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心に突き刺さる確認

 ほとんど全裸の少女がベッドの上で、慎一郎を見つめている。部屋に置かれた格納庫らしき入れ物から現れた少女。突然の出来事は慎一郎とって想定外、いや慎一郎でなくとも想定外か、想定内だとしても妄想だろう、そんな身元不明な少女が今、ここにいる。最も、元々、引き籠りを続けていた慎一郎には特に動揺を隠せず、混乱している。

 一方、体をタオルケットで隠せと言われ、仕方なく? 隠している少女は、慎一郎をマスターと呼んでいるが、慎一郎の胸の内を気にしていないのか、黙々と話を続けようとする。

「マスター、宜しいですか?」

「え……?」

「まず、マスターの情報を確認致します。」

「え、あ、は、はい……」

「マスターの氏名、中野慎一郎様。」

「ぶはっ! ななな、な、なんで知ってるの!?」

「マスターの個人情報は全て頭の中に刻み込まれています。」

「ちょ! えええ、き、刻む程の情報じゃないよ!」

「年齢十九歳、男性。」

「う、うん。」

「身長百六十九センチメートル、体重六十七キログラム。」

「うん。」

「無職、実家暮らし。」

「うっ……」

「部屋からほとんど出ない、引き籠もり……と呼ばれる状況にある。」

「うぅ、あ、あ、あのさ……」

「学歴は中卒、職歴は……」

「あっ! ちょっと待って!」

「はい、なんでしょう?」

「あ、あのね……いいいい、言っておくけど、ちゅ、中卒と高校中退は身分、違うからっ!」

「はい、マスター。マスターは高校中退……更新しました。」

「はぁ……」

「職歴はなし。」

「うぐっ!」

 思い出したくもない個人情報を、無機質に話してくる少女に全く反論できず、気持ちが落ち込んでいく慎一郎。更に確認を続けようとする少女。

「次に……」

「ままま、待って……ちょっと待って……」

「はい、マスター、なんでしょう?」

「なんでこう、痛い所を……突いてくるかな……」

「マスターのことを正しく把握することも、私の役目です。」

「そ、そうなの……ってそう言われてもさ……」

「他にもこのような個人情報がありますが……」

 少女が持つ掌サイズの端末を慎一郎のほうに向けると、画面に細かい字で、慎一郎の黒歴史がずらりと表示されている。

「ぶはああぁぁ!!?? うわああああ!? もういいって!! 言わなくていい!! お願いします!! 言わないでっ!!」

「はい、マスター。」

「はぁ……はぁ……はぁ……」

「マスター、宜しいですか?」

「はぁ……もう僕の情報は放っておいていいから……」

「はい……」

 無表情だった少女の表情が少し曇ったように見える。

「で、あの……君は……」

「はい? なんでしょうか?」

「ごめん、あのさ……名前……君の名前……」

「私の名前はパルナです。」

 ……。

「えと……ル……ルナさん?」

「はい、パルナです。」

「ルナさん……ね……」

「マスターが私に敬称を付ける必要はありません。」

「え、あ……そ、そう……じゃ、じゃぁ……ル、ルナ……って呼ぶね。」

「はい、マスター。」

「あの……あのさ、ル、ルナに聞きたいんだけどさ……」

「なんでしょう?」

「え……と、これさ、なんか色々決まっちゃったように話してるみたいだけど……」

「はい、マスターは既に同意されました。私のマスターはあなた様に決まっております。」

 なんの迷いもなく、はっきりと答えるパルナ。

