獣
手紙から察するに、挙式を控えた女性が、何らかの事件に巻き込まれ、今俺の目の前に散らばる骨になったって事かな?「見ナカッタ事ニシロ… 其ガ一番オ前ノ為ダ 」心の声が聞こえる「こら !其所で何してる ! 」厳つい顔の男二人に怒鳴られ、俺は思わず逃げ出した「待て!」園内を息を切らせ逃げ惑い「ハァハァ… もぉ無理!ゼ ェゼ ェ … 」隠れなければと、直ぐ側の 入り口に駆け込んだ「ハァハァ ヘ ェ…ぇえ ?此処は?鏡か?」俺が慌てて逃げ込んだのは 、前も後ろも右も左も、銀色の鏡に覆われたミラ ーハウス「俺、これ苦手なんだよな … 何か来そうだろ… 見るからに…」ボワン… 俺の後ろに赤いドレスの女が映る「ほらぁ~ だから嫌なんだよな~ 」ブラブラとぶら下がる眼球も、パッチワ ークの肉片だらけの頬も目の前でシュッと一瞬で変わる「 嘘!超綺麗 … 」女はニコッと微笑み「アリガトウ 、探シテクレテ… 」俺は、彼女の美しさにドギマギしながら、声を上擦らせ甲高い声で「ところで、何であんな事に?それと何で俺に着き纏ったのですか?」彼女は、一瞬 、顔を歪め、俯き、何かを決心したように 、ウン!と頷くと「ドレクライ過ギタカ 解ラナイケレド… 私ノ結婚式ハ、10日後ダッタ … 披露宴デ、ドウシテモ着タカッタドレスガ、ヤット届イテ嬉シクテ、ドレスヲ受ケ取リニ、ウェディングシ ョップヘ行ッタ … 彼ガ先回リシテ、手紙ヲ置イテ行ッテクレタト店員サンカラ聞イテ 、嬉シクテ、最高ニ幸セダッタ… ソレカラ、自宅ニ戻ッタ 、部屋ガ荒ラサレテイテ、警察ニ電話ヲシヨウト振り返ッタラ、後ロニ男ガ立ッテイタノ、黒イポンチョノ男 … 顔ニ何カ、硫酸 … 瓶ノシ ールガ見エタカラ… ソレヲ掛ケラレテ… 焼ケルヨウニ熱クテ… 痛クテ … ケレド、コノ、ドレスダケハ離サナカッタ… 胸ニコウシテ箱ヲ抱イテ… ギュッ!ト… ソノ後ハ覚エテイナイ… 暗クテ深イ、闇ノ中デ眠ッテイタ… 声ガ聞コエタノ…1本ノ黒イ光ト一緒ニ、私ダケデハ無ク、其所ニイタ皆ガ群ガ ッタ… 黒イ光ヲ掴ンダラ此処カラ抜ケ出セルッテ思 ッテ… 私モ必至ニ黒イ光ヲ掴モウトシタ… 争イハ無視シテ… 他ノ人ヲ踏ミ台ニシテ… 黒イ光ヲ掴ンダラ … 主ガコウ言ッタ… 恋敵ヲ殺セ !遂ゲタナラ、愛シイ人ニ会ワセル … 」恋敵?何の事だ?「 は っ?意味解らないよ、俺に今、彼女さえいないのに?… それ 、あんたに頼んだ奴、相手間違えてるよ… そいつ男 ?それとも女 ? 」赤いドレスの女性はニ ッコリ微笑み「女性ヨ♪」俺は「女?解らないな、悲しいけれど、心当たりがまるで無い … 此からどうなるの?あんたと俺 …」女は「私ハ自由ニナレタ… 貴方ガ解放シテクレタカラ … アノ方ガ、連レテ行ッテクレルノ、アリガトウ …」 赤いドレスの女性は、俺の後ろを指差したけれど、俺には何も見えなかった「ね ぇ、そいつは大丈夫なの?俺、何も見えないけど…」彼女は、クスクス笑い「エエ、大丈夫!貴方ハ知ッテイルワ、貴方ト友達ダッテ言ッテイル、私モ知ッテイタワ… 尊イ方よ… 本当ニアリガトウ …」彼女は真 っ白に輝き、パンッ!と光が弾けるように消えた 。彼女が消え薄暗いミラーハウスの中から「 ナァ~兄弟、ツマラン思イニ煩ワサレズ、楽シク行コウヤ… 考エテミロヨ 、ポンチョ男ダッテ生キテイルンダゼ… アンナ 、クズニ比べタラ、兄弟ノ想イナンテ 、軽イ軽イ!真ッ赤ナ鮮血ッテノハ、ドウシテ 、アア美シインダロウナ ?ナァ兄弟、ソウ思ワナイカ?」妖しい声が俺を誘う、俺の欲望を、見透かしているのか?背筋にゾクゾクと寒気が走る「 兄弟、行コウゼ … 試供品ヲ用意シテオイタゼ… 気ガ利クダロ?」太く強く地鳴りのように荒 々しい妖しい声は 、まるで魔法のように、俺の心を掴んだ 。