呪われた血の王女の恋
シリアス気味です。
マリアンジェラ・ベネーヴォリ今年で15歳リッチイ王国の第二王女。
例外などなく今年婚約者が決まる。
――はず。
私の場合はちょっと特殊な為、自分で選べる立場になったのだけど…。
どこにも決められる要素がない。
あ、言っておきますけど、流石は第二王女と言うだけあって、自分で褒めるのも何ですけど容姿はいいんですのよ?
出てるところは出てるし、ウエストは侍女の努力でくびれてるし、それなりに身なりを整えられる環境にいるから、肌も綺麗だ。
じゃあ、何が問題なのかって?
それは…
「マリア、あれはダメだよ。この間娼館に入っていくの見たし」
「娼館ぐらいいいじゃないか。だが、あいつは確かにダメだ。あの息子大好き母親がもれなく付いてくるとか、マリアが苦労する」
「ああ、それはダメだね。じゃあ、こいつは?」
「これ、腹の中真っ黒だぞ」
「…それ、放置はまずくないか?」
「よし!真っ黒なわけを探るぞ!」
人の婚約候補に常にケチをつけている若き王の兄と宰相の兄二人と、真っ黒だと言った背後の男のせいだ。
『エドヴァルド・ニューストレム』太古の昔この国を救った英雄。幾つもの物語となって出てくる人で、リッチイ王国の者なら知らない者はいない。王よりも有名な男だ。
それが英霊となって、マリアの背後霊宜しくついて回っている。
わかっている。エドが黒と言えば、本当に黒なのだ。
英霊という崇高な魂のせいか、その者の本質を見ることが出来る。そのお陰で私は何度も助かっているのだから、婚約者候補にケチをつけるというのは、とても有り難いことなのだ。
だけど魂に一欠片も濁りがない人なんて居るのだろうか。もし居るのなら、その人を仙人と呼んであげよう。
死ぬ間際に悟った人ぐらいしか、エドのお眼鏡に適う人は居ない気がする。
――ということは!私は一生独身?!
いやいや、それはやめて!
せめて、恋ぐらいしたい。
エドが生きていたら、私の理想その者なんだけどね。
――無い物ねだりね。
分かっている。
私には恋に焦がれている時間も、あなたの魂を救う時間も、残されていない。
ねえ、エド。
どうしてあの時、私を選んだの?
こうなること、わかっていたのに。
私がエドと呼んでいるエドヴァルドとの出会いは、ショッキングな事件だった。
「へえ、この国の貴族は王族を殺すのか」
貴族に頼まれた暗殺者に短剣を突き立てられ、殺されそうになっていた時だった。
その時居た3人を次々と倒し捕縛すると、遅れてやって来た衛兵をしかり飛ばした。
今この国は荒れている。父である国王が生きている間はそれでも押さえられていた。だけど過労による病死により、王太子である兄が21歳という若さで継ぐことになった。その日から、何処の誰かわからない隠し子が多数出てきたり、私に自称婚約者が何人も押し寄せてきた。
馬鹿にするのもほどほどにして欲しい。
だけどそれがまかり通るぐらいは王族の力が弱まり、貴族の力が強くなりすぎたのだ。
そして、それは国外にも言える。
国力を落とし始めたこの国を狙い、国王となった兄に送り込まれてくる美姫達。
私を王太子妃にと優男が送り込まれてくる。
そんな魑魅魍魎が跋扈する夜会での出来事だった。
そんな注目の中、エドは私を守るように皆の前で騎士の誓いを述べた。
「我はエドヴァルド・ニューストレム。マリアンジェラ・ベネーヴォリを主とし守護することを宣言する」
英霊が誓いを立てたのが王家でなく、マリアンジェラ個人。ということが更に色々と拍車をかけたが、そんなことはエドが集るハエを追い払うように、切り捨てた。
そして暗殺者を雇った犯人はすぐに見つけられた。
暗殺者を雇ったのは国を牛耳りたい前国王の従兄である伯爵。
繋がりはどこにも分からないように巧妙に証拠を消されていたが、英霊には関係なかった。
全ての関係者の名を告げ、どのようなつながりがあるかを全て述べたのだ。
それにより余罪も判明し、関わった一族の身分を剥奪し犯罪人として全員処刑された。
魂に刻まれた悪事はエドには隠しようがないということが、国内外ともに一気に広まった。
そのお陰で表向きは静かになった。
だからって魅力的な王妃の座や私で甘い兄を操ろうと私に媚びを売る男達が減るわけじゃない。
母は父よりも先に3年前に病死しているし、頼れるのは二人の兄そしてエドだけだ。
お互いが支え合っていくしか生きていけないのなら、シスコン、ブラコンになっても仕方ないことだと思う。
もしエドが英霊じゃなくて普通の生きている騎士だったら惚れると思わない?
だけど彼は私の頭を撫でることも、抱きしめることも霊力で象れば出来るけれど、温もりは与えてくれない。
鎧の奥から私を見る眼差しは熱さを伝えてくるのに、感じるのは冷たい金属の鎧だけ。
寂しい…
そして、そう漏らす声を黙って聞いているだけなのだ。
この不毛の恋に、いつ終止符が打てるのだろうか?