「え!? ちょっ……あ、あのね、ぼ、僕は頼んだ覚えないし、知らないよ!? こんな話、全く聞いてない……」

「……? 先程、同意されたと思いますが。I(アイ) agree(アグリー)、と……」

 話が噛み合っていないのか、慎一郎とパルナの双方が首を傾げる。

「いっ……い、いあぐ……?」

「I agree、私は同意します、と、先程マスターが設定されました。」

「え、し、知らない……」

「こちらの設定画面で、同意を交わされたと思われますが……I agree と。」

 格納庫の液晶ディスプレイを指差しながら念を押すパルナ。

「え!? そ、それは英語? そんな単語、し、知らないし!」

「I agree は確かに英語ですが……同意された以上、もう拒否できません。」

「そう言われても……」

「マスターは、マスターとして、私を自由に使っていただければ問題ありません。」

「え……え? つ、つつ、使う……使うって……?」

「はい。私は常にマスターと共にあります。なんでもお申し付けください。」

「ちょっと待って! これ……この箱と君は? これからずっとここに?」

「マスターの住む所と近いほうが望ましいです。」

 ……。

 言葉が詰まる。

「え……あ……え、と……?」

「マスター?」

「い……い、いや……こここ、困る! こっ、こんなの家に置いておけないし! そもそもおかしいよ!? 急に一緒に住むってのも! 物事には順序があるよね? 分かる?」

「申し訳ありません。私には上手く理解できません。」

「うえぇ……ちょっと……待ってよ……」

「約者様と鞘束が一緒に生活しない、という事例はあまりなく、私もどうすれば良いのか分かりません。」

「う、な、なな、なんというか……いきなりは無理だよね! とにかく、契約も無効にしてくれないと困るっ! ほ、本当に……お、親にも何言われるか分からないし! どう考えても犯罪っぽいし! まずいよっ! 絶対!」

「マスターは、私との契約を無効にしないと困るのですか?」

「そ、そう!」

「何故でしょうか?」

「え、あの……いや、ど、どどど……どうしても!」

「どうしてもですか?」

「どうしてもだよ!」

「本当にどうしてもですか?」

「本当にどうしても!!」

「本当に本当にどうしてもですか?」

「本当に本当にどうしても!!!」

 ……。

「はぁ……はぁ……はぁ……もうお願いだから勘弁してよ……」

 ……。

「承知……致し……ました。」

 今までより少しトーンを下げた口調で、パルナが話を続ける。

「……アクター登録の削除、およびマニピュラブルドレスの廃棄処分を申請します。」

「え……?」

「私の廃棄を行い、マスターとの契約を破棄致します。」

「え? ちょっ、ちょっと!? 何を?」

「私を廃棄処分にする以外、マスターとの契約を破棄することができません。」

「廃棄? 廃棄って何っ!?」

「私を殺処分することです。私が死ぬことで契約を破棄……出来ます……」

 そう言って、パルナが格納庫にある液晶ディスプレイを操作し始める。

「ちょっ! 意味、全然、分かんないけど、ししし、死ぬとか殺すとか、止めようよっ!」

 慎一郎がパルナの両手を掴む。自身を処分する手続をしようとしている、小さい手を、潰してしまうくらい強く掴む。

「っ! マスター、これでは操作できません。」

「だだだ、ダメだよ!」

「しかし、他に方法が……」

「ダメ! 絶対にダメ!!」

「では、どうすれば……」

「ととと、とりあえず……おおお、落ち着……うわ!?」


 ガシャアアァァン!!


