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不穏な雑木林

 相撲崎市の市郊外に不法投棄が問題視されている地域がある。この日、慎一郎達はその地域、雑木林を重点に置いたパトロールのミッションの予定が入っていた。

「目が慣れても、暗くて全然見えない。」

「やはり、懐中電灯を持ってきていないのが問題だと思います。」

「だ、だよなぁ……暗過ぎて。準備不足か……」

「はい。ですが……」

 パルナが左手を挙げる。

「マナバリアを展開すると、少し明るくなります。」

 パルナがマナバリアを展開すると、真っ暗だった雑木林が紫色に染まる。

「おおー、便利だね。」

「これで多少は安全かと思います。」

「た、助かったー……だけど、使い続けて大丈夫なもの?」

「雑木林をパトロールする時間内なら、問題ありません。出力も最低限で展開しています。」

「じゃ、じゃぁ、早くパトロールを進めよう、ね?」

「はい。」

 しばらく雑木林を歩く二人。直径一メートルほどの淡い灯り、それ以外は何も見えない雑木林。慎一郎は表面上は冷静に装っているが気が気でないようだ。

「マスター。」

「んああ!?」

「マスター、大丈夫ですか?」

「ううう、うん、なんでもない、大丈夫……」

「あちらに小さな灯りが見えます。」

「え……えっえっ?」

 慎一郎が目を良く凝らす。先を見ると灯りと共に、ほのかな金属音が聞こえる。


 がらがらがら……


 大量のゴミを降ろすような音。

「マスター、どうしますか?」

「あ、あれ……不法投棄の現場?」

「だと思われます。」

「ど、どうしよう? 僕がなんとかしないといけないのかな?」

「マスター、もう少し近づいて、相手の規模を把握した後、劇団に連絡しましょう。」

「わ、分かった。」

 雑木林の通路から外れ、マナバリアの灯りを消し、木々の陰に隠れながら近づいていく。相手のゴミ処理の音と比べれば、歩く音は気付かれることはないはずだ。十メートル程、離れた陰から、状況を探る二人。

「一台の乗用車、それと一台の大型トラック、人数は七、八名います。」

「多いね……」

「ゴミの不法投棄と思われます。」

「やっぱりそうなのか……分かった、報告しよう。」

「はい。」

「え、と……状況報告……応答願います。」

 慣れない慎一郎が自信なく、ボソボソっと話して劇団に連絡を取る。

 ……。

「おう、成瀬だ。」

「な、成瀬さん、すみません、あの……し、新人の中野です……」

「おう坊主か。どうした?」

 慎一郎が言葉を詰まらせつつも事情を説明し、恵一に問いかける。

「自分はどうすれば……」

「そうだな……」

 少しの沈黙の後、恵一が返事をする。

「……ちょっと荷が重そうだな。相手の身元も分からんしな。」

「え、えぇ……」

「分かった。お前ら気付かれないよう、隠れて様子を見張っておけ。」

「は、はい……」

「すぐに向かう。」

 一方、不法投棄の現場では人の動きがあった。

「ちょっくら、小便してくるわー。」

 直後、集団の中にいる一人が慎一郎のほうへ向かってくる。

「おお、さっさとしてこい。」

「あいよー。」

 慎一郎とルナが隠れている所に向かってくる男性。


 がさ……


「お? なんだ?」

 そう言って、懐中電灯を照らす男性。

「う、うわ!?」

 慎一郎とパルナが逃げ出す前に、他の者も集まってくる。

「おい、誰かいるぞ! こっち来い!」

 懐中電灯に照らされる慎一郎とパルナ。

「んあー? なんだ? ガキか?」

「あわわ……」

「そこのお二人さん、男女こんな森ん中で何やってるん?」

 黒いスーツをラフに着た、金髪の男がドスを効かせた声で聞いてくる。

「え、え……と……あの……」

「マスター、通路へ。副隊長が来るまで、持ちこたえましょう。」

「おっと、どこ行くん?」


 ざざざざ……


 暗闇の中、幾つもの足音が聞こえ、囲まれているのが分かる。不法投棄の現場から、異なる男の指示が発せられる。

「おい、絶対に逃がすな! そいつら(・・・・)も(・)埋めるぞ。」

「あー、へいへい、無慈悲だねぇ……」

 だるそうな感じで返事をする男、。

「マスター。」

「ルナ、聖剣使うよ?」

「了解です。」

 慎一郎がルナの股に手を滑らせ、しゃがむように地面に向けて聖剣を引き抜く。

「……!」

 同時に紫色の光を発する。

「聖剣、アメジストレーザーナイフ、抜刀完了。システム……オールグリーン。」

「なんとか……なんとかしないと……」

 慎一郎が聖剣を左手で構える。聖剣自身の発光で、周囲を取り囲む者達の容姿がぼんやりと分かる。スーツを着た物、アロハシャツを着た者、所々に付けているピアスや指輪が、聖剣の紫色の光を反射する。更に、各人、棒状の物……金属バットやパイプのような物を構えているのが分かる。

