エピローグ
数日後、パルナは無事に退院した。銃弾をマナバリアでかなり防いだ分、傷口も浅かったという。慎一郎はあの時、自身の服に付いたパルナの血糊を思い出しつつも、無事に回復したパルナをただただ喜んだ。
退院の手続きを済ませ、病院から自宅へ向け、徒歩で帰る慎一郎とパルナ。
「本当に……良かった……」
「マスター、ご迷惑お掛けしました。」
「そんなことないから、ルナは何も気にすることないから。」
「……はい。」
「傷口は……どう? 痛む?」
「問題ありません。」
「そっか、良かった。」
……。
パルナが小声で呟く。
「痛いの、痛いの……飛んでけ……」
「ん? ルナ、今、何か言った?」
「あ、い、いえ……なんでもありません……なんとなく……」
「そっか……」
自宅に戻る二人。先の件で破れた洋服は、何も言わずに慎一郎の母親が直していた。大騒ぎになると予想していたが、反して何事もなかったかのように接する母親。父親が何か働きかけたのかもしれない。
「これこれ、ルナちゃん、早く着てみて~。」
退院直後だというのに、早速、直した服を着させる。パルナは良く分からないまま母親に身を任せ、されるがままになっている。慎一郎は脱ぎきった時だけ、顔を伏せ、母親に呆れながら諭そうとする。
「あのさ……」
「うん、ぴったりね! ああ~ん、ルナちゃん可愛い~。」
「ルナは退院したばかりだから、ゆっくりさせてやってよ。」
「私、昔からずっと娘が欲しかったのよ~。なんで息子が生まれたのかしら?」
「人の話を……というか、僕は全否定なのね……」
「ルナちゃん、これも着てみて~、あとこれも~……それとこれもね……」
「は、はい……お母様。」
あたふたしているパルナは珍しい。
「ルナ、傷に障るし、嫌だったら、すぐこっちに来るんだよ?」
「はい、マスター。」
「ほら、これもルナちゃんにぴったりだと思うのよ~。」
一人、自室に戻り、ベッドに横たわる慎一郎。
「はあぁ……僕は一生、母親には敵わない気がする……」
そう溜め息混じりに独り言を放ち、仰向けになってベッドの天井を見る。毎日見ているはずの天井だが、久々に見たような感覚を抱き、魅入ってしまう。そして、漠然と今後のことに頭を巡らす。このまま、パルナと一緒に仕事を続けていくのか、パルナを傷付けず、ミッションを進められるのか、どうすればいいのか……
……カチャ。
数十分後、慎一郎がベッドでうとうとし始めた頃、静かにドアを開け、戻って来るパルナ。
「ん……ルナ……?」
「マスターに買っていただいた服を、お母様に直していただきました。」
「ルナ、母さんから解放されたんだ? 良かった。」
「はい。」
「直していただいた服……どう……でしょうか?」
パルナがスカートを手で広げ、服を見せようとする。違和感がある、というか、別物に変わっている気がする。
「うおお、つーか、原形、留めてないし!」
「だ、ダメでしょうか?」
「あ、い、いや、いいんだけど……似合ってると思うよ。でも、元の服と違うよね……」
「あまり原型を留めていないかもしれません。」
「母さんは色々おかしいから、嫌だったら、ほっといていいからね。」
「マスターのお母様は、私に、とても良くしてくださいます。入院中もとてもお世話になりました。そのようなこと……」
「そうか……無理のない範囲でいいからね。服とか、女性のことか、そういうのは母さんに聞くのが確実かもね。それ以外のことは、無視していいよ、うざいだけだからね。」
「分かりました。ミッションに支障が出ない範囲で気をつけます。」
「うん、そうだね。」
後日、その母親がアレンジした服を着て、二人で買物に出かけることにした。
「今日はルナの好きな物、全部買おう。」
「私の……ですか?」
「ほら、パトロール始めてから、お金が入ってきたし、全然、使ってなかったから、結構、お金、溜まっているはずだし。」
「パトロールの……お金とは……」
パルナの言葉を遮る。
「なんでも言っていいよ。バンバン買っちゃおう。」
「マスター……よ、宜しいのですか?」
「勿論。」
……。
「で、では……お洋服を……一着……」
「洋服ね、他には?」
「んー、お洋服……が……マスターに一着、選んで欲しいです。」
「幾らでも買うって、約束したからね、好きなだけ、じゃんじゃん買おう。」
「はい、ありがとうございます。」
しかし、特防警の給与支払が翌月払いだと知ったのは、慎一郎が銀行に行って預金残高を見た直後、パルナから説明を受けた時であった。




