初戦闘
「ここはどこなの?」
見たことのない草原で立ち尽くし、肩に乗ったままのクオンに話しかけた。
「ここはライオスキングダム。君が旅をする世界だよ。」
「ライオスキングダム……?」
「君が元いた世界とは全く関係ない異世界だよ。」
猫が喋るし、異世界なる所に連れてこられるし、もうキャパオーバーだ。倒れてもいいかな?
「痛っっ!」
「君は現実逃避が好きなのかい?止めはしないけどさ、進んでラスボス倒さないと帰れないからね?」
呆けている頭に猫パンチを食らい戻ってくれば、帰れないと衝撃的な言葉で更に殴られた。
「わ、私のいた世界はどうなるの?私がいなくなったら騒ぎになるわ!」
「大丈夫!君がこっちに来てる間は、向こうの時間は止まっているから!」
「そうなの……?」
「安心して冒険するといいよ!君がとっとと進んでラスボス倒せば帰れるし、さらにラスボスを倒せれば男に慣れるどころか、男を手玉に取る事だって出来るんじゃないかな?」
それは凄い!!と思ったけど、よくよく考えればなぜラスボス倒すとそんな凄い女性になれるのか不思議だった。
魔王が願いを叶えてくれる……とか?
「多分、マリアが思ってる様な事はないけど、とりあえず進もうか。すぐわかると思うから。」
自分の足では歩かず、ずっと私の肩の上に居座っている。でも不思議と重くはない。
「もう少し行くと街があるから、そこで装備を整えよう!」
「装備?」
「そう!武器が無いと敵は倒せないよ。今回は特別サービスで衣装は僕が用意したよ!今着てるやつね!可愛いだろ?」
そう言われて服を見れば、ミニドレスの様な服を着ていた。
「ねぇ、今から敵?と戦うのよね?こんなヒラヒラしたもので死んだりしない?」
「その布は特別製だから、ちょっとやそっとじゃ破れないから大丈夫!敵が出る前に町に辿り着きたいなぁ。」
「そうだね……今、丸腰ってことよね?」
「そうだよ」と答えたクオンと歩いていると、少し先に10歳位の男の子が泣いている。それを見た私は駆け寄った。
「マリア!待って!!近寄らないで!」
クオンが叫んでいたけれど、小さい子が泣いてるのに放っておく訳にはいかない。
「どうしたの?迷子になった?」
そう声をかけると、男の子は涙目でこちらに振り向く。
「お姉ちゃん……助けてくれるの……?」
やけに整った顔立ちの男の子が助けを求めてそう言った瞬間、私は体にダメージを負った。
「ぐはっ!」
「マリア!!!」
「なに……これ……?」
急いで駆け寄ってきたクオンが心配そうに覗き込む。
「マリア、立てる?よく聞いて?あれはこの世界では敵だ!」
「は?」
「ただの子供だと思うかもしれないけど、この世界にいる男は全員敵なんだ!とりあえず、少し距離を取るよ!」
クオンに誘導されて男の子から距離を置く。そうすると男の子は寂しそうに少しずつ近づいてくる。
あれが敵?
「いいかい、マリア!この世界の男は常に女を誘惑してくる。それにときめいたり、なびいたりしたら殺られる!」
「はっ?ヤ、ヤラれるって何!?」
「マリアの想像してるヤラれるも間違いではないけど、どちらかと言うと殺される方かな。」
「そ、そっちね?」
「残念がってる所申し訳ないけど、敵が来るよ!」
「ど、どうすれば……」
「あれは1番雑魚敵だから一発蹴り飛ばせば倒せる!」
泣いてる男の子を蹴り飛ばす?
「そんな事出来る訳ないじゃない!」
「殺らなきゃ殺られるよ!」
「お姉ちゃん……待ってよ……なんで逃げるの……?」
「きゃあ!!」
泣きながら覚束ない足取りで、一生懸命歩いてくる男の子にキュンとすると、両腕が刃物で斬られたように血が滲みでた。
「マリア!蹴り飛ばすんだ!蹴るのが無理なら殴れ!」
「無理!!」
「無理じゃない!目を瞑ってドラ○エのスライムだと思えば、出来る!」
スライム?確かに可愛さは似てるけど……
「お姉ちゃん……お姉ちゃん……助けて……」
「痛っっ!」
「マリア!いい加減にしろ!死にたいのか!?」
「……死にたい訳ないじゃない!私はただ、帰って恋愛したいだけなのよォォォ!」
何か吹っ切れた様な感覚になった私は、とっさに握った木の棒を振りぬいた。
男の子に当たった感覚と同時に幻影の様に消えていった。
「上出来だよ!やれば出来るじゃないか。」
「さっき夢中で聞き流した事が沢山あるんだけど?」
「町まで歩きながら話すよ。何が聞きたい?」
「この世界には男の人はいないの?」
「そう。女か獣……まぁ亜人とかかな?種族で言えば結構いるけど、性別は少ないね。」
なんとも不思議な世界だった。男がいないのになぜ子供が産まれるのか……。亜人?って事は人と獣って事?でも獣にもオスはいないんじゃ…………。
「なぜ人口を保っていられるのか?って顔だね。さっきの魔物が女を攫って身籠らせるんだよ。」
「酷い……。」
「と思うだろ?それがいざそうなると、女は嫌がらないんだよ。何故か……さっきの魔物見て気付かなかった?」
さっきの魔物?男の子の事かな?特に普通の男の子だったと思う。顔立ちは物凄く良かったけど……。
「魔物全部が全部イケメンなんだよ。それもとびきり甘い言葉で誘惑してくる。魔物には2種類いて、殺りたいタイプとヤリたいタイプで別れるんだ。誘惑の仕方もそれぞれ違う。スライム程度の子供であれだ。魔王クラスなんて今のマリアが遭遇したら一撃どころか、見ただけでぶっ倒れるだろうね、吐血しながら。」
楽しそうに笑っているクオンに苛立ちを覚えるが、さっきの子供の目の潤ませ方がわざとであれば、末恐ろしいと思うのも確かだ。あれで一番弱い敵だとしたら、確かに思い遣られる。
「さぁ、町に着いたよ。とりあえず武器を買おう。お金も初回サービスで準備金をプレゼントしておくよ。これからは自分で稼いでね。」
「稼ぐって、またあれを倒すの?」
「そうだよ?マリアはまだレベル1の雑魚なんだから、雑魚は雑魚らしく雑魚狩りしてお金稼ぎとレベル上げね。」
何だが物凄く馬鹿にされた気がするけど、確かに知らなかったとはいえ子供にこれだけの傷を負わされたんだから、私はまだまだ雑魚なんだろう。
「一度倒せば吹っ切れたでしょ?あとはルーチンワークだと思えばいい。」
「そう思えるように頑張るわ。」
武器屋に入り、クオンに勧められた剣を買った。もう疲れただろうとクオンに先導され宿屋に部屋を取り、明日からの雑魚狩りに備えて早々にベッドに潜り込んだ。
明日、起きたらレベル100になってればいいのにと、無駄な思いを抱いて眠りについた。