多分、無理ね。
それでも私は誰かと結婚しなければならない。
だから文句は言いながらも、兄もエドも探しているのだ。
私にかけられている血の呪いは、誰にも解けない。だって、このままでは18歳の誕生日までに相手を見つけるなんて無理に決まっている。
実体のないものと契るどころか、生身で手を握ることさえ出来ない。
だったら誰でも同じよね?
だから決めたの。
「お兄様、私アイン王国に嫁ごうと思います」
三人の動きが止まった。
「もう、話は付いているの。だから、ありがとう」
「マリア!」
「2年半以内、そう私が18歳になるまでに婚姻をしていなければ、この国は亡くなるのでしょ?」
「うーん、今更オブラートに包んでもしかない。正しくは、愛する者と契れですよね」
「何故、それを…」
「自分の身体に流れている血のことです。荒れ狂う血の高鳴りは、誤魔化せない。男狂いになるか、血を欲するか。どちらも破滅しかありませんね」
「だから、この国を出て行くのか」
「リッチイ王国の王女として生まれてきた定め。だから少しでも恋が出来そうな相手を条件で選んだのです。国にとっても、私にとっても、一番良い相手。違いますか?」
出来ればエド、あなたの腕の中で死に絶えたかった。それが一番の幸せだと思うから。
だけど、英霊であるあなたは、私を殺すことも生かすこともできない。ただ18歳まで死なないように守ることしか出来ない。
誰かが言った。
淫乱姫を貰ってやるというのだ、有り難く思え。
その言葉で血が滾って逆に殺しそうになった。エドが逆に私から男を守ることになったのだ。
その日、私は決めた。
もう、終わりにしようと。
「大丈夫です。私に価値がある限り、あの王子は殺さない。愛人も沢山居るぐらいですし、きっと血を抑えてくれるでしょ。価値がなくなれば、手にかけることも厭わないでしょう。だから、決めました」
エド、結局なにも言ってくれないのね。
もしかしたら…なんて、夢も見させてくれなかった。
優しくて冷たい人。
彼の魂が私で満たされたのかも?と思ったのは、やっぱり都合の良い夢だった、か。
勝手に好きになって酷い言いぐさだと思うけれど、恋はいつだって理不尽の塊。
それにアイン王国の王太子も私と同じような苦しみを持っている。
だから私との取引は、悪くなかったはずだ。
アイン王国は王族に魔力を持った者が生まれたことから不幸と同時に大きくなっていた。
その後生まれてくる子供達に魔力を要した者は、王族にしか現れなかったのだ。大国となった国を保つため、国は禁断の道へと進んだ。
その為国は守られてきたが、その後血が濃すぎて子が生まれなくなった。他の血を取り入れながらも試行錯誤していくが、血は限界に達していた。
やっと生まれた王太子にはある意味呪いが掛かっていた。どんな薬や秘技を使っても男として機能しなくなっていた。沢山の美姫を抱えても、一向に改善されていない。
唯一反応するのは腹違いの妹だけ。
自分の血を呪った王太子は自分でこの血を終わらせることすら考えていた。
妹と供に、死を迎えることは至高のものだとさえ思っていた。
そんな時、マリアから契約を持ちかけられた。
自分の狂った血を鎮めて欲しい。
アイン王国の王太子ミゲルは同じように血で苦しむ王女を同志として迎えることにした。
最愛の妹を殺さなくても良い。それは歓喜と絶望両方を与えたが、こんな穢れた血でも救える者がいるならばと、思ったのも事実だ。
そして二人は期限を設けた。
マリアが狂う18歳まで一緒に居ようと。
狂った後は二人してこの世を去ることを盟約にして、二人の婚姻はなされた。
そして運命のマリア18歳。
「ねえミゲル、こんなに静かな気持ちで誕生日を迎えられるとは、思ってもみなかったわ」
「僕もそう思うよ。僕たちは同志として運命共同体だったけれど、これからは夫婦として歩んでいこう」
マリアのお腹の中には、新しい生命が宿っていた。
お互いに傷の舐めあいだった関係は、ゆっくりと愛へと消化されていた。
マリアが置き去りにしてきた英霊エドがどうしているのかはわからない。どれだけの力を擁していていても、あの地から離れられない呪縛がある。もしかしたら、アイン王国の妹を娶った次兄の子供が女の子だと言うし、それを見守っているのかもしれない。
エド、あなたは直接の幸せを与えてはくれなかったけれど、今をくれてありがとう。
あなたの魂がいつか満たされて、天に召されるか人間に戻れる事を祈るわ。
狂った血がなければ、私は…。
――いいえ、もう過去のこと。
さよなら、エド。私の英雄。
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「ねえ、エド!聞いてる?」
「聞いてますよ。私の小さなレディ」
「待っててね!絶対にアイン王国に嫁いだ曾お婆様よりも美人になるんだから!」
コメディが書きたかったのだけど、何故かシリアス気味に。
色々突っ込みどころ満載ですが、ご容赦を。