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中野家のトラブルメーカー

 その頃、慎一郎の自宅には、慎一郎の父親が先に帰宅していた。パニック状態になっている母親と会話をする父親。

「お父さん! あの子! あの子! ついに!! 犯罪をっ!」

「な、なんだ? どうした? 落ち着け。」

「あの子、身元も良く分からない小さい子を!!」

「おお、そうか。」

「ゆゆゆ……誘拐!? 拉致(らち)!? どどど、どど、どうすれば!?」

「あぁ、あのな、多分、大丈夫だ。」

「ととと、とにかく相手の親御さんに示談できるか、幾ら積めば許してもらえるかしらっ!? ままま、ま、まず一本でっ!? 一本から交渉でっ!?」

「落ち着いて……あぁ、ほら、その一本って、百万円のことかい? それとも一千万円かい?」

「一千万っ! 無理! 私のタンス貯金入れても無理ー!!」

「うん、無理だね。後、俺に隠してタンス貯金するの、止めようね。」

「あああ、あと、あと……そそそそ、それかそれかそれか! 自首! 今なら間に合うかしら!? 不起訴にできるかしらっ!?」

「まぁまぁ、母さん、大丈夫。彼女は俺が紹介したんだ。」

「ま、まだ、あの子、十九歳だから実名報道はないわよねっ! 近所で噂にならなければ、家を売って引っ越すことも……え?」

「俺が慎一郎に紹介したんだ、彼女を。」

「かかか、かの、かの、彼女!? 慎一郎にっ!? 彼女ーっ!?」

「彼女と言っても、恋人の意味での彼女じゃないよ?」

「ううう、うん、そ、そ、そんなの分かってるわっ! 彼女、彼女、彼女、彼女、彼女……」

 彼女、という言葉に過敏に反応し、ぶつぶつと念仏のように繰り返す母親。

「彼女はね、家族がいなくて施設で育ったそうだ。施設育ちで分からないことだらけ、でも、地元の消防団として身を投じて社会貢献したい、ということらしい。素晴らしいことじゃないか。その彼女が身を置いている消防団で、慎一郎もさせてみようと思って、彼女にうちに来てもらったのさ。慎一郎にも社会貢献の一翼を担うことをさせてみる、何もしないよりは、ずっと良いことじゃないか?」