誰にだってある筈だ、誰にも知られたくない欲求や欲望が、全く無い奴なんて人間じ ゃないだろ? 人間てのは、不完全な生き物だから、あって当然さ!皆、偽善者ぶりやがって!後1週間で地球が終わるって知 ったら?平常心で過ごして黙って死ねるか ? 嘘だ、絶対に嘘だね、街は暴徒で溢れる って、テメェだけ助かりゃいいって奴や、世界が終わるなら欲望を叶えようと 、人殺しだって、変質者だって溢れるって 、だって其が人間だろ ?羊の皮被った獣だろ?「 1度だけ … 1度だけだ … 」俺はヨロヨロと 、ミラーハウスから抜け出した。何時間ミラーハウスで過ごしたのか、陽は落ちドリ ームランドには暗闇が拡がっていた「 コッチダ …」妖しい声が俺を導く、観覧車の残骸が転がり、2人の人間も転がっていた。落下物の下敷きになったのだろう 、内臓も飛び出し血だらけで、ペシャッと躰は潰れていた。どう見ても死んでいる「 只ノ死体ダ、血ヲ少シ舐メルダケダ?」妖しい声が囁く、ハァハァ、ハァハァ、血を見つめていると息が上がり、興奮の波が押し寄せる 、俺はムシャブリつこうと、死体に手を伸ばした「 う っ… 」この男に見覚えがある、俺を怒鳴り追い駆けて来た男達だ「 ダメだ !ダメだ !美しくない!寧ろキモイ!」俺は立ち上がり、車目指して走り出した。車に乗り直ぐにエンジンを掛け 、猛スピードで走り出す、小高い丘に立つ裏野ドリームランドを後に自宅へと急ぐ、ドリームランドから国道へ出ると、パトカ ーと救急車がドリームランドへと向かい、小高い丘を登 って行った「 危ねぇ… 危うく警察とカチ合うところだった … 待てよ、誰が通報したんだ? 他に誰か居たのか?」不安が心を過ったが、考えた所で解らないので、先ずは自宅へと急いだ。車庫に車を入れ、下宿から持って来た荷物をリビングに運ぶ「ん? 」荷物を入れたバッグの前ポケットから、ヒラリと何かがカーペットに落ちた「あ… 愛璃からのハガキか… えっ?この女!」元カノの愛璃と、仲良く写真に写る女の顔に見覚えがある、俺は慌てて、弥竹の携帯を鳴らした「頼む!頼む !出てくれ 弥竹!」願ったが、弥竹は電話に出なかった。俺は再びハガキを見つめ「やっぱりだ 、絶対にこの女だ!」海外での、愛璃の連絡先は解らない 、住所はハガキにあるけれど、電話をしたい至急だ!愛璃の実家の電話番号は知っているけれど、愛璃のお母さんには嫌われている … 教えて貰えるだろうか?解らないけれど、電話をかけてみる事にした。トウルルル!トウルルル!「はい 、桐澤で御座います」愛璃のお母様の声だけで緊張する「あっ… 夜分にすみません、高校の時 、愛璃さんと同級生でした 。谷口です… あのっ … 急用がありまして、愛璃さんと連絡を取りたいので、電話番号を教えて頂けないでしょうか?」愛璃のお母様に、叱られるのを覚悟で話した 。暫し沈黙した後、愛璃のお母様は「… 谷口さん … 娘の事ですが … あっ、いぇ … 何でもありません … そうね 、たまには、気の合う同級生と、話をする事も必要ですわね、あの子も留学して心細いでしょうから … 」へっ?愛璃と付き合 っていた頃、俺を嫌っていたのに、お母様は 、電話番号を教えてくれた「ありがとう御座います!」俺は何だか、交際を認められたような、気持ちになり嬉しくて 、すると 、お母様は「いぇ、そんな、良いんですのよ、娘と話して元気づけてあげて下さいね 、ところで谷口さん 、東大へは、何時、編入なさるのかしら?ホホホ!愛璃とは、良いお友達であって下さいね、では 、 失礼致します。ツーツ ーツー !お母様は、一方的に要求を言い電話を切った。や っぱり、お母様はお母様だ … それでも、電話番号は、教えて貰えたので良しとしよう 。早速、愛璃に電話を掛けた 。




