表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

第1話 「あたしと手を組まない?」

挿絵(By みてみん)

「ビャッコがやられたようだな……」

「フフフ……奴は四天王の中でも最弱……」

「人間ごときに負けるとは魔族の面汚しよ……」



「オラはまだ戦えるにゃ! フシャー!」


 威勢(いせい)の良い叫び声が響き渡る。

 しかし雄々しく立ち上がった姿は、誰からも見られることはないようだ。それもそのはず。


「……にゃお? 夢だった……にゃ?」


 マヌケ顔でヨダレを垂らしているのは一匹の虎。

 新雪(しんせつ)のような白い毛をした、雄牛(おうし)三頭分ほどはあろうかという巨大な虎である。


 彼の名はビャッコ。


 (ほま)れ高き魔王直属の四天王であり、数多(あまた)の魔物を率いる身分高き大ボスだ。

 しかしその実力においては、他の四天王の足元にも及ばないくらい圧倒的な弱さだった。


「にゃごご、いつの間にか寝ちまったにゃ。空がもう真っ暗にゃん」


 眠気を覚ますように身体(からだ)をフリフリ揺らすと、体毛に付着した(わら)がパラパラ落ちてきた。

 ぐぐーっと気持ち良く伸びをして、全身を大きくしならせる。


「あいっ!」


 ピリリとした痛みと共に、テンションのかかった左の脇腹から赤い液体がピュッと吹き出す。


「イタタ~、どうも傷口が開いちゃったみたいにゃご……。ううう、また血が出ちゃったのにゃ〜。……ペロペロ」


 身体を丸くしてその源泉を(なぐさ)めてやる。

 全身にジワジワと疼痛(とうつう)が広がり、寝ぼけた頭が少しずつクリアになっていく。

 ビャッコは起き抜けの脳をゆっくりと回転させながら、今日の戦いを思い返していた。


「んにゃぁ、今日も近寄ることすらできずに負けちゃったにゃ……。人間たちに負けたのはこれでもう三日連続かにゃ。うーむ無様(ぶざま)、にゃんて無様(ぶざま)にゃ有様(ありさま)にゃお。もうオラ、(にゃさ)けにゃくって魔王さまに合わせる顔がにゃいのにゃ……」


 その顔を前足でグリグリと洗いながら、ケモノ(くさ)い馬小屋の中でゴロゴロと寝返りをうつ。

 負けた時いつもここに逃げてくるのは、この(にお)いが傷ついた心を慰めてくれるからだろう。

 誰からも干渉(かんしょう)されない一匹だけの空間で、ブツブツと独り言を呟くのが日課になりつつあった。


「ふにゃぁ〜ご、もうここから動きたくにゃいにゃ〜」


 四天王らしからぬふがいない言葉の数々が、馬小屋から夜の(みやこ)に漏れ出ている。

 この都には、賑やかな喧騒(けんそう)も、行き交う人々の(いとな)みも、もう存在しない。

 魔王軍によって占領(せんりょう)され、ただ暗闇と静寂(せいじゃく)だけが都全体を(おお)っていた。

 ビャッコは酔っ払いのようにヘソを天井に向けながら、ぼんやりと雲を透過する月明かりを眺めつぶやく。


「……静かにゃ。とても静かにゃ夜にゃ。風もにゃくって、虫の鳴き声が遠くに聴こえるにゃ。……それでも明日の今ごろにゃあきっと、あの人間たちがここまで攻め入って来て騒がしくにゃるだろにゃ……。魔王さま、それか他の四天王に助けてもらわにゃあ、都の中心の魔王城まで一気に攻め込まれてしまうかも。ん~ごろごろ……」


 敗走に次ぐ敗走。ビャッコは追い詰められていた。

 手下の魔物はほとんどやられてしまい、手負いのものも多い。

 戦意でさえ風前(ふうぜん)(ともしび)。再び人間たちと戦ったとしても勝ち目は皆無(かいむ)だろう。

 容易に予見(よけん)できる未来の危機がビャッコを奮い立たせることはなく、現在進行形で走る傷の痛みがますますネガティブにさせる。


「でも他の四天王に助けを()いでもすりゃあ……、んにゃ、きっとその瞬間にオラはポイっと殺されちゃうにゃ。そんにゃ(にゃさ)けにゃい死に方はゴメンだにゃ。かといってこのまま攻め込まれて城に逃げ込んでもきっと……」


 魔王の根城(ねじろ)にまで侵攻を許し逃げ込んで来るような大ボスを、周りが生かしてくれるとは到底考えられない。

 退路(たいろ)には死に方を選べる環境なぞあり得ないのだと、ビャッコは確信しつつあった。

 そんなビャッコの顔には(くや)しさの色も悲哀(ひあい)の色も(にじ)んでいない。

 

「みんにゃにガッカリされて殺されちゃうくらいにゃら……。うーむ、……にゃごご」


 しばしの沈黙。

 外から吹き込む(かす)かなそよ風が、ビャッコの白毛をやさしく()でた。

 

 ビャッコはもそもそと身体を起こし、力なく気怠(けだる)い様子で丸くなる。

 その体勢のまま肺に深く空気を取り込み、大きな鼻からプフーッと長く吹き出す。


「明日……残る戦力を尽くして、特攻するしかにゃい……か……」


 ビャッコの目には希望の光は無い。

 殺されることを覚悟した羊のような目だった。



()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()



「だっ! 誰にャッ⁉︎」


 ゾワワッ! 完全に意想外(いそうがい)の声に全身の毛が逆立つ。

 大きな牙と爪を剥き出しにし臨戦態勢(りんせんたいせい)

 暗闇の中の声の主にジッと目を凝らす。


 邪気(じゃき)のない、子供のような声がした。

 居るはずがない。生きているはずがない。

 この都の人間はたしかに、魔王さまが全滅させた。


 肉球と鼻の頭が、じわりと汗で湿り出す。

 心臓の鼓動(こどう)が静けさにこだまする。


 (こら)え切れずビャッコが声を荒げようとする、その刹那(せつな)、雲の隙間から覗き込むわずかな月光が、馬小屋の中を淡く照らした。


「あたしと手を組まない? キミの戦い、勝たせてあげるよ」


 幼い顔立ちの、白い髪の少女がそこにいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