赤いドレスの直子
塚田と話し電話を切ると、どうしても気になる場所を思いついた「なぁ、弥竹、俺、出掛けるわ」弥竹は「谷口君1人は危険です 、私も行きますよ!」俺達は互いに頷き1階へと向かった「母さん悪いけれど、父さんの車借りるね」母さんは仏壇の前で手を合わせていた。鍵は玄関のキーボックスにあると知っていたので、リビングを抜け玄関へ向かう「待ちなさい …」えっ?呼び止める母さんの声が何時もと違う … エコーをかけたように、声色が重なる「誰?」俺と弥竹は、顔を見合せ首を傾げた。声色のおかしい母さんを確めにリビングへ戻ると、母さんは、振り返りもせずに「家族が亡くな ったばかりだって言うのに、何処に行く気 ?そんな事で、あんたの変わりに死んだ2人が 、成仏できると思 っているのかい… 全部、あんたのせいなんだ!」母さんの様子が明かに変だ、それに俺のせい って?「母さん、どうしたんだよ突然 …」母さんは俺達を見ようと もせず、泣いているのか、肩を小刻みに震わせ、ブツブツと独り言を話し始めた。弥竹は何かを感じたのか、胸のポケットから数珠を取り出し、小声で経をあげ始めた。俺は母さんと話しをしようと 、正面に周り「母さん?なっ!何してんだよ !!」母さんはブツブツ言いながら、裁ち鋏を使い、自分の左腕を、抉るように傷付けていた「弥竹!タオルか何か持 って来て!」慌てて母さんかの手から鋏を取り上げた。母さんの腕から、ドクドクと流れる血液は 、鮮やかに赤く 、生暖かく て、ほんの一瞬、美しいと感じたんだ。弥竹はタオルを渡すと、直ぐに救急車を呼び 、俺は、母さんの腕から流れる血を止めなければと、必至に拭きながら、上腕の止血をしていた「舐メタイ…」誰かが心の中で囁いた。止血が上手くいき、血液の流れが落ち着くと、母さんの腕の鋏傷から「呪」の文字とデビルスターの模様が浮かびあが った「呪 … 」俺が呟いた直後、デビルスタ ーの模様と呪の文字が火を吹くように、鮮血をを噴き上げた「何故だ …」噴き上がる血液は、やはり美しく、俺の鼓動を昂らせた「弥竹ニ気ヅカレテハイケナイ … 」心の声が呟く 、俺は、母さんの腕に浮かんだ、模様と文字の上にタオルを充て、強く抑えていた。間もなく、救急隊員がや って来て、母さんと一緒に、救急車に乗り込み病院へ急ぐ、弥竹は、何故か厳しい顔をして「私は、清掃をしてから病院へ向かいます 。必ず病院にいて下さいね … 」念を押すように言った。弥竹に自宅の鍵を渡し「 病院着いたら電話するから!」弥竹は、厳しい顔のまま頷いた。救急車の中では 、当たり前だけれど、救命処置を行う、俺は、生暖かい鮮血が忘れられず、血を舐めまわす自分を想像し、陶酔していた。救急隊員が「息子さん、お母さん、血液が止まりずらいとか、薬を服用されているとか聞いてませんか? 」怒鳴るように聞かれ「 いえ、何も聞いていません…」救急隊員は首を傾げ「 血が止まらないんですよ…」困惑しながら処置を続けたが、噴き上げるように、流れる血液を止める事はできず、母さんは昏睡状態で、病院に運ばれた。出来れば、二度と行きたくは無かったが、守谷総合病院が家から一番近い、俺の心情がどうであれ、今は一刻を争う時、救急隊員の搬送先に従った。 救急車が到着すると、ナース達がバタバタと駆け寄り、母さんは、直ぐに手術室へ運ばれた。俺は、手術室の前に置かれたベンチに腰を降ろし、思考を巡らせる 、母さんの腕に浮かんだデビルスターと呪の文字「あんたのせいで死んだ!」