姿なき殺人
降りしきる雨がいつもより冷たい。
11月の冷たい雨が姫﨑 希の頬を打ち付けていた。
深夜1時だというのにあたりには眩しすぎるほどの証明がたかれ、人がせわしなく動いている。共通点は、同じジャケットを着ており、背中には「DOGS」と書いてあることだろうか。
「おい、姫﨑早く来い。」
先輩捜査官 安藤 宗治が呼ぶ。
「すいません。」
「まったく、ヒメももう配属されて半年だ。そろそろ血の色にも匂いにも耐えて欲しいものだね。」
「いえ、チーフ。それは、大丈夫なのですが。」
「チーフ、赤から連絡が。」
チーフと呼ばれる2係係長大久保 雅也が今川 望の端末を見る。
今川は、希と同じく女性で先輩として頼れる存在だ。
「赤。なにかわかったか。」
「なんにも、姿なき殺人者だね。」
「警察に行ったら怒られそうだ。」
赤は、本部で主にサイバー関係で働く。その素性は不明で腕だけは確かだった。
「チーフ、やっぱり目撃者もいませんね。」
元SWAT隊員の西 健弥が走ってきた。銃器の扱いにはたけているが捜査はあまり得意ではない、と本人が言っていた。
「なるほど。本当に姿がないのかもしれないな。」
鋭い目つきをした男が死体を睨んだ。
係長補佐の柳澤 満だ。
私は、この7人のいる2係に所属していた。
「とりあえず、西と柳澤は本部に戻ってくれ。赤、ASURAを使っていいぞ。今川は俺と合流する捜査一課に説明だ。安藤とヒメはこのまま鑑識と連携して捜査してくれ。」
各々チーフの命令通り動き始める。
姫﨑は、死体にかかっているブルーシートをあげた。
着ている服は真っ赤にそまっていた。
「猟犬殺しとは。敵さんはそうとうの手だれの持ち主だな。」
「こんなこと初めてですよね?」
姫﨑が安藤を見上げる。
安藤は口から煙をはくとタバコをタバコ入れに投げ入れた。
「俺たちの身分は極秘事項となっている。はたして、犯人は俺らを猟犬として知って襲ったのか、それとも知らずに襲ったのか。」
「たしかに…私達を襲うなんてある意味では国家に背くことになりますしね。」
安藤が2本目のタバコに火をつけた。
姫﨑は黙って安藤の言葉を待った。
雨は容赦なく2人を打ち続けていた。
「ところで、こいつのアクセスコードはどこにいった。」
時が一瞬止まったような気がした。