やや自滅の日中活動
慎一郎はこれ以上ない程、緊張していた。引き籠りなのに、突然、格納庫から現れた少女、パルナのために買い物に行かなければならないのだ。とにかく衣服を買わないと、慎一郎の服ではぶかぶか過ぎる。常人なら、なんともない買い物も、引き籠りには至難の業だ。しかも見知らぬ少女を連れてなんて、神業と言っても過言ではない。溜め息をつきながら慎一郎が声を漏らす。
「この状況、犯罪の臭いがしてもおかしくないよね……」
「そうなのですか?」
「う、うん……そりゃ……ねぇ……」
「申し訳ありません、私には上手く理解できないようです。」
「だ、だよねぇ……」
「申し訳ありません。」
緊張する慎一郎。まず、第一関門は母親に見つからず、外出することだ。
「と、とにかく、母さんに見つからないよう、外に出るから。分かった?」
「はい、マスター。」
静かに階段を降り、靴を履き、無事に外出できると思った矢先。
「ちょっと、あんた?」
リビングルームから顔を覗かせる慎一郎の母親。
「うわああああぁぁぁぁ!!??」
「出掛けるなら出掛けるって……」
「あ……はは……」
慎一郎が目を逸らすと、母親の視線がパルナのほうに向く。
「え? ちょっと、あ、あんた! そんな大きい人形、一緒に持って出掛けるの!?」
「ちょょ……あ……この子は……あの……その……」
慎一郎の言い訳を他所に、パルナが母親の前に出て正座をし、深々と頭を下げる。
「お母様、本日から慎一郎様の鞘束となりました、パルナ・シノノメです。」
「へ?」
慎一郎の母親の目が点になる。
「慎一郎様の鞘となり、盾となり、鎧となり、慎一郎様のご活躍を全身全霊でサポート出来ればと思っております。至らぬことは多々あると思いますが、今後とも、ご指導の程、よろしくお願い致します。」
「慎い……ち……この子……ふ……ぶっ、ぶはあああああああああああああ!!??」
どたばたどっぱああああぁぁぁぁん!!!!
母親が理解不能モードに陥る。こうなると手が付けられないのは、慎一郎は良く知っている。台所やら廊下やらをドタバタ歩き回り、片手にはフライパン、どこにあったのか、もう一方の手には金属バットを持って慎一郎の所に戻ってくると、金属バットを慎一郎の顔の前に突き立てる。
「あんた!」
「ちょちょちょ、ちょっ! 落ち着いて!」
「ちょっと、あんた! その子! どこから連れて来たのっ!?」
母親がビシッと金属バットを慎一郎の顔に向ける。
「いや、あの……」
「お菓子で誘拐っ!?」
「ち、違う! 違うから!」
「じゃぁ、おもちゃで誘拐したのね!? 年端もいかない、お嬢さんを……あんたの服を無理矢理着せて……」
「ちょっと! 母さん、落ち着いて! あのさ……」
「しかも、ななな、何!? 様だの奴隷だの……なんとか王子でもなるつもり!?」
「待って待って! ど、奴隷なんて言ってないよっ!?」
「とにかく、ちょっとこっちに来なさいっ!!」
「ちょ……まっ……ととと、とにかく時間ないから!!」
慎一郎が慌ててパルナの手を取り、玄関を駆け抜ける。
「マスター?」
「逃げるよ!!」
「慎一郎! ちょっと! 待ちなさいっ! こらーっ!!」
外へ駆け出し、幾つかの角を曲がり、ひと気のない路地の隅に身を隠す。
「はぁはぁ……はぁ……」
「マスター、大丈夫ですか?」
「ルナ……は……だ、だい……大丈夫……?」
「私は問題ありません。」
かなりの距離を走ったにも関わらず、息一つ切らさないパルナ。その隣には中腰で汗だくになって息を切らしている慎一郎。数年の引き籠り生活で運動が不足し、体力が落ちきっている証拠でもある。
「はぁ……はぁ……ひぃ……と、とにか……く……はぁ……」
「マスター、少し休みましょう。」
「はぁ……はぁ……はひ……しょ……そ、その……つもり……だよ……」
「はい。」
息を切らせながらも、慎一郎は思いを巡らせていた。
(違和感なく順応する親がいるわけない、普通……アニメじゃあるまいし……
しかし、どうすればいいの?