母さんの言葉、弥竹の厳しい顔つき、赤いドレスの女の泣き顔、父さんの死、惨殺された妹 と、妹を殺した人魚好きの変態、イエスの「手を貸して下さい」の意味、そして何より、俺の中に潜む獣の存在 … どれも、此も、中途半端な欠片ばかりで、まるでパズルだ 。どうしたら、繋げられる?このバラバラの欠片を … 「あぁ!もう!」ワシャワシャと、頭を掻き乱してみても、何も出てこない「 後から病院に行きます!」弥竹の言葉を思い出し、弥竹の携帯を鳴らした「 はい … 」弥竹は、沈んだ声で電話を受けた「弥竹、母さん、守谷に運ばれて手術室に入った … こっち来る時、母さんのバック 、 仏壇の部屋の隅にあった、茶色の皮の、それも持って来て貰えないかな、保険証入っている筈だから … すまないけれど…」弥竹は「解りました 。もう少しで、清掃が終わりますから 、そちらに向かいます。」淡々と話すと電話を切った。弥竹 ?あいつは怒ると、急に、よそよそしくなる癖がある、子供の頃はそうだった、今も多分、変わらないだろうと思う。俺の何を怒る?そのうちに来るから、聞けばいいな、話せば解る 、弥竹は、俺を心配して、来てくれたのだから… 家族ガ死ンデ、可哀想ナ俺ヲ … え?何だ?何で俺 、そんなふうに思う?俺の、心に潜む獣が、一声鳴いたような … そんな気がした。 30分程過ぎた頃、弥竹が、病院に着いた。頼んでいたバックを俺に渡し「 鍵は、中に入れました」冷たい口調で、弥竹は言う「なぁ、弥竹、何なんだよさっきから、何かあんなら言えよ!」弥竹の口調にイラッとした俺は、つい語気を荒げ言ってしまった。弥竹は、じっと、俺を見て「 何も ありません。後は、谷口君が決める事です。私は、此で失礼します。」そう言うと、俺に背を向けツカツカと、歩き出した「 ちょっ!何それ?」弥竹を止めようと、ベンチから立ち上がってはみたが、弥竹の背から、白い煙がぬぅ~っと昇り「 わっ! 」驚き、思わず足を止めると、煙は見る間に 、不動明王を象り空中に浮かび、ズンッ !と俺の目の前に突き出て、震え上がる程 、恐ろしい憤怒の顔で、俺の鼻先に剣を向けた「あぁ!解ったよ!何だ ってんだよ!3Dかっ!」不動明王は、弥竹を止めるなと 、そう言いたいのだと覚り、その場で止まり、弥竹の背が見えなくなる迄、黙って見ていた「何でだろうな… ぽ っちかよっ… 」思わず言葉が漏れた。それから、3時間が過ぎ、手術室の点灯は消えたが、結局、母さんは駄目で… 最後の言葉も交わさず、躰中の血液を垂れ流し逝った 。死因は、失血性シ ョック死と、医者が言った 。死因なんて何でもいいよ、死ンダンダロ?通夜に葬式、 あ ーぁ面倒くせ!哀しそうな振リスルノモ大変ダッテ、正直チットモ悲シクネ ェヨ!モウ飽キタ… サ ッサと終ワラセテ、家族ノ残シタ保険金デ、好キニ生キテ行キテ ェナ!ア~ァ、葬式ナンテ、ツマラネェ !ツマラネ ェ!ツマラネェ!!世ノ中ッテノハ~楽シクナキャ♪生キテイル価値ナイヨネェ~♪ 葬儀が終わる迄、こんな思いを抱いて過ごした。弥竹は葬儀にも来ない… 葬儀の全てが終わり 、口煩い、ゴミみたいな親戚どもが消え、1人ぽっちの、可哀想な俺は、早々に、保険金請求の手続きを済ませた「家宝ハ寝テ待テカァ~♪」葬儀の後は、ゴロゴロと実家で過ごしていた。香典の残りで、寿司の出前を取ってみたり、ゲームを買い、昼夜問わず遊んでみたり、生活は見る間に不規則になり 、荒れて行った「仏ホットケ!