 父親の説明を必死に頭に入れ、冷静さを取り戻してきた母親。

「しゃ、社会貢献……そ、そうね……あの子も少しは外に出ないと……いい加減……」

「あぁ、そうだね……地元の消防団だから、慎一郎のように社会経験がなくても、やる気があれば、ちゃんと受け入れてくれるらしい。彼女はその協力者でもあるんだよ。」

「あ、あの子が消防団で……ね……」

「母さん、大体、分かってきたかい?」

「そ、そうね……そ、そういうことなら……」

「ほら、今の慎一郎だと、外に出て何かすることはできないだろう? だから、うちに来てもらったんだよ。」

「えぇ、そうね……」

「慎一郎も一人じゃ何も動けないだろうけど、近くにそういう社会貢献しようとする子がいれば、放っておける性格じゃないだろうし、いい経験になると思うんだ。」

「えぇ……」

「やらせてみてもいいだろう。どうだい、母さん? 事情は分かったかい?」

「分かったわ。そういうことなら……そうね、私も協力しないとね。」

「母さん、慎一郎のためにも、頼むよ。」


 カチャ……


 慎一郎の父と母の間で話が付いた頃、丁度、慎一郎とパルナが家に戻ってくる。慎重に、静かに玄関に入ったつもりの慎一郎だったが、早速、両親に気づかれてしまう。

「慎一郎!」

 キッチンの奥からの声。母親の一声に無言でいる慎一郎。

「おーい、(しん)~、こっちだ。」

「うわ、父さんまで……」

「二人で一緒にこっちに来なさい。夕飯の時間、とっくに過ぎてるぞー。」

「うっ……二人……ね……」

「マスター?」

 慎一郎がパルナを見る。無言で頷き、死角になっているキッチンに向けて返事をする。

「わ、分かったー! か、買い物の荷物を置いたら、そっち行くから!」

 ……。

「おー、早くしろよー。」

 ワンテンポ遅れて父親の返事を聞くと、急いで二人で二階に上がる。

「ふはぁ……」

 ベッドに横たわる慎一郎。

「父さんも分かってるみたいだし、事情を話すしかないか……信じてもらえるか……」

「マスター……申し訳ありません。やはり私に不足が問題なのですね。」

「いや、そうじゃない。ルナは何も悪くないんだ。僕が……僕がしっかり説明しないと、なんで……なんで、こんな状況になったのか……」

 慎一郎が自分の頭をコツコツ何度も叩きながら、考えを巡らせる。慎一郎なりに頭を整理した後、一階のキッチンへ向かうと、慎一郎がいつも使っている椅子の隣に、もう一つ椅子が用意されている。

「お嬢ちゃん、座って。慎も。」

「はい。」

 父親の言葉にパルナが素直に答え、先に椅子に座ると、慎一郎も隣の席に座り、少し間を空けて、話を切り出しす慎一郎。

「えーと……この子は、ルナって言って……色々あって……あの……その……あれで……」

「ルナちゃんって言うのか。」

「え? あ、う、うん……」

「おぉ、ルナちゃんな。可愛いじゃないか。昔の母さんに似てて、とっても可愛いなー。」

「あら、嫌だ! お父さんったら!」


 ばしーん!!


「うぐ!」


 ばしーん!!


「うぐぐぐ……」


挿絵(By みてみん)


 母親の強烈なツッコミを必死に耐える父親を、何事も起こっていないかのように、無表情で見続けるパルナと、結局、説明できずオロオロしている慎一郎。

 次の一言はルナが発した。

「ありがとうございます。」

「よよよ、よ、良かった、とても律儀な良い子じゃないか、なぁ? 慎?」

「う、うん、あ、ま、まぁ……」

 なかなか言葉が出ない慎一郎の代わりに、パルナが返事をする。

「いえ、こちらこそ、至らない事も多々ありますが、よろしくお願い致します。」

「あ、あのねー、ご、ごめんねー、母さん、誤解してたのよー。お嬢ちゃん、消防団のアルバイトなんだってねー。」

「はい、この区域を担当する特殊防災警備劇団の一員に登録されました。」

「あのね、母さん取り乱しちゃって……」

 誤解の内容が誤解を生みそうで不安な慎一郎だったが、母親のフォローをする。

「ま、まぁ、普通は取り乱してもおかしくない……か……」

「そうそう、あのダンボールに入ってたのね。どうりで重いわけね。」

「予めお話できず、申し訳ありません。」

 慎一郎の父親もフォローをする。

「交通費の関係で、このような発送方法になったそうだ。アメリカンジョークのようなもんだよ。箱の中から美少女なんて、ビッグサプライズだろう? あまり宜しくない小説だと良くある設定らしいけどな、な? 慎?」

「いやいや、ジョークのレベル超えてるって……」

 慎一郎が突っ込みを入れるが、それを他所に母親とパルナが話を続ける。

「ルナちゃん、もう私達は家族だからね。困ったことがあったらなんでも言っていいのよ。」

「はい、ありがとうございます。」

 慎一郎は、何が何やら分からないまま、事態が収束し、ヘロヘロになってパルナに呟く。

「あぁ~……なんとかなったのかー……」

「マスター、ありがとうございます。良かったです。」

「いや、僕はなんもしてないけどね……」

「それでも……良かったです。」

 落ち着いたのもつかの間、母親が無駄に慎一郎のダメ出しを始める。

「慎一郎は馬鹿でマヌケでエッチでお人形遊びばかりしてるダメな息子だけど、ルナちゃん、なんとか宜しくお願いしますね。」

「はい。」

「ちょっ!! 息子の紹介の仕方、酷過ぎでしょ!?」

「そうだ、夕飯、ルナちゃんも手伝ってみる?」

「はい。」

「人の話聞けって……」

 母親とパルナがキッチンの奥に行って料理を出す準備を始めるため、奥に行ったことを確認すると、慎一郎は椅子から落ちそうなくらい姿勢を崩し、今までの緊張が全て解け、うな垂れてしまう。