今すぐ家には戻りづらいし、そうだよ、ルナの洋服を買わないと。
人が多いショッピングセンターに行けば、ルナの服はそれなりに揃うはず……
だけど、自分が耐えられるかどうか……
職務質問されたら、答えようがない……どうしよう……?)
「はあぁ……」
「大丈夫ですか? マスター?」
汗だくになっているものの、息は落ち着いて来た慎一郎。出る時は慌てていたことを思い出し、パルナの洋服を見て、靴のことを思い出す。
「あっ! 靴! しまった! ルナ、靴は? 履き替える間もなかったよね? いや、そもそも靴がないよね……」
「このブースターブーツは主に外出時に使用するブーツですので、問題ありません。」
慎一郎のダボダボの長ズボンを履いているパルナの足元を見ると、ズボンの裾から少しだけ金属のブーツが見える。
「う、うん……な、ならいいんだけど……」
「問題ありますでしょうか?」
「いや、見た目、どうかなと思ったけど、ほぼ隠れているから、大丈夫かなぁ……」
「?」
「と、とにかく、買い物に行こうか。このままってわけにもいかない。」
「はい、マスター。」
歩き出す二人。
慎一郎は並んで歩こうとするが、パルナが一歩前に出ようとする。それに追い付く慎一郎。すると更に前に出るパルナ。徐々に歩くスピードが速くなっていく。
「ちょちょちょ、ちょっと!」
「はい、マスター、なんでしょうか?」
「あのさ……な、並んで歩けないかな?」
「それではマスターをお守りできません。」
「そ、それはさ……今は考えなくていいよ。むしろ……この位置かな?」
そう言って、慎一郎がパルナの肩を掴み、自身の左後方にパルナを移動させる。
「マスター、いけません、これではマスターの盾になれません。」
「いやいや、盾になるのはダメ、この位置、いい?」
「しかし……私はマスターの盾に……」
「ダメ。」
……。
「……了解……致しました。」
少々納得がいかない顔をするパルナ。無表情なことがほとんどだが、自分のポリシーに反することを諭されると、少し顔を顰める癖があるようだ。慎一郎はその顔を見ることはなかったが、左後方にパルナの存在を周辺視野で確認する。
……。
……。
黙々と歩く二人、歩くこと十五分、ショッピングセンターまで足を運ぶ。大手企業、AON、グループの大型ショッピングセンターだ。
「マスター、この巨大な建物はなんでしょうか?」
「そ、そうだね……な、なんでも売っているお店……かな……?」
「なんでも……ですか……」
パルナの興味をそそったのか、ショッピングセンターに入るや否や、様々な店舗が並んでいる所をキョロキョロと見渡す。平日昼間のショッピングセンターは休日ほどではないが、学生などが制服を来て店舗を覗いていたり、子連れの母親達が慌しく辺りを駆け回ったり……慎一郎には気分の悪い、酔いそうな感覚に陥る。
「マスター、顔色が悪いです。」
「う、うん、そうかもね……まぁ、大丈夫……」
少しでも早く違和感のある二人の状況を打開すべく、なんとか踏ん張ろうとする慎一郎。
「で、何か欲しい物あった?」
「いえ……建物の中に、また建物があって……不思議な所です……」
「そ、そうだね……いっぱい、色んな店舗が立ち並んでいるから。」
「はい……」
「とりあえず、ここでルナの服を買うからね?」
「服はマスターからいただいた物を装備済みですが?」
「いや、本当はその格好は、あまり良くないんだ。大きさが合ってないよね? ルナの体の大きさに合った物を買うから。」
「了解しました。」
市内最大級のショッピングセンターはワンフロアまるまる洋服売り場となっており、子供服から紳士服、婦人服、フォーマルからカジュアルまで、なんでも揃う。慎一郎達は子供服売り場に行く。洒落た子供服が幾つも展示されている。それらを一通り眺めた後、慎一郎が大きな溜め息を付いた。
「はぁ……」
「マスター?」