線香アゲテモ死人ハ還ラナイ♪」逝 ったばかりの家族の供養など、どうでもよくなり、保険金が降りる日をダラダラと待った 。数回、刑事が訪ねて来たが 、未だに有力な手掛かりも無く、犯人逮捕にも至りはしていない。そして、1ヶ月半が過ぎ 、保険金が入ると、直ぐに、大学の退学手続きを済ませた。別に大学行く金が無い訳じゃない、保険金額は、億を越えていたのだし、只、何て言うか… freedom ♪みたいな!退学手続きを済ませ、下宿先へ向かった 。荷物なんて、あっと言う間に片付いて、山口のオジチャンとオジチャンに「お世話になりました」可哀想なふりを装い、礼儀正しくサヨウナラを言う、親が死んで金銭苦で退学なんて、今時、珍しくもない話だ。オジチャンは「人生の試練に負けるなよ、俺なんて、中卒だぞ!ワハハ !」オバチャンは泣きながら「これ、良か ったら食べて…」オバチャンが漬けた、鰊漬けを袋に入れ渡してくれた「有り難う御座います…」この時は、流石に心がジ~ンとした。荷物を車に積み込み、車を暫く走らせると、遠くに、裏野ドリ ームランドの観覧車が見えた「観覧車か…」俺の脳裏に 、赤いドレスの女の声が鮮明に甦る「 私ヲ探シテ…」そうだ!葬儀で 、すっかり忘れていたけれど、俺、あの観覧車を、確かめに行こうと思っていたんだ … でもな… 今更 … 迷いに迷い… 俺は、これで、煩わしさにサヨナラ出来るならばと、裏野ドリームランドを目指した。多少、後ろめたさがあって、ドリームランドの駐車場は使わず 、少し離れた草むらに、車を隠すように止めた 。テクテクと歩き、園内に忍び込む、赤錆だらけの鉄冊が、廃園と言う臨場感を煽る 、その鉄鎖の隙間を潜り、園内に拡がる洒落た煉瓦敷きの道も、雑草だらけでは淋し過ぎる。嘗て、此処には、沢山の笑顔と夢があった筈なのにな…「やべっ!すっかり 、おセンチモードになってる!」そんな事を考えながら園内を歩いた。高さがあるので目立つ事が幸いし、観覧車へは直ぐに辿り着けた。けれど、この後が問題、観覧車は動かない訳だし、1室1室、確かめられない「無駄骨ダナ」心の声が呟く… そうだよな 、馬鹿みたいだよな俺、帰ろ帰ろ!観覧車に背を向け車に戻ろうと、歩き出した 「 …シテ」ん? 声?「 ダ…テ…」んん?「 出シテ ー !」悲鳴の直後、ギィゴ ー !ギイイゴ!観覧車は風も無いのに軋み、グラグラ!グラグラ!と大きく揺れた「うわあぁ !ち ょっ !あっ、危ないよ!! 」 ガッシ ャ ァ ーン!観覧車の、て っぺんで止まっていた乗車室が1室だけ、俺の目の前に落下した「いや、参ったな… って!うわっ!人骨?」俺の目の前で、砕けた観覧車の1室から、同じように、バラバラの人骨が飛び出し地面に散らばった「マズイでしょ…これ… えっ… ? 」地面に落下した乗車口のドアの下から、赤いドレスがチラリと見えた。ドキドキしながらも、鉄板のドアを避けると、潰れた白い箱にweddingの金色の文字が見えた。赤いドレスは、その箱に入 っていたのだろう、ドレスのフリルが、半分飛び出し見えていた「 結婚式で着る為だ ったのか…」潰れた箱の下に、封筒が見えたので、ほんの好奇心から、中を覗く「 手紙 … 」 悪いなと思いつつも、手紙を開いた 。
直子へ
直子、頼んでいたドレスが、やっと届いて良かった。普段、我儘なんて言わない君が 、たった一つだけ「どうしても!この赤いドレスが着たいの!」そう言って涙ぐんだ ね、可愛いなと思ったし、一生、俺が守りたいと思った。
愛しているよ
亮介




