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校門をくぐると

彼女がいないと思うだけで限りなく鬱だ。

僕がこの場にいることが奇跡に近いのではないだろうか。

それもこれも全て彼女との約束があるから。

『私の為に自分を犠牲にしないこと』

これが彼女との約束の一つ目だ。

この約束があるからこそ重い身体を引きずり、ただ退屈なだけの世界を彷徨っているのだ。

希望を膨らませ胸を張り校門くぐり抜けていく人々の中、僕だけはまるで亡者のように俯き亀のようにのそのそとくぐり抜ける。

「ちょっと、君!」

やけに元気な声が響き渡る。

これは少女の声か。

まぁ、関係ない。

「そんな暗い顔でどうしたの?」

僕に対してに聞こえるが心当たりはない。

人違いだろう。

「これから楽しい学園生活、もっと顔上げていこうよ!!」

ついには肩に触れられた感触を感じる。

ふむ、ゴミでも飛んできたかな?

僕は肩の上のゴミを軽く払うと再び歩き出す。

「もう! 無視しないで、君だよ、君!」

あまりのしつこさに僕はいい加減に仕方なく振り向く。

直後、絶句した。

ここで余談だが、この学園の理事をしている一人に服飾デザイナーの娘がいるらしく、この学園の制服はその娘がデザインした制服で特に女子には可愛いと評判なのだ。

そして僕に声をかけた少女は……。

腰の辺りまで垂れたライトブラウンの髪、優しげな瞳、バランスがとれてモデルみたいな体型、見るからに太陽みたいな魅力を秘めた明るい表情。

この学園の制服が見劣りしそうなほどに綺麗だった。

「どうしたの? 惚けちゃって」

少女の声で僕は意識を取り戻す。

「いや、綺麗だったから驚いて」

「綺麗? 何が……」

ああ、言葉足らずで伝わらなかったみたいだ。

「いや、だから君が」

「えっ、普通初対面でそういうこと言うかなぁ」

まぁ、確かにこれじゃナンパみたいだ。

それでも、そう思ったのだから変に隠す必要はないと思うのだが。

それに彼女も言っていた。

『周りに流されるのじゃなく、自分らしく生きなさい』

「綺麗だと思ったんだから、綺麗と言うことはおかしいことじゃないと思うよ」

「間違いじゃないんだけどね」

「必要だったら醜いと言ってもいいと思うんだよね」

「醜いはダメじゃない?」

「そうかもね。まぁ、気を遣うってことは相手に気にいられたいってことだからね。どうでもいい相手には別に構わないんじゃないかな」

「初対面でこういうのもなんだけど、君って相当変わってるね」

「そうかもね。でも隠れて隠して人に合わせることに価値を感じられないからね」

「うー、協調性ってのは社会においては大切だと思うよ?」

「確かにね。ところでどうして声をかけてきたの?」

「入学式で異常に暗い顔でゾンビみたいに歩いている人がいたら声くらいかけると思うよ」

「えっと、それだけ?」

「そうだよ」

僕は少し驚いていた。

人は合理的な生き物だ。

僕みたいに見るからにめんどそうなやつに、こんな晴れの日に声をかけるなんて……。

それがこの少女の個性なのだろう。

「悪いと思うけどそれだけなら、僕のことを放っておいてくれないかな? 迷惑なんだ」

しかし、僕には関係ない。

僕は好きでこうしているのだ。

ここには彼女と僕の希望があるから彼女の分まで僕がここで生きていくんだ。

僕は少女を振り払うように歩みを進める。

「ちょっと、待って!」

「まだ、なにか?」

どうしてまだ話しかけてくるのか。

正直、うっとうしい。

どうしてこうも干渉してくるのだ。

「私たち、まだ自己紹介すらしてないの」

「だから?」

「自己紹介しましょっ!」

なんも聞いてなかったのだろうか。

「 はぁ、僕は郡山 絆」

仕方なく自己紹介する。

ここで変に渋るよりはそうした方が早そうだったからだ。

「私の名前は藍澤 姶良」

「えっと、個性的だね?」

「ふふっ、変でしょ? 友達とかには、あいあいって呼ばれたりしてるんだよ」

自分で変とは言っているが、まるで自分の魅力のように語っている。

「僕を変と言ったけれど、君も相当変だね」

「確かにそうかもね。それと君じゃなくて姶良、ちゃんと名乗ったでしょ。絆」

いきなりファーストネーム。

しかもそれを僕にも強要とは恐れ入る。

まぁ、別に構わないけど。

「姶良、これでいい?」

「うん、完璧だよ。絆」

そう言ってサムズアップされる。

僕にとっての姶良の第一印象は面倒な少女だった。


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