「ごめん、高過ぎて買えない……」
「予算が足りないということでしょうか?」
「うん。」
「申し訳ありません。私もお金を持ち合わせておりません。」
「参った……」
ショッピングセンターのエスカレータ近くにあるイスに座る慎一郎。パルナは座らず、慎一郎の斜め前に立ちつつ、辺りをキョロキョロしている。
「考えよう……」
「はい。」
「買う物は……女の子用のシャツ、スカートかズボン……ぶ、ブラジャー……と、パンツ……くらいかな?」
「……?」
パルナは良く分かっていないようだ。
「全財産は二千円……」
「二千円……」
こちらも恐らく分かっていないが、慎一郎が発した金額だけ繰り返すパルナ。
「ルナに合う服……か……」
改めて慎一郎がパルナの全身を見渡す。とても小さい。身長は百五十センチメートルあるかないか……幼い顔立ちと全身が華奢な体格……十代前半のように見える。自宅では黒髪のように見えた髪は、日光や明るい所で見ると、ほのかに茶色に色変わりしている、そして、髪の毛一本一本を丹念に磨き上げたような、セミロングでさらさらな髪。瞳は右目が澄んだ青色、左目が茶色のオッドアイ。左側の耳の手前だけ、髪をリボンで結ってある。上下の服は残念だが、良い服を着せてあげれば、華奢な体が引き立ち、とても可愛らしい少女になると慎一郎は確信する。
「マスター? 何か?」
慎一郎の視線に気付いたパルナが問いかけると、目を逸らしながら返事をする。
「あっ、あ……ご、ごめん……なんでもないよ……」
(何を考えてるんだよ……ルナをジロジロ見て……僕は……)
……。
(うぅ……なんか話さないと気まずいな……)
もう一度、パルナを見ると、パルナは慎一郎のほうを向いたまま、返事を待っているような雰囲気を醸し出す。正面からパルナを見る。すぐに目に入ってくるのは美しいオッドアイ。
「部屋にいた時は気づかなかったけど、き、綺麗な目をしているね。特に青いほう。」
「ありがとうございます。」
「澄み渡っているというか……なんと言うか……」
「補足ですが、マスターの指摘された右目は視力がありません。」
「っ!」
慎一郎は言葉の地雷を踏んでしまったことに気づき、声を詰まらせるが、パルナは冷静に話を続ける。
「その代わり、右目は霊視が出来ます。」
意外な返事に戸惑う慎一郎。
「霊視?」
「はい。」
「そ、その……霊視……っていうのは、霊が見えるってことね……」
「はい。ぼんやりとですが……魂や霊などを感知できる、という言い方のほうが正しいかもしれません。後、これも補足ですが、右耳が機能せず、聴こえません。」
「そ、そうか……な、なんだか、そんな状況で……ごめんね、嫌なこと聞いちゃったね……」
「問題ありません。マスターにも私の状態を把握いただけることは非常にありがたいです。」
「そ、そうか……」
「しかし、これは私の至らない部分でもあり、マスターにご迷惑をお掛けしてしまうかもしれません。」
「き、気にすることないよ。今のルナが全てで……優るも劣るも……心配はいらない。」
慎一郎がそう返した後、更に言葉を付け加える。
「うん、それなら、なおさらルナは僕の後ろに付いて歩くこと、いいかい?」
「後ろ……」
パルナが答えに戸惑う。
「ルナの足りない部分は僕が補い、ルナは僕に足りない部分を補う。歩く時はルナの足りない視力を僕が補う、それでいいね?」
少し間を置いて、パルナが答える。
「……分かりました。」
「斜め後ろを歩かせるなんて、古い慣習みたいなもんだけどね……」
「そうなのですか?」
「そうだね、女性に道路側を歩かせない、女性が男性の前を歩かない、そんなの古い風習というか、随分、昔の話だけど……あっ!」
「?」
慎一郎が何か閃いたような声にパルナが首を傾げるが、慎一郎は間髪入れず話を続ける。
「分かった、古着屋、服のリサイクルショップへ行こう。」
「? マスター、リサイクルショップとはなんですか?」
