そしてあたしの体はどこにもなかった。

「それでは名前を決めてください」

 え。どうしよう。急に言われてもなあ。

 真っ先に頭に浮かんだのは自分の名前。でも本名は避けたかった。現実の世界をゲームの世界に持ち込みそうだったから。せめてゲームの中では現実を忘れて楽しくプレイしたい。

「え~と、メ、メロンで」

 どこからあたしは声を出しているのだろう。

「性別を決めてください」

 目の前の白い空間に『男性』『女性』と文字が浮かんでいる。あたしが頭で選んでいると選んだほうが青く光る。『女性』を選びタップする感覚を目で送ると決定された。

 身長や体重、年齢設定は実際のものにする。ただ、髪型だけは変えよう。

(俺はロングヘアーが好きなんだよ)

 そんな彼の言葉がよみがえる。そう言われたからずっとそうしてきた。言った本人は憶えているのかな。きっと忘れているだろう。

 あたしはショートボブを選んだ。こんなに短くしたのはいつぶりだろう。一人で照れた。

 色はメロンにちなんで、メロン色に近い緑色にした。頭がメロンに見えた。少し気持ちも明るくなれる気がする。

「ではこれを」

 目の前に急に一冊の本のようなものが浮かび出した。

「あなたの旅の日記帳です。それではいってらっしゃいませ」

 あたしの体が白い光のさらに先へ吸い込まれる。

 

 まず鳥の鳴き声が聞こえ、次に視界が現れた。あたし自身がゲームの世界にいる。

 たくさんのプレイヤーがそこにはいた。いったいどうやってゲームを進めていけばいいのだろう。

 腕や足を見ると、ゆったりとした上下の布の服だった。腰には小さな箱がぶら下がっている。

 あたしは畑仕事をしているおじいさんに話しかけてみた。

「あの~すみません。ここはどこですか?」

 おじいさんは鍬の手を休め、曲がった腰をのばし、首に下げたタオルで額をぬぐい

「え? ここ? ここはラーンの村だよ」

 と言ってまた畑を耕し始めた。曇り空だった。犬が走り回っていた。

 ラーンの村か。

 それからあたしは村長さんのところへ行き、『ムーンフラワー』をとってきてくれと頼まれた。村長からいただいたゴールドは腰の箱の中に入れた。

「お姉さん、ちょっとそこのお姉さん」

 声のほうを見ると、武器屋のおじさんがあたしのほうを見ている。

「え? あたし?」

「そう。メロン頭のあなた。あなただよ」

 そっか。あたしはメロン頭だった。

「お姉さん、ここで少し武器をそろえたほうがいいぞ。外にはウジャウジャ敵がいるからな」

 そう言われ、あたしは一度『こん棒』を手に取ってみたけど重かったから『木の棒』を買った。

「まいどあり。それとお姉さん、道具屋にも寄ってったほうがいいよ」

 そう言われたけど、それよりもそばを流れる小川を見てみたいと思った。

 小川はとても穏やかな音を立ててゆっくりと流れていた。手で水をすくってみる。とても冷たかった。魚はいなかったけど、どこか懐かしさを感じた。

 どこからかちぎれた葉っぱが流されてきて、あたしの前を通り過ぎていく。ポツリポツリと雨が降り出した。


 あたしは外に出てみた。BGMが変化し、壮大な草原が広がっていた。プレイヤーたちがあちこちで敵と戦っている。

 あたしは怖かったので少し他の人の戦闘を見物してみることにした。みんな果敢に戦っている。緑色をしたぷよぷよした敵と戦っている。

「うわっ」

 そのときそばで声がした。見てみると一人の男性が尻もちをつき、緑色の敵が襲いかかろうとしていた。敵に体当たりされた男性は背中を地面に打ち、顔をしかめていた。

 どうしよう。あたしも加勢したほうがいいかな。

 すると男性は雨で滑ったのか、手にしたこん棒を放った。こん棒は草むらを転がりやがて止まった。男性はその場で動かなかった。

 どんな男性かも知らないし、声をかける勇気もなかった。でも。

 あたしは落ちたこん棒を拾い、男性のそばへ寄った。勇気を出す。明るく言うんだ、明るく。

「大丈夫? はい、これ」

 ため口になってしまった。男性の頭の上に『かろり』とあった。


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