「お、なんだ? おもちゃでチャンバラですか? ははっ!」

「威勢いいねぇ、若さかねぇ。」

「ぶおん、ぶおん、とか音鳴りそうな。」

「愛おしい彼女を守ろうとする彼、健気やん。」

 周りから言いたい放題言われる。だが、その言葉の冗談ぶりとは異なり、殺意を強く感じる。

「ル、ルナ……だ、大丈夫……?」

「マスター、私はマスターの力を信じます。」

「わ、分かった……」

 男達が襲いかかってくる。

「この……」

 周りの攻撃を聖剣で薙ぎ払う慎一郎。簡単には当たらない。


「マナバリア!」


 ガンガンガンガンッ!!


「なんだこれ!? くそっ! 鉄板みたいの出しやがる!」

 何人かでパルナが展開するマナバリアを叩き壊そうとするが、なかなか壊れず戸惑う男達。その中で、一人が指示を出す。

「後ろ周れ! 囲め。」

 マナバリアの後方に周る男を慎一郎が防ごうとする。

「こ、このっ!」

 慎一郎が聖剣を振り降ろす。


 ガギイイィィン!!


 慎一郎の聖剣と金属バット、甲高い金属音と共に互いの武器を弾く。

「ちっ、それ、本物か。」

「はぁはぁ……ううぅ……」

「バカ野郎、そんなのとっとと殺っちまえ!!」

 他の男達から罵声が飛んでくる。

「い……」

「マスター?」

「息が……そ、それに……手が痺れる……」

「マスター……」

 慎一郎の体力がいち早く切れる。

「だ、だけど……負けない。」

「はい。」

 慎一郎は渾身の力でナイフを振り回す。それにより、相手と一定の距離を保ったまま時間を稼いでいる。パルナもマナバリアで相手の攻撃を受け流している。

「ちっ、コイツら! 面倒かけやがって。」


 ちゃき……


「!!」

 銃の引き金を引く音を敏感に察するパルナ。

「マスター!」

「……めんどくせえ、死ねや!!」

「マナバリア!」


 スドンッ!!


 ……。


 慎一郎を庇うように銃の目の前で

 銃声とパルナが倒れる。


「ル、ルナ……? ルナーーーー!!!!」

 パルナを抱きかかえる。


「心配いらんわ、次はお前や。」

「うぅ……マ、マナバリア……プッシュ!」


 ドンッ!!


 ざわざわさわ……


 銃弾が中木々の葉が散る音がすると共に、銃を放った男が数メートル吹き飛ぶ。

「いつつ……なんじゃ今のっ!?」

 体勢を立て直そうとする銃を持った男性。その間にパルナを抱きかかえ、木陰に移動させる。抱きかかえた時に感じた違和感。胸元辺りが濡れているのが分かる。

「くそっ! ルナ、しっかり! ルナ!」

「マスター、私は大丈夫です。早く……まだ終わってません!」

「ル、ルナ……? 血!?」

「だ、大丈夫です……」

「ルナ! ルナ!」

「マ、マスター、落ち着いてください!」

「ルナ……」

「ううう……だ、大丈夫ですから……私は……」

 傷口を必死に押さえるパルナ。

「……ごめん……ルナ、ピーちゃん呼ぶ。」

「も、問題ありません……ガーディアン……ショートカット……起動。」

「ルナ……すぐ終わらせるから! ピーちゃん! 頼む!」


 ……ぽむ。


 慎一郎の肩に乗るような感じで出現するピーちゃん。

「ピーちゃん!」

「兄弟、呼ぶの遅いわー!!」

 慎一郎の耳元で叫ぶピーちゃん。

「ピーちゃん、お願いだ! ルナを……ルナを助けてくれ!」

「嬢ちゃんが……そうか、とっととコイツら叩きのめす、それからだ! 分かったな、兄弟!!」

「わ、分かった!!」

 数名が金属バットなどで襲いかかってくる。

「ピーちゃん!」

「反重力マックス、吹っ飛びやー!!」


 どぎゃああああぁぁぁぁん!!


