出会い
朝、目覚めて思った事は夢だといいのになぁ……だったが、私の上で猫特有の伸びをしているクオンを見て、現実であることを知る。
「おはよう、マリア。」
「おはよ…………。」
「さぁ!今日から本格的な冒険の始まりだよ!まず朝ごはんを食べて、ギルドに行こう!」
「ギルド?」
「簡単に言えば集会場だよ。クエスト受注してクリアしたらお金を貰うところだね。」
昨日みたいに、野良イケメンを倒していく訳じゃないのか……。
宿を出て町を進んでいると気付く。本当に女の人しかいない。良く言えばとても華やかな世界だと思う。そんな事を思いながら歩いていると中央に大きな建物があった。
「着いたよ。ここがギルドさ!」
中に入れば、様々な防具を着た女性達が掲示板のような物を見たり、テーブルで食事をしたりお茶をしたり……何?この華やかな平和な世界は!
「マリア?珍しいのは分かるけど、ぼけっとしてないで早く行くよ!」
「あぁ……ごめん。」
「まずは掲示板で自分が出来そうな物を見つけるんだ。そうだなぁ……よし!これにしよう!子供狩り!」
「ちょっ!何その犯罪っぽい名前!」
「え?だってクエスト名がそうなんだから仕方ないじゃないか。昨日の奴を5体倒せばクリアだから楽勝だね!その分報酬も低いけど仕方ない。マリアの事を考えればこれぐらいが妥当だよ。」
この世界の感覚にまだまだ慣れそうにない……。それでも進まなければ帰れない事を思い出し、密かにやる気を出してみた。
受付でクエスト参加を伝えると「お気を付けて」と受付の女性に笑顔で送られた。
「マリア、今日はちゃんと出来るよね?」
クオンは少し心配そうに見上げてきた。
「ん、大丈夫よ。死にたくないし、スライムだと思えばなんて事無いわ。」
「それなら良かった。」
それ以上何も言わず、私達は町の外に出た。少し散策しているとちょっと先から男の子が走ってきた。
「来たよ!」
「おねぇーちゃーん!待ってたよぉー!」
「ぐっ!」
「マリア!」
満面の笑みで走り寄ってきた男の子に、顔が緩んでしまった。だって……可愛いんだもん!!キラキラ輝くオーラみたいなの背負って一生懸命走ってくるんだもん!誰だって可愛いと思っちゃうわ!
剣を杖代わりに立ち上がり体制を立て直す。
「クオン、斬ればいいのよね?」
「そうだよ!」
スライム、スライム、スライム……と言い聞かせ、目を瞑って剣を振り下ろす。
「よく出来ました。」
一言言ってクオンは私の肩に飛び乗り、頬擦りしてくれた。それが少し嬉しくてクオンの頭を撫でる。
「あと4人か……いけそうね!」
「その意気だよ!あとは斬る時に目を開けれればなお良しかな?」
「う……それは……追々出来る様にするわ!」
その後、同じく走り寄ってきた男の子をダメージを負いながらも倒し、残り3人になった所で事件は起きた。
「これはちょっときついかなぁ……。」
「そうよね……。1人でもきついのに……。」
目の前にいるのは3人……。どこから現れたのか、今までの走り寄って来るパターンではなく、3人が楽しそうに遊んでいた。こちらに気付いた男の子達はニコニコと笑って言った。
「「「おねぇちゃん!一緒に遊ぼ!!」」」
「ガハッ!!」
「マリア!少し離れよう!」
言われた通りに少し離れる。男の子達は特に追ってくるわけでもなく、3人仲良く手を繋いでこちらを見ていた。
どうしたものか……。ダメージも3倍だった……。
「大丈夫?3人まとめては無理だ。一人ずつ確実に倒していこう。」
「でも、バラけてくれないわよ?」
「近寄ればダメージ3倍かぁ……マリアには耐えられないよなぁ……。クエストリタイアかな……?」
「リタイアなんて嫌!絶対に倒すわ!」
そう言って走りだし剣を構えた時、後ろからクオンではない女の声がした。
「止まって!!」
ビックリして足を止めると、目の前の男の子に雷のような物が落ち3人は消えていた。
「すごい……。」
振り返るとクオンの隣に私と同じ年位の女の子が立っていた。クオンも驚いたのか、女の子を見上げていた。
「助けてくれてありがとう。貴女は……」
「私はアリス!魔法使いです!」
「凄いわね……。あれにときめかないなんて……。」
「私はショタには全く興味がないのです!あるのは少女漫画に出てくるイケメンとBLだけなのです!」
「BL……?ボーイズラブって事かしら?」
「そうです!貴女、お名前は?」
「私はマリア。この黒猫はクオン。」
突然の自己紹介に若干引きつつも、クオンと共にこちらの自己紹介をした。するとアリスはこちらとしては願ってもない交渉をしてきた。
「マリアさん!私とパーティーを組んでもらえませんか?」
クオンと顔を見合わせ頷いた。クオンも私一人じゃ心許ないと思っていたんだろう。
「こちらこそよろしくお願いするわ!よろしくね、アリス!」
「はい!よろしくお願いします!」
「これでマリアも旅しやすくなったね。アリスはかなりの魔法の使い手だよ!」
この時、私とクオンは何一つ気付いていなかった。彼女が言った自己紹介の話の内容に問題があった事を。なぜ彼女の様な魔法使いが私達のような初心者に声を掛けてきたのかを…………。