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<R15>15歳未満の方は移動してください。

私は後ろは振り返らん!

作者: 橘 雫

後ろを振り返っても、あまり良い事って無いですよね?

私、井上 晴海には15歳の時から付き合う幼馴染みの福井 彰という恋人がいる。

かれこれもう、10年の付き合いになるのね。

長いなぁ〜



しかし、私は知っている。

10年の付き合いだが、彼の浮気が只今10回目を迎えていることを。



彰は昔から、近場で浮気相手を見付けている。

と、言うか、向こうから来られると断らないのだ。



それなりに自分に自信のある子達なのだろう。

彼女がいる男に声を掛ける女だもの、男の彼女より自分の方が可愛いとか美人とかの自信はあるだろうし。

甘え上手だったり、甘やかし上手なんじゃない?

男の状態を見て、対応を変えたりしてるんだろうか?

私には無理だらこそ、感心するよ。


社会人になっても、それは変わらないし。

むしろ、女の子達のギラギラ感が凄くなったような来はする。

彰は見た目はちょっと格好いい位の男だが、頭の回転が速いのか、口が巧い。

営業職は天職なんだろうね、成績はトップクラスなのよね。

性格は明るく裏表が無いか、上司の覚えも良いし。

結婚相手には理想なのかしら?



でも、何故か彰は何度浮気しようとも私と別れようとしないのだ。

いつだって去って行くのは彼女達だった。



社会人になってからの浮気相手は、周りに彰と関係したことを隠さない。

彰と私は同じ職場だったから、むしろ、吹聴していたんじゃないかしら。

私にバレて、別れることを期待していたんだろう。

でも、私が彰に別れを切り出す前に、彰が彼女達に別れを切り出す。

そして、彼女達は周りの視線に耐えられなくて会社を辞めていく。

あからさまな腰掛けなのね。



彰の態度から、私と別れて自分と付き合ってくれると踏んでいたんだろう。

自分で自分の首を締めた感じね。

女子の視線が痛かったのかしら?

それとも、男性陣の引いた感じが辛かったのか。

多分、後者かな?



そんな感じの浮気が数えて10回あった。

1年1回のペースか。

なんと言えばいいやら。

私が怒らなかったのが問題なのか?



まあ、そんな彰の浮気があっても、付き合って10年目。

15歳の誕生日に彰に告白されて、了承してから10年、今日で私も25歳になった。



誕生日だから、今日は2人でお祝いしようって、1ヶ月前から彰がイタリアンのお店を予約してくれていた。



「晴海、誕生日おめでとう!」

赤ワインのグラスを掲げながら彰が微笑む。

「ありがとう」

私もグラスを軽く掲げながら彰に微笑む。

グラスのぶつかるチンッという高い音が綺麗。



渋過ぎない赤ワインは私好みだった。

さすが10年の付き合い、彰のチョイスは失敗が無い。



グラスをテーブルに置いた彰が、上着の内ポケットから小さめの箱を取り出す。

綺麗に包装された箱。

赤いラメ入りのリボンが可愛い。



「…晴海、受け取ってくれる?」



「開けていい?」



「うん。開けてみて」



彰がちょっと緊張した顔で私を見ている。

なんとなく予感はしていた。

最近、彰は私を見るたびにそわそわしていたし、いつもより優しかった。

私の作った料理を過剰に誉めたり、普段はしない片付けを手伝ったり。

彰も10年という節目に感じる物があったのかも。



丁寧に開けた包装紙の中から出てきたのは、紺色のジュエリーケース。

中には私の誕生石の付いた指輪。



「晴海、結婚しよう?」



指輪を見たまま、無言の私に彰が切り出す。



「俺たち、付き合って10年になるし、ちょうどいいと思うんだ」



「……」



「俺の嫁には晴海しか考えられないし。」



彰が照れたような、少し頬を赤くして言う。



私は指輪を手に取ること無く、そっとジュエリーケースを閉じる。

テーブルを滑らすように、正面の彰にケースを返す。



「ただの誕生日プレゼントなら受け取るけど、結婚指輪としてなら受け取れない」



彰の顔を見ながら、はっきりと言う。



「…え?」



「私、彰と結婚する気は無いわよ。むしろ、今日は別れ話をしようと思ってたし」



「は?」



呆気にとられた彰の顔。

そんなに不思議な事を言った覚えは無いんだけど。

何が悲しくて、浮気するような男と結婚するのよ?

結婚したら浮気をしなくなるなんて信じてないし。

そんな都合よくいくわけないじゃない。

私は今さら、そんな夢は見ないよ。



「結婚したいなら、今の浮気相手としたら?」



「!?」



「智子なら、喜んでしてくれるんじゃない?」



…智子は私達の幼馴染みだ。

ある意味、最後の最後に大物が来た気分だ。

さすがに智子と彰がいちゃいちゃしながら彰のアパートの部屋から出てくるまで気が付かなかった。

ホント、びっくりしたわ。

人生って、何があるか分からないわね。



「ああ。智子が彰の子を妊娠したらしいわよ」



「はっ!?」



「あんたも父親になるんだから、もうちょっとしっかりしたら?」



「ちょっ、ちょっと待って!それ、智子が言ったの!?」



「そうだけど?」



智子の妊娠を聞いた彰が、真っ青になって問い掛けてくる。



「昨日の夜、智子から泣きながら電話がきたわ」



あざといよね。

泣いたら許されると思ってるんだから。

きっちりその後、智子の親に報告してやったわ。

当然でしょう?

