回想
きっかけは、母校の文化祭だった。
大学の勉強に忙殺され、気がつけば数年ぶりの母校だった。かつて馬鹿騒ぎをした同級生や、恩師たちと数多く会うことができ、童心がよみがえった。
でも。
密かに一番会いたいと思っていた男はいなかった。保健室にいるのは見知らぬ女性になっていて。思わず先程まで会っていた親戚の体育教師に聞いた。
「彼は…霧は、去年辞めたよ」
「え?転勤、とかじゃなくてか?」
「そうだよ。仕事自体辞める、という話だったね」
「どうして?」
「すまない、私も詳しいことは知らないんだ。私よりも、花子の方が知っているんじゃないかな」
だからその足で校長室に行った。
「ああ、深夜か…お前は知らなかったな」
「…?」
「あいつな、失明したんだよ」
「……え」
「ここで養護教諭始めた頃からもう左目は見えてなかったんだと。右目もいつかダメになるって分かってたらしい。…お前が卒業する頃にはもう相当ヤバイ状態だったみたいだな」
「…………」
「私にそれを話したとき、あいつちょっと泣いてた気がする。教え子みんなに会いたい、最後に一目見ておきたい…って。だからあいつ、ギリギリまでここにいたよ」
彼女はそのときを思い出したのか、目を細めてどこか遠くを見つめていた。