プロローグ
華の女子高生!なんてよく聞くけれど、いざ、なってみると中学の頃と変わらなかった。
部活は中学よりも本格的になっているようだけど、帰宅部の私には関係無い。
毎日毎日、ただ消化していくだけの日々。
「……退屈」
そう、退屈だった。
この日々を変えたい。
けれど、どうすれば変えられるのか分からない。
私はただぼんやりと過ごしていた。
** **
そして今日も特に何もなく帰りのHRが終わった。
「なぁ藤咲、技術の課題終わった?」
「まだだけど……」
隣の席の進藤遊哉。
家が近所だと分かってから急に馴れ馴れしくなったような気がする。
「じゃあ一緒にやろう! 今からコンピュータールーム行こうぜ!!」
「ちょっと進藤、鍵は?」
「あ、そっか。俺が借りとく。藤咲は先に行っててよ」
「うん」
全く。誘うんなら鍵くらい借りておいて欲しいと思ってしまう。
私は進藤が職員室に向かったのを見届けてコンピュータールームに向かった。
「どう考えても進藤より私のほうが早く着くよね」
廊下を歩きながら小さく呟く。
進藤のことだ。どうせ手続きに手間どるに違いない。
それに職員室は一階。コンピュータールームは三階。私が居るのも三階。
確実に早く着く。
仕方ない、課題の確認でもして待とう。
私は提げていた学生鞄から赤いファイルを取り出した。
パラパラとページを捲り、課題のページを開く。
「これかな、『地球温暖化についてまとめなさい』」
また面倒な課題だ。
地球温暖化について調べ、自分の考えや日常生活での取り組みなどをまとめ、金曜に提出。
今日は水曜だから……うわ、ギリギリだったんだ。気付かなかった。
調べるのはパソコンにお任せするとして。自分の考えや取り組み……
ぶっちゃけ、何もしてないんだけど。
まあ適当に真面目にやってます~みたいな雰囲気で書けば、なんとかなる、かな?
「ごめん、お待たせっ」
「わざわざ御苦労さま。今回の課題面倒だね」
「うん俺一人でやってみたんだけどよく分かんなかったから。藤咲と一緒にやったら捗るかなって思って」
進藤は鍵を開けながら言う。
そんなこと言われても、私は今考え始めたところだから直ぐには思いつかない。
「はい、どーぞ! 入って」
「失礼します」
「藤咲は律儀だな、誰も居ないのに」
「まあ、学校だから」
「そっか」
進藤が窓際の席に座ったので私も隣に座る。
パソコンの電源を入れ、課題を広げる。
すると進藤が覗き込んできた。
「まだ真っ白じゃん!」
「だってさっき気付いたから」
「じゃあ俺誘って良かったね~」
「そうだね、有難う」
「いえいえ」
進藤もパソコンの電源を入れて準備を始める。
私はパソコンが立ちあがるまで大凡の流れを頭の中に描いていた。
――まずは地球温暖化の一般常識程度から入って、途中で疑問に思ったことを書く。
それでその答えを調べて、それでラストのまとめで大丈夫そう。
あ、途中に取り組みも書かなくちゃいけないんだった。
うーん……思ったより大変かも。
「藤咲のパソコン重いな」
そういえば。
進藤はもう検索を始めている。私の方が進藤より先に電源を入れたのにこっちはまだだ。
「もしかしてフリーズとか? こっちのパソにする?」
「もうちょっと待ってみるから、大丈夫。」
「了解」
だって課題広げちゃったし。移動中にパソコンが立ちあがったら、きっと苛々するし。
時計を確認する。よし、あと五分経っても動かなかったら諦めよう。
そう思ったら、何事もなかったかのように普通に立ちあがった。
さて、まずはネット開かないと。
インターネットに接続するボタンをダブルクリックする。
そして文字入力を――
「なに、これ?」
「ん? うわぁ、ウイルスとか?」
文字入力をしようとクリックしたら、突然画面が真っ黒に。
それなりにネットは使うけれどそこまで詳しくない。
こんなこと初めてで対処の仕方が分からなかった。
……授業ちゃんと聞いておけばよかったなぁ。
「先生呼んでくる」
「ちょっと待て! これ……メール通知?」
進藤と顔を見合わせる。
真っ黒な画面の中央にメールのコマンドが表示され、click! と点滅している。
「どうしよう、やっぱり先生を」
「click! するに決まってんじゃんか!」
止めようとしたけれど、進藤はもう選択してしまっていた。
真っ黒な画面に白い文字で
◆◇ ◇◆
【学生の諸君】
お前達は今を変えたいと思ってはいないか?
このメールをclick! している時点で思っているのだろう。
少しでも変えたいと思っているのなら[此処]をclick! しろ。
但し、如何なってもこちらは責任を負わない。
では、健闘を祈る。
◆◇ ◇◆
と書いてあった。
「胡散臭……」
「すっげー! 面白そう!!」
どうやら進藤は私と正反対の性格のようだ。
「click! しようぜ」
楽しそうに話すけれど、私は反対。
「嫌だよ、もし変なサイトにリンクされてたらどうするの?」
「大丈夫だって! それに、もう十分変だ!」
進藤がニヤリと悪戯っ子のように笑う。
私は呆れて言葉も出なかった。
それを了解と間違って受け取ったらしい進藤がclick! を選択する。
すると真っ黒だった画面が段々と白っぽくなり、やがて、眩しいほどの光を放ち始めた。
あまりの眩しさに、思わず私達は目を閉じ、画面から顔を背ける。
「う……眩し」
「わくわくするな!」
「それは進藤だけだよ」
数分が経っただろうか。
恐る恐る目を開き、画面を確認する。
進藤はもう、画面に釘付けになっていた。
「見ろよ! これ!!」
進藤の指差す文字。
「零?」
「きっとこのサイトのタイトルだ」
進藤は手元の紙にメモしている。