「古着屋……要は一度、誰かが使った洋服を取り扱っているお店……誰かが使っていて古くなっているから、その分、安い値段で服が買える……はず。」
「ありがとうございます。把握しました。」
「そこなら予算内で買えるかもしれない……行ってみようか。」
「はい、マスター。」
そう決めると、すぐにショッピングセンターを出て、別の所にある、洋服のリサイクルショップ、BookaOnへ向かう。こちらも大手のグループ企業が経営していて、かなりの大きさの店舗だ。そこの少女用の洋服売り場へ足を運ぶ二人。
「ここで女の子用のシャツとスカートでも買えばいいかな?」
「マスターのご判断に従います。」
「うーん……ルナは気に入ったのとか、ないの?」
「私には良く分かりません。」
「そうかぁ……」
「申し訳ありません。」
「じゃぁ、僕が選んで見るから、試着してみて。」
「はい。」
ショッピングセンターの時と同様、店舗自体に興味を示してキョロキョロしているが、洋服そのものには興味がないようなので、慎一郎はルナを試着室の前で待たせ、慎一郎が少女用の洋服を探し始める。
「まずは三百円から五百円のシャツとスカート辺りかなぁ……」
ひそひそ……
「……っ!」
他の客の声が慎一郎の心に突き刺さる。他愛のない、自分とは全く関係のない話、分かっているのに、自分が責められている気がする。客層が全く異なる違和感と幻聴に近い自責を堪えつつ、なんとか数着の衣服をルナのいる試着室の前に持っていく。
「ル、ルナはスカートとズボン、どちらがいい?」
「分かりません……」
「そうか……ルナは大人しい感じだし、スカートが似合いそうかなぁ……」
「マスターが良いと思った物が良いです。」
「そ、そか……分かった。独断で決めちゃうからね?」
「申し訳ありません。お願い致します。」
「いいよ、分からないならしょうがない。分かるようになったら、また来よう。」
「ありがとうございます。」
と、ルナが頷くと、慎一郎が再び少女用の洋服のコーナーへ向かう。
(うーん……ズボンは意外に高いなぁ……
生地がジーンズとかだし、しょうがないか。
ワンピースのシャツ、もしくは安めのスカートはないか……
上下がひとつの商品になっているワンピースは価格的にも良さそうだ。
探してみよう。)
普段、考えないようなことを必死に考え、限られた予算で工夫をしようとする慎一郎。一着一着、値段とデザインを確認していく。
「長袖のワンピースで、袖が開き気味のやつが理想かな……腕の装備が隠れるくらい……」
結果、一着の長袖ワンピースをルナに試着させることにした慎一郎。
「じゃぁ、これ着てみて。」
「はい。」
「試着室に入って来るんだよ?」
「了解しました。」
ごそごそごそごそ……
少し手間取っているのか、時間がかかっているように感じる慎一郎。かと言って、中に入って手伝うわけにもいかず、周りの視線を気まずく感じる。この苦痛の時間を必死に堪える慎一郎。試着室の前で待つこと数分、慎一郎にはとても長い時間だったが、パルナが試着室から出てくる。
「装備しました。」
「装備って……」
「どうでしょうか?」
「うんうん、似合う、似合っているよ。」
「ありがとうございます。」
「ルナはどう? キツかったり、嫌だったりしない?」
「問題ありません。」
この八百円の長袖ワンピース、袖は肘から手首にかけて広くなっており、パルナのメカっぽい装備をなんとか隠せる袖になっていたのが決め手だ。しかし、スカートの丈が丁度、膝にかかるか、かからないかの長さで、メカっぽいブーツは完全に見えてしまう。
「ブーツはまぁ、見えてても問題ないか……」
「……?」
ボソッと独り言を言ったつもりの慎一郎だったが、パルナが何か答えようとしたが、上手い言葉が出なかったようだ。
「次は下着だけど……リサイクルショップじゃ、なんか嫌だよね……なんか……違う意味で高い値段付いてそうだし……」