智子の親も、私と彰が昔から付き合ってるの知ってるんだから。

その後、慌てて家に来た智子のおじさんに土下座で謝られたのは困ったけど。



「最低ね。あんたも智子も。さすがに幼馴染みの2人に裏切られるとは思わなかったわ」



「妊娠なんて、俺は知らない!」



「彰が知ってるかどうかなんて、私には関係無いじゃない。後は智子との話でしょう?」



「俺は晴海と別れるつもりは無い!智子とは…誘われたから1度だけしたけど、それっきりだし!」



「あら。1回で妊娠って、随分と相性が良かったのね?」



知らなかったら許されるとでも思ってるのかしら?

子供じゃあるまいし。



「智子のおじさんに殴られる覚悟で挨拶に行く事ね」



真っ青なままの彰を席に残し、私は席を立つ。

せっかくの誕生日、こんなくだらない茶番に付き合うのは勿体無い。



「じゃあね、彰。さようなら」



「…晴海、晴海だけが好きなんだよ…」



何だか情けない声が聞こえたが、振り返る気は無いわ。

さんざん浮気を繰り返しておいて、好きなのは私だけって、阿呆なのかしら?



お店を出ると、涼しい風が吹いていて、ホッと息が抜けた。



「あれ?井上さん?」



低い声に後ろを振り向くと、いつも柔和な雰囲気の上司が居た。



「上田課長、今お帰りですか?」



スーツにカバンを持ったままの課長に返事する。



「ああ。ちょっと帰り際に電話がきちゃって」



「お疲れ様です」



「井上さんはこれからデートかな?素敵な服だね」



彰との最後のデート位はと気合いを入れた服装を上司に褒められちゃった。

照れ笑いしながら否定する。



「たった今、別れたちゃったので、残念ながらデートは無くなりました」



職場の人にも彰との付き合いは隠していなかったから、別れたのははっきりさせ

ておいた方が良いだろう。

あやふやにしておくと面倒そうだし。



「悪い質問しちゃったかな」



課長が気まずそうに頭を掻く。

何となく、その顔が可愛かった。



「ふふっ。晩御飯、食べそびれちゃったので、驕ってくれたら許しますよ?」



おどけて言ってみる。

課長は目をまんまるにした後、ニコッと笑うと時計を確認した。



「この時間なら、僕の行き付けの店が開いてると思うんだけど、天ぷらとかどうかな?」



「天ぷら、大好きです!」



「じゃあ、行こうか?」



課長の手が、そっと私の背中を押す。

ちょっとした事なのに、上司に女の子扱いされているようでドキッとした。

失恋したてで、人恋しいんだろうか?



「…課長って奥さんとかいましたっけ?驕ってくれなんて言っちゃいましたけど、お家で待ってる方がいるなら無理しないで下さいね?」



動揺を隠すように、早口で言ってみる。

そんな私にクスッと笑い、こちらに顔を近づける課長。



「寂しい1人者だから、安心して?」



「そ、そうですか」



何となく恥ずかしくなってうつ向いてしまう。



「だからね…」



課長の手が、私のカバンを持つのと反対の手にちょっとだけ触れた。



「井上さんがフリーになったって聞いて、チャンスかなって思ってる」



思わず顔を上げてしまった。

思いの外、近くに課長の顔がある。

相変わらず柔和に微笑んでるのに、眼だけは奥に何かが潜んでいそうだった。



「寂しいとこに漬け込むみたいだけど、ゆっくりでいいから考えてくれる?」



「は、はぃ」



小さく返した返事。

彰との別れから、30分も経ってはいない。

それでも、ちょっとだけ触れた手にどきどきした気持ちを捨てたくないと思う。

この先、課長とどうなるのかはまだ分からないけど、課長の眼の奥に潜むものの正体を知りたいと思ってしまった。



「行こう?」



今度はちょっとじゃなく、握られた手。

包まれる感覚に心臓がきゅっとなる。

甘美って言う言葉があてはまってしまいそう。

手を引かれながら、振り返らずに自分の気持ちに正直に、前だけを見ようと思った。


この先、課長がヤンデレたりしないだろうか…?

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[一言] 誤字脱字報告になります。 誤)営業職は転職 正)営業職は天職
[良い点] 面白かったです!! [一言] 浮気野郎は最低ですね。あんな屑野郎は一辺社会の厳しさを、体感して欲しいです。 それに比べて上司は良い相手だと思います。ヒロインちゃんと上司は、永遠にイチャイチ…
[良い点] 面白かったです [一言] 課長職であれだけ口がうまく、手も早そうなのに独身……。あっ(さっし
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