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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔道士黙示録 ~一族の力を受け継いだ少年は、復讐に生きる~

作者: 岸本 和葉

ひとまず短編で投稿しますが、続きが気になるという方が多ければ連載にします。

 命の火が消える。

 その瞬間の光景を、まだ少年であるリオンは呆然と見ていた。

 振られた剣が、飛び交う火炎が、昨日まで普通に話していた人間たちを屍に変えていく。

 夢としか思えない残酷な光景に、リオンは言葉を失った。


「レイナさん……これ何?」


「眼を瞑ってなさい!」


 リオンは、一人のローブを着た女に背負われ、村の中を走っている。

 レイナと呼ばれた女は、必死の形相で足を動かしていた。

 

「何とか村の外まで――――」


 最後まで言う前に、レイナとリオンの身体は地面を転がっていた。

 二人のいたところを、馬が駆けて行く。

 軽く頭を打って意識が朦朧としているリオンは、その馬から何者かが下りてくるのが見えた。

 

「汚れた一族が」


 吐き捨てるように言いながら、その兵士らしき人間は帯刀した剣を抜きつつ、リオンに近づいてくる。

 リオンはそれを焦点の合わない眼で見ていた。


「くたばれッ!」


 剣が、リオンへ向けて振り下ろされる。

 このままでは、確実にリオンの身体は切り裂かれるだろう。

 それでも動こうとしない彼を、何者かが突き飛ばした。

 ゆっくりとしたリオンの視界の中で、血が舞っている。

 

「逃げ……て……」


 リオンの代わりに斬られたレイナが、地面に倒れる。

 血だまりが広がっていく。

 それを見て、リオンの眼の端から涙が溢れだした。


「レイナ……さん……」


「汚い悪魔どもが! 人間の真似事をするなッ!」


 兵士は、血に濡れた剣でレイナの身体を何度も刺す。

 鉄仮面で表情は分からないが、おそらく憎悪で歪んでいることだろう。

 リオンは、涙を流しながらも、確かな怒りを抱き始めていた。


「レイナさんに……」


「あぁ!?」


「レイナさんに触るな!」


 リオンの手から、巨大な火の玉が撃ち出される。

 それは至近距離にいた兵士の全身を飲み込み、大きく吹き飛ばした。

 火だるまになりつつ家屋に突っ込まんとしていた兵士は、空中でピタリとその勢いを失う。


「まったく、相手が子どもでも油断しちゃダメじゃないか」


 火だるまの兵士は、黄金の鎧を身にまとった男によって片手で受け止められていた。

 一瞬瀕死の兵士の身体がきらめくと、火は一瞬にして消え去り、何事もなかったかのように動き出す。

 

「か、回復魔法を……ご、ゴドウィン様! 感謝いたします!」


「うんうん。ほら、動けるならさっさと他の連中を狩りに行って。まだいくつか残ってるよ」


「はっ!」


 兵士は焦げた鎧を脱ぎ捨て、この場から去る。

 残ったゴドウィンと呼ばれた騎士は、ひたすら睨みを効かせているリオンに歩み寄ってきた。


「いい魔法の腕だね。子どもでも、やっぱり最強の魔道士の血は受け継がれているわけだ」


「……」


「君たち一族は、この世界の外敵なんだ。僕ら騎士からすれば、目障りでしかない。さっさと消えてもらうよ」


「うる――――さいッ!」


 先ほどよりも巨大な火の玉が、ゴドウィン目掛けて放たれる。

 しかし、ゴドウィンは避けようとせず、そのままリオン目掛けて駆け出した。


「はっ!」


 着弾する寸前、火炎弾に一筋の線が刻まれ、二つに割れる。

 形を保てなくなった炎は空中で崩壊し、霧散した。


「惜しい、実に惜しいね。君がこの村の一族でなければ、最高の待遇で迎え入れたのに」


「くっ……」


「残念だ――――」


 魔法を撃たんとする前に、ゴドウィンはリオンに距離を詰めていた。

 そして、リオンの心臓を、持っていた剣で貫く。

 リオンの耳から、周りの音が消えた。

 自分の中に、冷たい無機物の感触がある。

 それがたまらなく不快で、リオンは自分が吐き気を覚えている事に気づいた。


「ごふっ」


 ただし吐き出すはめになったのは、吐瀉物ではなく大量の血液。

 口から溢れ出す血を、リオンはうつろな目で眺めていた。

 剣が抜かれると、傷口からも大量の血が噴き出る。

 急激に冷えていく身体。

 膝をつき、リオンは地面に倒れ込んだ。

 視界の先には、同じように倒れたレイナがいる。

 その方向へ手を伸ばそうとするが、届くことはない。

 リオンの意識は、ここで途絶えた。


◆◆◆

 リオンは、夢を見た。

 自分の住む村の人間全員が、リオンを囲んでいる夢だ。

 自分を育ててくれたレイナ、村の長老、お世話になった知り合いたちと、全員リオンが家族として慕っていた人達がいる。

 

