お買物
「これがいいです!おばさん、いくらですか?」
「お嬢ちゃん、目が高いね!これは昔、大魔導師が使ったり使ってなかったりした魔法の杖だ!20万ライオでいいよ!ホントなら50万ライオなんだけどね、お嬢ちゃん可愛いからまけてあげるよ!」
「ホントですか!?おばさん、良い人ですね!」
「「待った!!」」
20万ライオが入った袋を渡そうとしたアリスを店主から引き離す。どう考えても怪しい!使ったり使ってなかったりってどっちよ!
「どうしたんですか?二人共。」
「アリス、君は馬鹿なのかい?胡散臭いにも程があるだろ!」
「おばさん!適当な事言ってバッタ物売るのは止めてもらえるかしら。行くわよ、アリス!」
いつまでも欲しそうにしているアリスを引き摺り店を離れようとする。が、屋台の柱にしがみついて動こうとしない。
「アリス?」
「嫌です!この杖がいい!」
「ほら〜、本人が欲しい物が一番よ?世界で1本しかない伝説の杖だよ〜?」
「嘘言うな!伝説がこんな安売りされる訳ないわ!」
「いーやーだー!この杖じゃなきゃいーやーでーすー!!伝説なんですよ!もう二度と手に入らないかもしれないですよ!」
「そうだよ?この杖はね、伝説の樹で作られた伝説の杖だよ。絶対に折れない!」
バキッ!
「伝説がなんですって?」
店主から杖を奪い真っ二つに折った。
「「あーーー!!」」
「一応商品だものね、お代は置いていくわ!」
1000ライオを叩き付け、今度こそアリスを引き摺り店を離れた。
「マリア、良くやった!」
「マリアさん、酷いです……。」
「あんな偽物に20万ライオ使うなんてどうかしてるわ!」
「だって伝説の杖だったんですよ?」
「伝説は買えないの!どっかの秘境で伝説の勇者一行が来るまで人知れず守られているものなの!中ボスを倒して手に入れる物なの!……………多分。」
この世界に伝説の武器があるかどうかは知らないが、通常のRPGはそういうものなはず…………。
「気を取り直して、次の店に行こうよ!」
「そうそう!お店はまだたくさんあるんだもの。きっと気に入った物が見つかるわ!」
合間合間に美味しそうな物を見つけては食べ歩きをしてお店をまわっていると、アリスと同時にあるお店の前で立ち止まる。
「「これがいい!」」
私とアリスが同時に指差したのは、それぞれ全くデザインが違うものだった。私が選んだのは派手な装飾はないが、先端に付いた大きなブルーの宝石が印象的な杖。アリスが選んだのは先端にドクロが刺さり、杖全体に蛇が2匹絡まっているデザインのものだった。
「マリアさん、そのデザインじゃ勝てるものも勝てませんよ?もっと強そうな威厳のある、もうその杖を見ただけで敵が怯む様な感じにしないと!」
「趣味わる……。」
「その杖、絶対呪われてるわよ?こっちにしなさい。」
「お嬢さん、よく分かったね!そっちの魔法使いのお嬢さんが持ってるのは呪いの杖だよ。使う度に魂を喰われるらしい……。」
「「キャァァァ!」」
デザインが毒々しいというだけで呪われてると言っただけなのに、本当だった事に驚愕する。アリスが杖から手を放すと店主は見事にキャッチした。
「マリアさん……私はマリアさんがいないと何も出来ないダメな子のようです……。おばさん、マリアさんが持ってる杖ください。」
「毎度。こっちの綺麗なお嬢さんは目が肥えてるね!これはデザインこそシンプルだが、持ち主の魔力を最大限引き出してくれるっていう珍しい杖だよ。」
「そんな杖がマーケットで売られるのね……。」
「マーケットはただの安売りじゃないんだよ。眠っているレアな掘り出し物を見つけ出す宝探しみたいなもんだ!お嬢さん達は凄く運がいいと思うよ。」
「で、おばさん!おいくらですか!?」
「20万ライオよ!」
アリスは申し訳無さそうにこっちを見たが、アリスが稼いだのだから気にする事はない。
「おばさん!もう少し安くなりませんか!ホント、少しでいいんです!お願いします!折角のマーケット、もう少し楽しみたいんです!」
「これでも安くしてるのよぉ……。」
「お願いします!ちょっとでいいんです!3000ライオ安くして下さい!」
「じゃあ……お嬢ちゃんの今使ってる杖、見せて。」
「?はい……。」
アリスから杖を受け取り、まじまじとみていた店主が何かを納得したように顔を上げた。
「この杖を下取りって形でどうだい?古い物だけど大事に使っているね。お嬢ちゃんなら新しい杖も大事にしてくれそうだわ。3万ライオで引き取るよ。」
「いいんですか!?!?ありがとうございます!おばさん!やった!やりましたよ!マリアさん!」
杖とお金を渡したアリスはとても嬉しそうに新しい杖を受け取っていた。親切な店主に頭を下げ、またマーケットを歩き出す。その間、アリスはずっと杖に頬擦りしていた。ちょっと気持ち悪い。
「マリアさんのおかげでとても良い買い物が出来ました!さぁ!食べ歩きの続きをしましょう!」
「そうね!行きましょう!」
浮かれながら歩いていた私達は、後ろからの視線に全く気付いていなかった。