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殺戮少女の召喚士  作者: 閑話休題
8/12

8話 火蓋

「それで、話ってなんだ?」


昼休み。普通なら昼食を食べているはずの時間だが、圭と陽介と千夜の三人は屋上にいた。昼ご飯を食べるためではない。


「シークレット。能力を解除していいぞ。」

「・・・シークレット?」


合図とともにシークレットは目を閉じて二人に手をかざし始める。その途端、二人が突然驚きの声を上げる。


「っておいおいおい!!!どこから現れたんだよその少女は!!?」

「圭、もしかして。誘拐とかしてないわよね?相談ってまさか・・・。」


なんか好き放題二人が言っているが、気にしないで説明することにする。

昨晩あった出来事。この少女は何者か。そして鏡の世界とは。自分たちの知っている情報を全て話した。


「・・・にわかには信じられないけどな。」

「でも信じるしかないでしょ。たしかにこの子日本人に見えないしね。」


と言って千夜は屈めてじっくりとシークレットの顔を見つめている。その目はなんだか輝いているように見える。


「・・・圭さん。この人なんか怖いです!」

「なーんーでーよー!!ああ。可愛い。こんな子が妹にいれば・・・!!」


と言って満面の笑みでシークレットの頬をつねったり引っ張ったりしている。思うがままにされているシークレットは乾いた笑顔で笑っている。


「漆原が姉は、最悪だな。」

「宝条、なんか言った?」

「いえ。何も。」

「ならよろしい。よろしくね、シークレットちゃん。」

「よろしくお願いします。漆原さん。」


そのあまりの打ち解ける速さに少し圭は驚いた。正直もっと困惑すると思っていた。


「何不思議そうな顔してんのよ。」

「いや、まあ。こうもあっさり信じてくれるものかと思ってな。」

「圭じゃなかったら俺らも信じてねーよ。」

「そうそう。圭がふざけてこんなこと言う性格じゃないってことは昔から知ってるし。」


俺だから、信じる。

ここ数年、そんな言葉聞かなかったな。


「ところで、シークレットはどうやってこの世界に来たんだ?」

「ゲートを通ってきたんです。」

「ゲート?その鏡の世界とこの世界を繋ぐ、そういうのがあるの?」

「はい。私がこの世界に来た時はちょうどこの学園の屋上から来ました。」

「おいおい、ほんとにちょうどじゃねーか。」


今四人がいるまさにここがゲートのある場所だったとは。しかし特にそれらしいものは見当たらない。


「ゲートはあちらの世界からしか開通出来ないんです。」

「つまり、次ゲートが開く時は・・・」

「はい。敵が鏡の世界からこの世界へ来る時です。」

「そりゃ好都合じゃねーか?俺らが学園内に居る時は対応できるし。そもそも学園内は強力な召喚士も数多く居る。シークレットを守るにはこれ以上ないほど好都合じゃねーか。」

「たしかに。それもそうだな。」

「と言っても、流石にここに置いていく訳にも行かないしね。どこにスパイがいるかも分からないし。」


朝からシークレットも言っていたが、スパイの存在。つまり鏡の世界の連中とこちらの世界のやつが手を組んでいたとしたら。もしそいつらがシークレットを狙うとしたら。いつどこに敵がいるかわからない。用心した方がいいだろう。


「まぁ、とにかくシークレットちゃんはこの三人で守る。っていうことね。そういうことなら任せて!私は頼りになるわよ。」

「っておいおい。俺もいるからな!」

「あんたはその前にアニマの召喚方法でも学びなさいな。」

「千夜の言う通りだな。」

「ぐぬぬ、圭まで・・・。」


予定ではもっとかかるはずだったが。早めに終わったため俺ら三人は昼食をとることにした。



━━━━━━━━━━━━━━━


「ただいまより、総合武術格闘術の授業を始める。」


場所は入学式が行われた実技堂。いわば体育館である。しかしその壁には防音加工、耐衝撃加工がされておりアニマでの模擬戦もすることが可能である。普段は授業で使われる。授業は基本的に男女混合で行う。そしてちょうど今も授業中というわけである。皆体育着を着用している。