「はあぁ……た、助かったぁ……」

「はは、最初、母さん、大変なことになってただろう?」

「掌返すの早過ぎるというか、父さんの話術がすごいというか……」

「余計なことは口にしないほうがいいぞ、母さんが面倒なことになるからな。」

「わ、分かってるよ……」

 更に父親が追い討ちをかける。

「まぁでも、慎、あの子と一緒にバイトするなら、満更でもないだろう? 可愛くて小さくて大人しくて人形みたいで……お前好みだろ?」

「うっ! そそそ……そ、そ、それは別っ! 別だからっ!」

「そうか……お前の好みは難しいなぁ……だが、バイトのほうのやる気はどうだ?」

 ……。

「気は……進まない……勝手に決められて、順番が滅茶苦茶だし。気は進まない……けど……だけど、ルナが困る……みたいだし……でも、そもそもなんの仕事かも聞いてないし、分からないし、やるかどうか、まだ決めてない、決められない。もし、話を聞いて、気が進めば、やるかもしれない、くらい……」

「気? 随分、進んだだろう? 外出してたのも、ルナちゃんのためじゃないのか?」

「!」

 鋭く察する父親の言葉が慎一郎に突き刺さる。少し間を空けて、慎一郎が答える。

「そ、そ、その通りだよ……というか、外に出ないと色々問題だったんだよ。」

「お前は自分のためには動かないけど、人のためになら動ける、そう思ったよ。」

「……っ!」

 全てを見透かされたように父親から指摘され、何も言葉が出ない慎一郎。

「今日は随分、無理しただろう。これから、ゆっくりでいい、少しずつでいい、進んでみるといい。ダメならダメで、その時、考えればいい。」

「わ、分かった。まだ何がなんだか、全然分からないけど……」

「その意気だ。」

 ポン、と慎一郎の肩を叩く父親。

「ところで、さっき叩かれた肩、大丈夫なの?」

「あ、あぁ、大丈夫、反対側だし、ちょっと脱臼しただけだから。明日、病院行ってくるさ、あはは……あいたたー!?」

「ちょ……父さん!?」

 ……。

 ……。

 無事? 家族の協力も得られた慎一郎とパルナは、両親と話をしながら夕食を終える。部屋に戻ると、二十三時を回っていた。

「え……と、ル、ルナ。」

「はい。」

「僕はリビングに行って寝るから、ルナはこのベッド使って寝ていいからね。」

「マスター、お気持ちはありがたいのですが、私はメンテナンスを兼ねて、こちらの格納庫に入ります。ですので、ベッドはマスターがお使いください。」

「そ、そっか……そこで寝るんだ……あぁ、後、風呂は沸いているから、入っておいで。」

「マスターは入らないのですか?」

「僕は大体、早朝に入るから、先に寝るかな。」

「私はメンテナンス時、一通り身体も洗浄されますので、別途、お風呂に入る必要性は特にありません。」

「そうなのか……」

「マスターが入れと仰るのなら、入りますが、どうしましょう?」

「い、いやっ! む、無理に入らなくていいよ!? ルナが入りたいかどうか、それだけ!」

「了解しました。」

「じゃぁ、僕は寝るよ、おやすみ。」

「マスター、一日、お疲れ様でした。おやすみなさい。」

 パチンと電気を消す音と、格納庫を開閉する油圧音……一日を終えたはずだが、慎一郎はなかなか寝付けず、今日一日を思い出し、省みて、情けなくなり、悲しくなって……そのうちに意識を失っていた。


(結局、流されてしまった……いいのか……? 父さんも母さんも丸く収まったし、いいのか? 僕は何をやっているんだ? 慌てて家から飛び出して買い物に行って……父さんが帰ってくるまで待って、それから物を揃えるなりなんなりすれば良かったじゃないか……父さんの言っている感じなら、お金の工面だって頼れるだろうし……なんてバカなんだ僕は……考えて考えて、やっと出た行動が裏目に出る……ははは……いつものことじゃん……バカげてるな……本当に……なのに……ルナはこんな僕と一緒にいるつもりなのか? 本気で? 分からない……分からないことだらけで潰れてしまいそうだ……)


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