 襲い掛かってきた数名が雑木林に吹き飛ぶ。

「こいつら……変な力、使いやがって……だが、これで最期や!」

 背後に迫る殺気に気付く慎一郎。

「ピーちゃん! 後ろのアイツ! 右腕! 銃に重力を!」

「あいよ、兄弟!」

「死ね、くそガキィっ!」


 どむぅぅ!


 銃声……が先程よりも鈍い音となって消える。


「うぐああぁ、な、なんじゃこりゃああぁぁ!?」

 ピーちゃんが強力な重力を右腕に与え、銃と共に右腕を地面に付けている男。その男の地面に弾痕が見える。

「ぅぐ……動かねぇ……」

「お前……この……よくもよくもよくもルナをーーーーっ!!」

 重力で押さえつけられた男の右腕を聖剣で突き刺す。

「ぎゃああああ!!!!」

「これか! この銃か! こいつか!! こいつがルナをっ!!」


 ガシガシガシッ!!


「ぐあああああ!!」

 聖剣を何度も振り下ろし、男の右手と銃を滅茶苦茶に破壊する慎一郎。

「良し、兄弟! そのくらいにしろっ! 次、さっきの数名が戻って来るぞ。」

 ピーちゃんの掛け声と共に反対側を向く。

「分かった、うわああああああ!!!!」

 慎一郎の叫び聖剣を構えると、数名の男達がばたばた倒れる。

「!?」

 良く分からない状態に困惑する慎一郎。

「坊主、すまんな! 待たせちまったっ!」


 ……。


 聞き覚えのある野太い、それでいて優しさを感じる声。

「成瀬……さん?」

「タガネが遠距離から狙撃している。後は主犯格を捕らえるぞ!」

 そう言っている間に、銃を持っていた男も沈黙している。

「成瀬さん! 成瀬さん……う、うぅ……」

 慎一郎が恵一に泣き付く。

「おいおい、泣くのは後にしろよ、な? それに、俺は男を抱く趣味はない。」

「ううう……ルナを、ルナを……助けて……ください……お願いします……」

「ルナ? ルナちゃんが怪我したんだな? どこにいる?」

「あっちの木の陰で休ませて……銃で撃たれて……酷い……怪我……」

「おう、ドレスの反応あり、ルナちゃんの場所、確認した。」

 冷静に応答する恵一が言葉を続ける。

「坊主、落ち着いて聞け。お前の表示デバイス、コンタクトでルナのバイタル確認できるだろう。どうだ? バイタルの見方、分かるか? 何色に見える?」

「は、はい……ルナのバイタルがオレンジ色に見えます……ゲージ見たいのが……少しずつ減っています。」

「オレンジな、分かった。……おい、タガネ、聴こえてるか?」

「あいー。」

「狙撃終了したら、ルナちゃんをすぐ病院へ、頼むぞ。」

「あーい、もう終わったー! すぐ行くー! 後、一人、トラックの中ー!」

「トラックの中?」

 直後、暗闇に強い光が二人を当てる。大型のダンプカーが重いエンジン音を発し、慎一郎達へ向けて突進してくる。

「うお。」

「きょ、兄弟! あれは俺っちでも止められんぞ!!」

「……。」

「坊主、一旦、避けるぞ!」

「お前……ルナ……お前……お前かああああぁぁぁぁ!!!!」

 ダンプカーの前照灯に向けて走り出す慎一郎。

「お、おい、坊主!?」

「兄弟!」

 慎一郎の叫びと共に、聖剣がダンプカーの前照灯よりも強く、大きく輝く。その紫……藤色の強い光は数メートルまで伸び、水晶を象る。真っ白く発光させて突進してくるダンプカー、それに向かって走る慎一郎。

「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 ダンプカーを間一髪で避け、大きく伸びた聖剣を水平に振り斬る。なんの抵抗も音もなく、ダンプカーを真っ二つに引き裂く。そのまま慣性で数十メートル走ったダンプカーが不自然な形で停止し、直後、切り裂いた部分がずれ落ちて大きな爆発が起こる。