「マスター?」
「ごめん、百円ショップのとかでいいかな……?」
「? 百円ショップとは、なんですか?」
「あぁ……えー……百円で色々買えるお店のこと。」
「百円で様々な物を購入できるお店ですね、理解しました。」
「そか、なら良かった。」
服のリサイクルショップで会計を済ませると、早速、百円ショップ、タイゾーへ向かう二人。幸い、タイゾーはリサイクルショップのすぐ向かいにある。店舗の売上が競合しそうな並びだ。店舗に入ると、生活に必要な物があれやこれや売っているのが分かる。迷いながらも、目的である女性下着コーナーへ足を運ぶ二人。天井付近から地面スレスレまで、下着のランナップがずらっと並んでいるコーナーだ。
(ブラジャー……
ブラジャー……
ブラジャー……
パンツ……
パンツ……
パンツ……)
「うぅ……これは……」
ランジェリーショップ程ではないが、非常に高いストレス、緊張を感じる慎一郎。
「ほほほ、本当は試着したほうがいいんだろうけど、この店だと試着できないか……」
ざわざわ……
「うっ……!」
少女用のブラジャーとショーツを吟味している慎一郎。相当怪しいのは重々承知していたが、なんとも耐え難い光景だと改めて後悔していた。
(やば……胸が……苦しい……
ど、どうしよう……?
このまま……
逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい……
逃げたい……逃げ……)
心臓が異常に早く脈打ち、冷や汗がダラダラと出てくる。次の瞬間、頭を抱えてしゃがみ込む慎一郎。
「マスター?」
「ふは……ふは……ふは……」
「マ、マスター!? マスター!」
「はっ!?」
パルナの声を聞いて、ハッと我に返る慎一郎。横にはパルナが心配そうに見つめているのに気付く。慎一郎が中腰になると、丁度、頭の高さが一緒くらいになる、小さな……少女。
「マスター、具合が悪そうです……休みますか?」
「……あ、あぁ、うん……大丈夫……だよ。決めて……それから、休めば大丈夫だから……」
「はい、マスター……」
(落ち着け、落ち着け……落ち着け……
大丈夫……
ルナのため、ルナのため、ルナのため、ルナのため、ルナのため、ルナのため……
大丈夫……)
暗示をかけるように、心で何度も落ち着くよう繰り返す。心に少し余裕が出来るまで、パルナを見て下を向いて……を繰り返し、不安を安定させようとする。
……。
……。
「良し!」
と、掛け声を掛け、勢いだけで下着を幾つか確認してみる。正直、分からない。何も考えられない所に、空色の縞模様のショーツが目に入る。それを手に取り、パルナに見せる。
「ル、ルナ、これはどう?」
「マスターが良いなら、良いと思います。」
「い、いや、あの……ね、これもルナが付けるんだからね? ルナの体に合っているか聞きたいんだけど、分かる?」
「了解しました。」
「シャツとかスカートは、大体合ってればいいんだけどさ……まぁ、多分ね、多分、本当は良く分からないけど。でもね、ぱ、パンツ……というか、下着は合わないと困るでしょ?」
「そういうものなのであれば……」
パルナの腰辺りに、空色の縞模様のショーツを当ててみる。
「どうかなぁ……?」
「分かりませんが、大丈夫なような気がします。」
「そ、そっか……」
「マスター。」
「何?」
「百円で買えるお店なのに、これらは三百円します。何故でしょうか?」
「うーん……ぼ、僕はお店の人じゃないからね……多分、基本は百円、でも、それ以外の値段の物も置いてあるね、百円ショップだけど。」
「そうなのですか……世知辛い世の中ですね。」
「そ、そう!?」
意外な言葉を発したと感じたのか、少々驚きを覚える慎一郎。
「マスター?」
「そうね、世知辛いよね……何もかも……」