 パルナの手を格納庫から離そうと慎一郎が脚を動かすと、隅に置かれたテーブルに躓く。手を取られたままのパルナも一緒に引っ張られ、慎一郎の胸に飛び込んでしまう。

「ううう……」

「マスター、申し訳ありません、大丈夫ですか?」

「う、うん……って、うわーーー!?」

 体がピタリとくっつく感触、慎一郎は首を上に向け、パルナを見ないようにする。

「マスター、大丈夫ですか?」

「う、うん、分かってる、落ち着く……落ち着け……お、落ち着こう……はぁはぁ……はぁ……あああ……」

「お怪我はありませんか? マスター?」

 迷いなく視線を慎一郎に向けるパルナ。慎一郎は視線を逸らして合わして繰り返し、パルナの視線と表情を確認する。

 ……。

「う、うん……分かった。と、とにかく、分かったから……契約は……ど……同意するから……嫌な手続きは辞めよう。殺すとか処分するとか……それはなし!」

「了解しました、ありがとうございます、マスター。」

 慎一郎の胸の上でお辞儀をするパルナ。

「う、うん……だけど、状況を整理しないと……ちょっと考えさせて……」

 積みあがった荷物に挟まったまま、慎一郎が考えようとすると、パルナが慎一郎の上から起き上がる。

「では、マスターが考えを整理している間に装備を装着します。」

「装備? 服、あるの?」

「はい。」

「最初に言ってよ……」

「申し訳ありません、すぐに装備します。」

「装備……?」

 パルナが格納庫の操作を始めると、今まで開いていなかった側面や裏面の扉が開き、そこから何やら機械らしき物が幾つか出てくる。

「き、きき……着替え終わるまで伏せてるから! 終わったら呼んで!」

「はい。」


 ごそごそごそ……

 ……。

 カチャリ……カチャリ……

 ……。

 パチン……パチン……

 ……。

 ポフ。


「装備品の確認作業……オールグリーン。マスター、装着が完了しました。」

「ほ……よ、良かった……って、全然良くなああああぁぁぁぁーーーーい!!」


挿絵(By みてみん)


 振り向いた瞬間、思い切り突っ込みを入れる慎一郎。改めてパルナを見直したものの、腕と脚にメカニカルな物体が装着されている……それと、頭に不思議なネコ耳っぽい帽子を被った……結局、大事な所は隠れていない。

 再び目を逸らし、俯き、大きく溜め息を付く慎一郎。

「はあぁ……」

「マスター、申し訳ありません。何か問題がありましたでしょうか?」

「あ、いや……き、着る物は入ってないの?」

「装備一式、装備しました。」

「どう考えても、足りないよね……主に上下。」

 伏せながらブツブツと答える慎一郎。

「そうなのですか? しかし、これしか装備はありません。」

「と、とりあえず、服、何か貸そうか……僕の服しかないけど……」

「マスターのサポートには、特に支障ありません。」

「いやいやいや! それ支障出ないって……それで外を……というか、今でもヤバいの!」

「? そのヤバいというのは……いけない、禁止、ということでしょうか?」

「そそそ、そ、そう!」

「どうすれば良いのでしょうか?」

「う、うん……あの……それ、普段着じゃないよね……」

「防災、警備、対異形用の特殊装備です。」

「うん……何、言ってるか分からないけど、それで外、歩けない……よね……」

「しかし、装備がないとマスターをお守りできません。」

 話が噛み合わないと分かった慎一郎が落胆しつつも、無理に話を進める。

「とと、と、とにかくだね、シャツを着て、ズボンを履こうか……」

「はい……マスターのご指示に従います……」

 慎一郎がパルナに背を向けながらタンスへ手を伸ばす。タンスから自分のシャツとズボンを出し、無言で手渡す。そのシャツとズボンを身に着けるパルナ。勿論、サイズなんて二十センチメールは合わない。パルナの着た服の上下の裾を慎一郎が必死に巻くって、なんとか手足の出る状態にした……が……

「マスター……これは……?」

 ぶかぶかのシャツとズボンを不思議そうに見つめるパルナ。

「うん、不自然だけど、仕方ない。一時的な物だから気にしないで。これから外に出てルナの服を揃えるから……」

「……分かりました。」


(変な格納庫から出てきた、ルナという少女。彼女の言っていることは、唐突で滅茶苦茶で常識を超え過ぎていて、全く理解できない。いきなり現れて、いきなり一緒にいるって……なんなんだよ、一体……なんの嫌がらせだよ……でも、服を貸して……もう半分、受け入れてるっぽくなってるし……でも、ちょっといいモノ見れて嬉し……いやいや待て待て待てっ! 絶対、犯罪だよ……どう考えても余裕でアウトだよ……うわあああああ……どうすれば……どうすればいいんだよ……勘弁してくれ……もう……)


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