「はぁ……はぁ……はぁ……は……」

「おいおい……やるなぁ、坊主。」

 恵一が観光でもしているかのように、トラックを見物している。

「ルナ……ルナ……は……?」

「ちょ、待て……うん、了解。お疲れ、タガネ、そこで待機な。」

「あいあーい。」

 と、軽い返事が、恵一の通信デバイス越しから聞えてくる。

「タガネがルナちゃんを病院に連れて行って、今、着いた所だと。後処理は俺がやっとく。坊主、お前は病院へ急げ。」

「は、はい!」

 いつの間にかピーちゃんも消えている。ルナが病院に向かったことで、ガーディアンショートカットの効力がなくなったのだろうか。

 がむしゃらに走る慎一郎。病院の位置は端末で分かるもの、どのくらいの距離があるのか、確認しようともせず、無我夢中で病院の位置まで走り続ける。

 朝焼けの橙色と空色が交わる時間帯、相撲崎市の総合病院に到着する。汗だく所か、大雨にでも打たれたかのような、全身、汗でびっしょりになっていて佇む慎一郎。

「か……がはぁ……はぁ……はぁ……はぁ…………はぁ……」

 中腰で病院の入口に立ち、少し息を落ち着かせようとしていると、恵一の鞘束、タガネが病室の窓から慎一郎に声をかける。

「おーい、しんちー、こっちこっちー。」

「はぁ……はぁ……ルル、ル、ルナ……は……? ルナは!?」

「ルナルナ、大丈夫ー。だから、早くこっちー。」

「……分かった。」

 そう言って慎一郎がまた走り出す。病院の一室、パルナの部屋に入り、すぐさまルナのベッド際にある椅子に座り、ルナに声をかける。

「ルナ……ルナ、ルナ!! ……ごめん、ごめんよ、ルナ……本当にごめん……」

 声を聴き付けたパルナがゆっくり目を開けて応答する。

「マスター……」

 パルナの手をぎゅっと握る慎一郎。

「ごめん……ごめんごめんごめんごめんごめんごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

「マスター、何を謝っているのでしょうか……?」

「僕が……僕がルナを傷……傷付けてしまった……守れなかった……ごめん……ごめん……」

「マスター……私はマスターの聖剣を収める鞘です。そして、マスターの盾でもあり、鎧でもあります。マスターに怪我がなければ、その役目を果たせています。本当に良かったです。」

「違う……ルナ……違うんだ……僕が……」

「私のほうが……申し訳ありません。マスターに買っていただいた、お洋服を台無しにしてしまいました。」

「そんなのいいんだ! ルナが無事なら……服なら、服だったら幾らでも買うから!! ルナの欲しいだけ、欲しい物、なんでも買ってあげるからっ!! だから……」

 泣きながら訴える慎一郎。

「マスター……」

「ルナは僕の、僕達の家族なんだ! 絶対に傷付いて欲しくない! なのに……なのに!! 僕がルナを傷付けたっ!!」

「お気になさらず、マスターは何も悪くありません。」

「でも、でも……」

「大丈夫です、私はまだ……マスターと共にいることを許されているようです。」

「うん……」

「マスターはあれ程の事件を、素早く対処出来ました。それだけで私はとても嬉しいです。」

「ルナ……だけど、ルナが傷付いちゃ……それじゃダメなんだ……」

「マスター……」

「ダメな奴でごめん……本当にごめん……」

「謝らないでください……分かりました、次はもっと素早く対処しましょう。そうすれば、怪我することなく、対処できます。マスターなら可能です。」

「ルナ……」

「それで宜しいですか? マスター? だからもう、謝らないでください……」

「う、うん……分かった……僕も全力で守るから……必ず……守るから……」


 ……。


「マスター、少し……休んでもいいですか……?」

「うん……おやすみ。」

「はい、おやすみなさい……」

 パルナが目を閉じると、慎一郎にも急に睡魔が襲ってくる。ベッドの椅子に座っていた慎一郎はパルナの顔の側に頭を置き、そのまま寝伏せてしまう。

 眠に入る直前……ふと、気付く。

「甘酸っぱくて……軟らかい……匂い……ルナ……?」

 半分、寝言のように、そう呟いて、慎一郎も眠りに落ちた。

(僕はまだルナのことを良く知らない。もっとルナを知って、ルナの能力を上手く使って、これからも多くのミッションを一緒に乗り越えていかないといけないんだ。もっと、知らないと。ルナのこと……知ることから逃げていた。自分が物覚え悪いとか言って、逃げて、だからルナに怪我をさせてしまった……僕はもっとルナを知らないと、知らないと守れない。)

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