「レイナさん……長老……みんな」


 リオンは命を落としたはずの人たちに、手を伸ばそうとする。

 しかし、彼の身体が動くことはなかった。

 赤い鎖が、リオンの身体を封じ込めている。

 それは胸に空いた心臓に伸びており、ピクリとも動くことはない。

 

「リオンや……」


「長老!」


 ひげを蓄えた年寄りの男が、一歩前に出てくる。

 

「村唯一の子どもであるお主に、我ら『黙示録の一族』のすべてを託そうと思う」


「え――――」


 次の瞬間、赤い鎖を伝って、何かがリオンの中に流れ込み始めた。

 それは焼けるような熱を伴い、リオンを苦しめる。

 

「がぁっぁ」


「リオン、我々の力は、人間国の王が持つ強大な力である『聖剣エクスカリバー』に、唯一対抗できるのじゃ。邪悪な人間の手に渡った聖剣を、なんとしても破壊しなければならない」


「は、破壊……?」


「人間国の王は、やがて世界に災厄を招くであろう。それだけは避けねばならん。他の人々は我らを災厄を招くものとして見ているが、それは違う。リオン、お主自らの手で、それを知らしめて欲しい」


 長老たちの姿が消えていく。

 全身を包む熱に苦しんでいるリオンは、最後の力を振り絞って手を伸ばした。


「待って……行かないで……!」


「リオン、お主は生きろ。重荷を背負わせたくはないが、そうしてでもお主には生きて欲しいのじゃ。使命を遂行出来なくても誰も責めんが――――そのときは、せめて我らの生きるはずだった年月を消費し切るまでは死んでくれるな」


「待てって! 俺は……みんなと一緒に――――」


「リオン。元気でね」


「レイナさん……ッ!」


 徐々に、リオンの家族たちは笑顔のまま消えていく。

 不思議と、彼の身体を蝕んでいた熱は消えていた。

 やがてレイナと長老の姿が消えた瞬間、リオンの意識は突然途絶える。

 意識が戻るに連れて、リオンは頬に何かを感じた。


「風……」


 風がリオンの頬を撫でる。

 ゆっくりと眼を開けた彼の視界に広がっていたのは、一面に広がる青空。

 仰向けに寝そべっていたリオンが身体を起こすと、そこら中に焼けた家屋の残骸が転がっていた。

 ここは、リオンが生まれてから今までの10年間を過ごした村で間違いない。


「俺は……」


 胸を擦ると、傷口はなくなっていた。

 ゴドウィンに刺された証拠は、胸元の服の穴が物語っている。

 さらには傷のあった場所で肉が盛り上がっており、どうやら再生するようにして塞がったらしい。


「そうか、みんなが」


 リオンは少しふらつく身体で立ち上がると、辺りを見渡す。

 近くには、ローブを着た白骨化した人間が転がっていた。

 まだ家屋から煙が上がっているところを見ると、時間経過で白骨化したわけではないだろう。

 

「レイナさん」


 リオンはその死体の手に、自分の手を重ねる。

 彼女らは、文字通りリオンの血と肉になったのだ。

 手を重ねたリオンは、何となくだがそれが分かった。


「……行ってきます」


 立ち上がったリオンは、近くに転がっていた兵士のものらしき剣を、その足で踏み砕く。

 何度も、何度も。

 やがて粉々になった剣を見て、リオンは口角を釣り上げた。


「――――殺してやる」


 リオンは、もう一度命をもらったと分かってから、心に決めたことがあった。

 

「長老、あんたに言われなくてもやってやるよ」


 家族を失った悲しみ、それらは、リオンの中ですでに怒りに変わっていた。

 憎悪が溢れだし、リオンの表情を歪める。

 相手が分かっている以上、その感情はさらに膨れ上がった。


「人間国を――――潰してやる」


 はるか昔、最強の魔道士とされる男がいた。

 彼はその力を同じ人間のために使い、国の発展に貢献した。

 しかし、その手柄をよく思わない者の手によって、彼は辺境の地へと追放される。

 男は最後に自らの魔術で、国の行末を予言した。

 そして、男は知ってしまう。

 このままでは、この国どころか世界すら終わってしまうと。

 彼はその黙示録を、自らの一族に刻み込んだ。

 それが、黙示録の一族。

 世界滅亡を止める使命を受け持った、魔道士の一族である。

 

 ただし、今日この時より運命は覆る。

 

 最強の魔道士さえも越える、この『悪魔』の誕生によって。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ◎ 転生ものでない ◎ ”魔族”ではなく”魔導士(の一族)”という点 [気になる点] ◎ 最強の魔導士の後裔があっさり討伐されたこと ◎ 子供(主人公)が殺されてから蘇るまでの経過 [一言…
[一言] 連載で読みたい。
[良い点] 面白かった。続きを読みたくなりました。
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