次にブラジャーを探す慎一郎だったが、パルナの胸の感じを見ると小さめ……丁度、同じ柄のスポーツブラジャーがあったので、パルナの体に当て確認した後、購入した。
この間、幸い職務質問されることもなく、女子用の衣服を一通り購入した慎一郎とパルナ。ほっとしたものの、かなり久しぶりの外出に、相当疲れた様子の慎一郎。先程からパルナが慎一郎の顔色を伺って声をかける。
「マスター、やはりどこかで休憩したほうが……」
夏至まで一ヵ月程の、五月のある一日。夕暮れの時刻はずっと遅く、そして初夏を思わせる暑さは橙色に染まった時間になっても続いている。
「そ、そうだね……ちょっと、休憩しようか……ルナも疲れたよね?」
「はい、マスター。」
さっきまでいた百円ショップから自宅までの道のりは、一つ、小さな公園がある。傾きかけた太陽を遮るように木々に囲まれた、その公園で二人が日陰のベンチに座る。
「マスター、何か飲み物を飲んだほうが良いのではないでしょうか?」
「あ……確かに……ちょっと買ってくるよ。」
「いえ、マスターの顔色が悪いので、私が買って参ります。」
「ご、ごめん、そうだね……ちょっと脱水症状っぽいかも……じゃぁ、何か買ってきて貰ってもいい? ルナも好きな飲み物買っていいよ。」
そう言って、買い物の残金、約五百円分を渡すと、急ぎ足で自動販売機を探しに行く。
「さて……」
慎一郎は次の難問の対処を考えていた。
(親に気づかれず帰宅する方法……思い付かない……
諦めるしかないのか……?
ここまでやって?
どうすれば母さんを説得できる?
あのパニック具合は異常だ。とても対応しきれない。
後、父さんもどう反応するか分からない……)
「マスター、買ってきました。」
パルナの声で現実に戻ってくる慎一郎。
「! あ、ありがとう。ちゃんと買えた?」
「はい。自動販売機は、私がいた学校にもありました。」
「そ、そっか……学校、ちゃんと行っていたんだね。」
「はい。マニピュラブルドレスになるための、特別な養成学校です。」
「特別な学校……か……普通の学校とは違うんだよね……」
「……詳細はお教えできませんが、異なると思います。」
「そうか……」
スポーツドリンクを手にした慎一郎は勢い良く飲みはじめる。その様子をじっと見つめるパルナ。
「……ルナも飲んでいいんだよ?」
「はい、マスター、いただきます。」
「! う、うん。飲んで飲んで。」
小さい両手を使って、缶の蓋をパコリと開け、ミルクティーの缶を口に寄せてミルクティーを飲みはじめる。その間に慎一郎はスポーツドリンクを全て飲み干し、夕闇を感じながら、黄昏、呟きはじめる。
「今日は色々あったなぁ……」
「色々……ですか?」
「あ、うん……いや、だけど、まだか。今日はまだ面倒な問題が残っているな……」
「お母様……のことでしょうか?」
「そ。どうしようか、悩み中だよ。」
「申し訳ありません。」
「いや、別にルナのせいじゃないし、母さんが大袈裟なだけ……だよね……」
言葉の語尾に自信がない慎一郎。何も解決策が思いつかない。
二人が飲み物を飲み終えた頃、空はすっかり藍色に染まる。真上の空を見ながら、慎一郎がパルナに声をかける。
「そろそろ、家に戻ろうか。ルナは大丈夫?」
「私は問題ありません。」
「そ、そうだよね……ルナが待ってるほうだったね……僕の体力の問題で……」
そう言いながら、リサイクルショップや百円ショップで買った荷物を持ち、公園を去る二人。 未だ親に気づかれず帰宅する方法を悩みながら、ふらふらと帰路に立つ慎一郎。パルナは慎一郎の言いつけ通り左後ろにピタリと付いて歩いている。行きのような不満な顔はしなくなっていた。
(結局、親を説得する方法なんて、見つかるはずがない。
母さんも滅茶苦茶、後、父さんもどう反応するか分からない……多分、疑われる。
でも、家に帰るしかない……が、気付かれずに部屋に入る、そんなことが出来るのか?)




