無能の証
「アクセスコードの紛失…。犯人の狙いはASURAへのアクセス。しかし、仮にも秘密裏にされているこのシステムをなぜ知っている。」
薄暗い照明のなか、モニターの淡い光だけが部屋を照らしていた。
公安0課本部、地下一階。ここには、主に電子室がある。
2係は今、赤の部屋に集まっていた。赤は迷惑そうにそっぽを向いたまま携帯をいじっていた。
さすがの安藤もタバコは控えていた。
「しかし、ASURAにはここの端末以外からはアクセスできないようブロックがかけてあるはず。アクセスコードだけではなにもできないのでは?」
「そうっすよ。そうじゃなきゃ、今まで秘密に出来てたわけないじゃないすか。」
「そもそも、猟犬が襲われた事自体がなかったわね。」
「あの…。」
気がつくと赤が椅子をむけて見ていた。大久保がかるく頷く。
「たしかに、ASURAの操作はここの端末以外からは使えない。だけど、アクセスだけはできる。そして、アクセスコード自体のプログラムさえ変えてしまえば操作も可能かもしれない。」
「そんなことできるのか?!」
「安藤さん。あんま、大きな声出さないでください。まだ、ハッキリとはいいきれません。それに、かなりの技術が必要ですし。」
「我々がマークしているハッカーで不穏な動きを見せるやつはいないのか?」
「先ほど全カメラで行動を確認しましたがいまのところ該当人物はいません…。」
全員からため息がもれた。
パソコンの起動音だけが部屋の中に響いている。
「すいません、そもそもアクセスコードがないのはたまたまかもしれないのに私の勝手な思いつきに皆さんを巻き込んでしまって。」
「いや、最初にいったのは俺だ。俺にも責任はある。」
「大丈夫よ。希は間違ったことはしてないわ。」
今川は、そっと姫﨑の肩に手をおいた。
ありがとうございます、と小さな声で姫﨑はいった。
「それにしても、どうしてどのカメラにもうつってないんすかねぇ。」
「姿なき殺人犯。やつは一体何者なんだ。」