人間って!
でも、このときのあたしたちには解っていなかった。
それが一体どういう意味を持つ事なのか。どういうことなのか。
「封印を。この際解こうと、思う」
「ギリガン様!! それは!」
あわてた小父さまの声。焦燥の表情。
〈良い男、悩む姿も麗しい〉
バカな標語?まで、出てしまう。どうした、あたしの脳味噌。
(はっ。これが噂のゲーム脳!?)
どうやら、短期間に色々ありすぎて脳味噌がオーバーワーク気味。
深刻な話ほど、ついていけない。茶化したくて、仕方がない。
ただそんなあたしのおバカな思考を余所に、まじめな会話は続く。
「ディル、お前の懸念はよく分かる。しかし、このままでは埒が明かない」
「・・・・・・」
「もしかしたら、竜でも無理かもしれない。けど、ね」
あの人の力って生半可じゃないし、でも、他に良い手もないし。
面白そうに悪戯っぽく言って、春日は小父さまを窺うように見ている。目線で促しているようだ。
「・・・・・・」
小父さまは、――やっぱり沈黙を守っている。
部外者のあたしには何が何だがさっぱり。説明を、誰か説明を求む! 誰からも説明がないまま話しは続いている。
「いつまでもこのままじゃいられない。しなら、打って出ることも必要だと思う。
今のままの状態で、しかも封じられたままでは、いざという時に『力』も振るえず足手まといでしかない。
ディル。お前には迷惑をかけっぱなしですまないと思っているが」
「いえ、そんなことは・・・・・・」
「危険な賭けかもしれない。しかしヤツ等の思い通りにはさせない」
静かな決意を秘めたまま春日は言い切った。
そんな春日はいつもよりきれいに見えて、あたしは見とれてしまった。
ちらっと隣を覗くと、俊も見とれているみたいだし~。
(でも、女性より綺麗な男性なんてちょっと、否。かなり、嫌かも)
人間はいつでも我が儘だ。
「ふぅーー」
小さく息を吐くと小父さまは、
「確かに貴方様の仰るとおりです。危険なことに変わりありません。ですがこの場合、時間を賭けても状況が良くなるとは限りません。
ならばこちらが先に動くのは『是』でしょう」
と、一転して春日の主張(=提案)を受け入れた。
すべてを憂いたままでは身動きが取れない。 と、いうことらしい?
(う~ん。何だかわからないぞ! って、つまりこれってどういうことなの??)
ああ~っ。誰か理解できるように説明してーっ!!
あたしの苦悩を余所に俊のヤツは、
「この前から、竜、竜って言ってるけど『竜』なんて本当に存在するのか?」
なんて言い出した。
「別に・・・・・・。竜じゃなくてもいいんだよ」
意外な言葉が返ってきた。
「『竜・麒麟・鳳凰』この三聖獣が「訳語」としては、相応しい。 ――というだけだ」
じゃなきゃ、エルフ(妖精・妖魔)とかかな? 首をかしげ、春日がつぶやく。
「「訳語」」
思わず。ハモって繰り返す。
頷く春日に代わり、小父さまが語る。
「今、君たちが理解するこちらの言葉は、我らの世界で一般的に使用されるものを君たちの使う言語――日本語に『意訳』し、伝えている」
つまり、直訳じゃない。ええっと直訳、出来ないってこと?
「言葉が『意訳』であって『直訳』ではないのは、ただ。世界が異なる為だ」
あたしの考えを読んだように春日が説明を加えた。
「国や文化。歴史に、その個人の育ち方が異なるだけでも意志や、考え方の違いは大きい。
まして『異世界』は、根源の成り立ちから異なる。――世界が違うのだから」
「えっと。てことは『竜』じゃ無い。のか?」
戸惑う思考をまとめる為か。片手を頭にやった俊が、呻くように訊いている。
「う~ん? 力というか遠目での形成上というか、似てない事もないだろうけど。
そもそも本物の『竜』なんて地球では誰も見たことがないんじゃないかな」
「・・・・・・。まぁ、確かに俺はないな」
応える春日も俊と同じく、悩める口調だ。
「簡単に言えば『人間』を超越した存在として、説明する『訳語』として相応しい。って、ことだけだしね」
と語る春日にしてもその説明に苦慮しているのが、傍で見ていてもはっきりとわかる。
あたしだって当然、現物にはお目にかかった事などないし。
(まぁ一応、架空の生き物だし)
でもって、ゲームに本や、マンガの世界では大活躍中!
火吹いたり、願いを叶えたり。宝を守ったり、呪ったり?と、何かと忙しい。
だろう? と言うように春日はあたしたちを眺めやる。
「いずれにしろ。準備だけは万全を期しましょう」
小父さまの言葉がそこで入ってきて、春日は鷹揚に頷いた。




