始まりの前
学園長の言葉通りに自分のクラスへと向かう。
これだけ広いと自分のクラスを探すのも一苦労だ。
イベントより先に頑張ることは学園の敷地内の建物の把握だろう。
この学園に入れるってことはそれだけで頭が
良いのは確実だし、なにかしらそれと別に才能があってもおかしくない。
どう想像しても、僕の高校生活は波乱に満ちそうだ。
彼女もいてくれれば……。
ダメだ、どうしてもその気持ちが頭から離れない。
僕がやることは彼女の分も生きることだというのに。
でも、できれば始業式前に出会った姶良とは別のクラスがいいな。
一緒のクラスだと流石にめんどくさい。
まぁ、これだけクラスがあれば大丈夫だろう。
2千人はいる新入生に対して1クラスが40人、そうするとクラス数は50クラスになる。
これだけのクラスがあって、早々クラスが一緒になるとも思えない。
余計な心配かな。
そう思い直して、教室のドアを開く。
クラスの半数ほどは僕より先にいるみたいだ。
素直に自分の番号の席につくもの、早速グループを作って和気あいあいとしているもの、席にもつかずグループにも入れずおろおろしているもの。
見渡す限りは普通の学生とは変わりないように見えるクラスメイトたち。
僕はその中の1人と目があってしまった。
「わぁ〜、絆だ。凄いね、運命とかってやつかもね」
姶良が女子のグループから抜け出しこちらにやってくる。
僕のささやかな願いは一瞬で潰えたのだった。
「姶良もこのクラスなんだね」
「うん、にしても良かったよ。クラスに友達が多いと心強いからね」
「あれ、僕たち友達なの?」
「名前で呼びあってるし、これでただの知り合いってのも変じゃない?」
「確かにね」
姶良が美人だししょうがないのだろうが、僕と姶良の話してる様子を苛立たしそうに睨む男子たちや羨ましそうに眺める男子たち。
その中で一つ異様な視線があった。
殺気すら篭っているのではないかという視線で僕を睨む少女。
「ねぇ、あそこの子って姶良の友達だったりするのかな?」
「よくわかったね、うん私の親友の深雪だよ」
「親友? 同じ学校なの?」
「そう、2人でこの学園入ろうって頑張ったんだよ」
「へぇ、それで同じクラスか。良かったね」
僕をずっと睨んでいた深雪という少女がだんだん近よってきて姶良に詰め寄る。
「ちょっと、姶良! なんで私の知らない男子と仲良くしてるのよ」
「う〜ん、朝に友達になったんだよ」
「どうも、僕は郡山 絆。同じクラスになったんだしよろしくね」
「あっ、どうも。あたしは鶴ヶ谷 深雪……じゃなくて!!」
僕の会釈に会釈を返してくれるが直後に素早く顔を上げて顔を真っ赤にする。
「ん、どうしてそんなに不機嫌なの深雪?」
「だって、こんな男信用ならないでしょう」
ビシリと突きつけるように指を差される。
「絆は変だけど、悪い人じゃないよ」
「僕はそもそも君たちにそこまで興味があるわけじゃないし、どうこうするほどの労力をかける価値を感じないから安心していいよ」
「なっ、最低! 姶良、行こう」
「あっ、深雪。もう絆も照れ隠しは程々にしないと勘違いされちゃうよ」
「はいはい」
姶良は鶴ヶ谷に手を引かれて女子のグループに戻っていく。
早速アクの強いのと、知り合っちゃったな。
極力、気にしなければいいかなと思ったけど殺さんばかりの視線を向ける鶴ヶ谷を見る限り、これは無理かな。
よくよく周りを見ると、全員揃っているようだ。
時間的にもそろそろ……。
「集まっているようですね」
教師らしき男が入ってきた。
「とりあえず私から自己紹介するべきですね、私の名前は鷲尾 陣、これから君たちの担任を務めることになりました。ちなみに今日はすることはないけど自己紹介しあいましょうとは言わないですからね。なにせクラスメイトは仲間でもあるけどライバルでもありますからね」
「何が言いたいんですか?」
鷲尾先生の正面にいた眼鏡の男子が怪訝そうに聞き返す。
「これは担任である私からの忠告ですが、イベントが起きていなくても戦いです。情報を制するものはイベントを制します。その情報には貴方たちの個人情報ももちろん含むのですよ。あぁ、ちなみに明日から通常授業です。イベントは不定期に発生するものですから、覚悟しておいてくださいね」
情報……ね。
彼女との約束を果たすには今からでも動くしかないんだけど、今日は仕方ないかな。
周りの連中は妙に疑心暗鬼で緊張感の抜けない顔をしている。
あんな話をされたのだ。
仕方がないのかもしれない。
そういえば、姶良はさっきのことにどう思ったのだろう。
そっと横目で様子を伺うと、ぽっーとして首を傾げている。
こんな話を聞かされてぽわぽわしていられるのはどういうつもりなんだろうな。
あっ、鶴ヶ谷に怒られている。
あの2人はきっと関係なく常にペアでイベントに挑むんだろうな。
じゃあ、今日はこれで終わりだしまた本でも買っていこうかな。