なんでも解決!一つ目小僧!
「シャー…」
みずちが何やら悩ましげな表情で歩いているところを、ろくろ首が偶然見つけて声をかけました。
「どうしたんだい?みずち。怪訝そうな顔をして」
「シャー。ろくろ首か。ちょっと良く分からないことがあってな」
「良く分からない事?何だいそれ?」
「シャー。先日、水の妖怪の会合があったんだよ。そこで、船幽霊がな。あ、知ってるか?船幽霊」
「あぁ、あの水面から手だけが出てきて、海に投げ込まれたモノを使って船を沈めるとか言うけっこう怖い妖怪だろ?」
「シャー。そうそう。水難事故で死んだヤツラの怨念から生まれた妖怪なんだけどな。ソイツが、いい歳して顔中をボコボコにして『やり過ぎはアカン!』とか言ってたんだよ。詳しく聞こうとしても曖昧に言葉を濁すだけで何も語らないしな」
「顔!?いや、まず顔があるのかい?船幽霊に!?」
ろくろ首がまるで『嘘おっしゃい!』とでも言いたそうな顔をして驚いてます。
「シャー?え?そりゃそうだろ?手だけ水面に出して、残りは水の中に入ってるし。元は人間の怨念だぜ?人型しててもおかしくないだろ?」
「いや…まぁ、そう言われればそうなんだけどね…」
どうやら、納得出来るけど納得出来ないようですね。
と、そこに満面の笑みをした一つ目小僧がやってきました。
「や!お二人さん!渋い顔してどうしたんだ?俺に話してみろよ。解決してやるぜ!」
「何だい?藪から棒に…」
「シャー。なんで機嫌が良さそうなんだよ?そもそも、お前に相談とか恐ろしすぎて出来るかよ」
二人ともひどい言い方です。
ですが、それに特に気にした風もなく、一つ目小僧が答えます。
「おいおい、ひどいなぁ。俺、相談に乗るの得意なんだぜ?」
「「嘘つけ!」」
「嘘って…さすがにヒドイな…。ところでどうしたんだよ?」
「シャー。この前、船幽霊がボコボコにされててな」
「え?あのオッサン、今度は何をやらかしたんだよ…」
「ちょっと待っておくれ!え?船幽霊ってオッサンなのかい?」
新たな情報にろくろ首は少し混乱し始めたみたいです。
「ああ。この前船幽霊に会ったんだけど、めっちゃ普通のオッサンだったぜ?」
「あぁ…なんか、これまでの船幽霊のイメージが…」
さらりと現実を知って、ろくろ首はうなだれてしまったようですね。
「シャー。なんだ、一つ目小僧も船幽霊に会ったのか?」
「おう!この前、海に釣りに出かけたら、防波堤で背中が煤けているオッサンがいてさ。声をかけたらまさかの船幽霊だった」
「シャー。なんだよ、ボコボコになる前は落ち込んでたのか?」
「それでさ、話を聞いてみたら、何か悩んでるみたいでさ。そこで、俺が相談に乗ってやったんだぜ!」
「「あぁ…なんか嫌な予感が…」」
みずちとろくろ首は若干の不安を感じている様です。
「安心しろって!ちゃんと解決したし!」
「シャー。いや、それが逆に不安なんだよ」
「ちょいと、何の話をしたのか言ってみなよ?」
みずちとろくろ首は、話の続きを促します。
「いやな、あのオッサンって、穴の開いた柄杓を海に投げ込まれると、その柄杓を使わなきゃいけないから永遠と無駄な事をしなきゃいけないだろ?」
「シャー。まあそうだな。人間にとってはそう言う対処法が普通だし」
「オッサンも言ってたけど、穴の開いた柄杓に水を入れようとしたら、水の抵抗とか重さとかで、水が入っていない事が分かるじゃん?」
「まぁそうだね…」
「で、オッサンも気付く訳よ。『あ、穴あきの柄杓だ…』って」
「シャー。それがどうしたんだ?」
「いや、妖怪のルールだから仕方ないけど、オッサンとしては穴の開いた柄杓で永遠と船に水を入れるフリをする作業をしなきゃダメじゃん?ツラくない?」
「あぁ…確かに意味のないと分かり切った事を永遠とやらされるのは心にクるねぇ…」
永遠と穴を掘って、それを埋めるのを繰り返すと言う拷問があるらしいのですが、そんな感じでしょうか?
「だろ?なんかそれで、オッサンも『意味が無さ過ぎて疲れた…』って言ってたのよ」
「シャー。それで、背中が煤けてたのか…」
「で、俺がその悩みを解決したってわけよ!」
「「あぁ…ここで、お前が登場するのね…」」
「俺がバシっと言ってやったのよ!『じゃあさ、手のひらで柄杓の底の代わりをして、それで船に水を入れて行けばいいじゃん!』って」
「「…はぁ?」」
「柄杓の底を手のひらに当てて、指で柄杓の周りを持つようにすれば、水を掬える様になるだろ?」
「いや…まぁ…そうだけどね…」
「そしたら、無駄な作業じゃなくて、船を沈めるって意味のある行為になるじゃん!」
「シャー。そりゃそうだが…」
「だろ?そしたら、オッサンも『そうか!その手があった!』とか言いながら元気になったんだよ!俺、すごくね?」
「人間にしてみたら、対処法が一つ潰された様なもんだけどねぇ…」
「シャー。俺、一つ分かった事があるわ…」
「なんだい?」
「船幽霊が『やり過ぎは良くない』って言ってただろ?コイツのせいじゃね?」
「あぁ…」
「え?何が?どうしたんだ?俺を褒めてくれてもいいんだぜ?」
「「この、(一つ目小僧の)アホ!!!」」
「えぇ…?」
*****
(船幽霊が一つ目小僧と話をした数日後…)
とある海上にて…
「ギャー!なんで船幽霊に穴あき柄杓を渡したのに船に水を入れられるんだよ!!助けてくれー!」
『むふふ…驚いてる、驚いてる…』
「あぁ…もうダメだ…ブクブクブク…」
『あー!遣り甲斐がある!』
と、楽しそうに笑っている船幽霊の後ろに誰かがやって来ました。
「…おい」
『あん?なんだよ煩いなぁ!』
船幽霊は振り向かず、声を無視します。
「おい!」
『何だよ!』
とうとう鬱陶しくなった船幽霊が振り向いた先にいたのは…
「船幽霊。すごく楽しそうだな?詳しく話を聞こうか?」
「ひぃぃぃ!」
にっこりと笑っていて(ただし、目は笑っていない)、船幽霊の方にポンと手を置く不動明王さんがいました。
「ちょっと、あっちでお話(物理)をしようか?」
「あ、その…実はこれには深い訳が…」
「黙れ」
「…はい」
やり過ぎは良くないという事を痛感した船幽霊でした
おしまい