「なぁ、圭。なんで格闘術なんて人間用の技術なんて習うんだ?アニマに関係ないだろ。」

「そんなことない。アニマの戦闘技術にかなり影響してくるぞ。アニマはその召喚士のイメージで成り立ってる。動作を理解してないと思うような戦闘は出来ないからな。」

「剣道なら中学までやってたんだけどな。総合格闘術、ってのは初めてだ。」

「まあ、空手とかボクシングとか合気道みたいな近接格闘術の総称だ。」

「やけに詳しいな。習ってたのか?」

「・・・いや。俺も基本的には初めてだ。」


そうか、と言って陽介はまた教師の話を聞き始める。最初の総合武術格闘術の授業ということもあり、まだ初歩的な内容だった。

淡々と格闘の基本や組手の仕方などを聞いて自分で動いて学んでいく。しかし教師の教え方が良いのか、皆すぐに上達していった。


「では、今の型を二人ペアになってやってみろ。一人は相手に向かって突進して右手で打突。もう一人はそれを右に受け流していけ。ペアは番号順だ。はじめ!!」


クラスの生徒達はそれぞれ決まった相手と型の反復練習を始める。圭のペアは陽介である。

最初は陽介が攻め、圭が守りだった。陽介は手加減の様子もなく本気で胴体目掛けて殴ってくる。それを教師に言われた通り右に受け流す。


「やるなぁ圭。結構本気で殴っちまったって思ったんだけどな。」

「さすが、運動神経はいいようだな。」

「一応な。中学でも運動系の表彰とかは結構されてたぜ?俺の唯一の取り柄だ。」


そう言って、引き続き練習する。気合いが入っているのか、陽介は右手に留まらず左手も使って連撃を繰り出してくる。

それを圭は右手でいなしていく。


「すげぇ身の子なしだな、こんなにも当たらないもんか・・・。」

「結構、惜しかったよ。」

「調子乗りやがって。次は当ててやるぜ。」


すると、女子の方から歓声が上がるのがわかった。その歓声の中心にいるのは、誰でもない漆原千夜である。

千夜も同様にペアの生徒の連撃を華麗に受け流していく。


「相手の方もかなりスピードのある攻めだが、それ以上に漆原がすげぇな・・・。」

「あいつは昔から親から空手を仕込まれてるからな。並大抵のやつじゃ相手にもなんないだろうな。」


すると見事相手の攻撃をかわし終えた千夜がこちらを見るなり手を振ってくる。


「おーい、圭!久々にやらない?」

「勘弁しろよ、俺がお前に攻撃を当てられも、かわすことも出来ねーよ。」

「お前ら、昔からの知り合いだったよな?格闘技とか二人でやってたのか?」

「ああ。勝てたこと無かったけどな。」

「おいおい、まじかよ。」


そう。昔から俺ら二人はよく格闘技で勝負していた。しかし昔から千夜はとてつもない技術で、一度も俺は勝ったことがなかった。負けるたび泣いてたのは懐かしい思い出である。


「圭さん。なんだかトラブルみたいですよ。」


実技堂の隅で座っていたはずのシークレットが、いつの間にか近づいてきて話しかけてくる。トラブル・・・?

すると男子の方でなにやら激しい罵倒が飛び交っている。どうやら喧嘩のようだ。


「おい、ちゃんと周り見ろよ!危ねーだろーが!!こいつも怪我してんだろーが。謝れよ!!」

「うるせーな!仕方ねーだろ。だいたい見てないのはそっちも同じだろーが!!」

「なんだと・・・!!」


男子生徒二人が今にも飛びかかりそうな勢いで睨み合っている。怪我人も出ているようだ。


「おいおい、しょーもねーなー。教師は止めないのかよ?」


教師の方に目をやると、目をつぶっている。寝ている訳ではなく、まさにノータッチといった様子である。生徒間の問題は生徒で解決しろ、ということなのか。


そうしている間にも胸ぐらをつかみ合う二人。本当に殴り合いが起こりそうである。


「おい、止めねーとまずくねーか?」

「・・・仕方ないな。」


と言って止めようとした時だった。喧嘩している生徒の一方が、もう一方に向かって殴り掛かる。そして刹那。一人の生徒が間に割り込んでくる。その生徒は殴り掛かるその腕と胸ぐらをつかみ、そのままその生徒を投げ飛ばす。見事な背負い投げである。

ぐあっ、と言ってその生徒は地面に叩きつけられる。

その投げ飛ばし、仲裁に入った生徒。それは寮王であった。


「おい、いい加減にしろ。」

「・・・くっそ。覚えとけよ。」

「そっちこそ!っ痛ってえな・・・。」


どうやらその圧倒的な仲裁者との自分の実力差を間近で見て、戦意を喪失したのだろう。そのまま喧嘩は終了した。


「すっげ。柔道か?」

「だろうな。あいつも子供の頃から習ってたんだろうな。」


すると、寮王はこちらを見るなり睨みつけ始める。こちら、というより紛れもなく俺自身である。


「おい、出雲。さっきから見てたがなんだその受け流しは。真面目にやってんのか?」


急になんだと思ったが、正直自分にも思い当たる節がある。そう簡単にはバレないと思ったが、寮王にはお見通しだったようだ。


「言いがかりだな。そもそも急になんだ。何が言いたい?」

「お前のそのかわし方。明らかに経験者の動作だ。それもかなりの実力があるな。お前本当の力を隠してるだろ。」

「思い違いだ。買いかぶるな。」


そう言って圭は適当にあしらおうとする。しかし寮王はなかなか引き下がらない。


「本当は実力があるのに、それを隠すのは愚か者のする行為だ。」

「愚か者だろうがなんだろうが、どうでもいい。しつこいぞ。」

「・・・勝負だ。」

「・・・は?」


一瞬聞き間違えかと思ったが、そうでも無いらしい。

寮王ははっきりと俺に指を指し睨みつけてくる。そしてもう一度はっきりと言った。


「勝負だ、出雲圭!!」

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