第9話 ニーハイは脱がせるもの
柏木さんはゆっくり口を開いた。
「脚を絡めて女の子と添い寝したい、だっけ」
急に何を言うのかと思ったら、それは俺の昔のつぶやきだった。
俺の性癖にしては控えめな方だと思う。
なぜならこの世界の男だって女の子への恋愛感情がある。
添い寝したいのは別になにも女性だけではない。
恋人同士で行われる普通の行為。
「そうだけど、どうしたの?」
だから、俺は柏木さんに聞き返した。
彼女の意図が分からないからだ。
俺をおもちゃとしてしか見ていない柏木さんが、俺とそんな恋人らしいことをするはずがない。
しかし、柏木さんは両手を俺の首筋から背中に移動させて、勢いに任せて俺を彼女の横に寝かせたのだ。
「顔、近いね」
「そ、そう?」
柏木さんの息が俺の鼻に当たる。
女の子特有の香り。
言葉で形容できないが、それはすごく心地の良いものだった。
「あとは脚を絡めるんだっけ」
「べ、べつにそんなことしなくても……」
「だめ、ちゃんとするよ」
俺の脚の間に自分のそれを無理やりねじ込ませて、柏木さんは少し不満そうに言う。
「……ズボン硬いね」
「で、でも――」
「脱いで」
それはお願いというより命令だった。
逆らうことの出来ない俺は手を腰に伸ばして、横になったままズボンを引きずり下ろす。
「靴下も、よ」
柏木さんに言われた通りに今度は脚を曲げて靴下も脱いだ。
しかし、そこで気づいたのだ。
俺だけ下半身(パンツ以外)裸なのはズルくないか。
柏木さんはガーターベルトを俺に脱がせたとはいえ、まだニーハイがある。
その感触は悪くないが、俺はなぜか柏木さんの生脚の肌触りを知りたいと思った。
「か、柏木さん」
「なに」
「そ、その、柏木さんもニーハイを脱いでよ……」
俺がそういうと、柏木さんは少し驚いたように目を丸めた。
「分かった、けど……」
俺を抱きしめているその手に力を込めて、
「綾人くんが脱がして」
そう言われても、俺は今身動ぎできない体勢になっている。
柏木さんが俺の両手を包み込む感じで腕で抑えているからだ。
「動けないから、無理かな」
そういうしかなかった。
正直めちゃくちゃ脱がせたい。
あの邪魔なニーハイを脱がせて、柏木さんの生脚に自分のそれを絡めたい。
俺はニーハイにあんまり興味がない。
タイツと違って脚の肌がよく見えないからだ。
前世では絶対領域が好きな男も多いけど、なぜか俺にはその良さが分からないのだ。
「……バカね」
「え?」
「なにも手でして、って言ってないわ」
「じゃ、どうすれば……」
「《《足》》で脱がして?」
ええええええ!?
柏木さんは何を言ってるんだ。
人類は二足立ちするようになったことで、手が自由になった。
それで道具を作り、ほかの動物と一線を画したのだ。
産業を起こし、文明を築く。
それはすべて足がその身体を支え、手で新しいものを創造しているからだ。
それをなに。
自由に動かせない人類の足で、ニーハイを脱がせるという偉業を成し遂げろというのか!?
いやいやいや。
発想がおかしいって。
あまりのことに、俺は少し混乱していた。
「早くして」
「はい……」
柏木さんは不機嫌そうに目を細めた。
俺がモタモタしているからなんだろう。
こうなったらやるしかない。
俺は脚を再び曲げて、それを柏木さんの脚の間に潜らせる。
そして足の指を柏木さんのニーハイの端に引っ掛ける。
「あんっ……」
しかし、ニーハイが高い位置にあるからか、俺の足は柏木さんのぷにっとしている部分に当たった。
「ご、ごめん……」
「いいよ、続けて」
「はい……」
足の指で感じる柏木さんの生脚の感触。
生々しい。
少しでも力を入れると沈んでしまうような柔らかさ。
こくり、と。
喉を鳴らす。
今度は慎重にニーハイを引きずる。
「んぁっ……うぅ……ひゃっ……」
俺の動きに合わせて、柏木さんは甘い息を漏らす。
それほど気持ちいいのだろうか。
俺の足で柏木さんが感じているのだ。
そう思うと背徳感が込み上げてきた。
そして、ニーハイを完全に脱がせた時に、俺の足と柏木さんの足がくっついた。
気持ちいい。
足。
柏木さんの足。
見てるわけでもなく、触ってるわけでもない。
それを、俺の足で触れているのだ。
脳天を直撃するような快感。
軽くめまいがした。
「好き、だよ」
「……っ!?」
「綾人くんの足の感触が」
なんだ。
告白されたのかと思った。
なんという紛らわしいタイミング。
こんなの胸がドキドキしないほうがおかしい。
仕返しに俺は足の指で柏木さんの足の甲を摘んだ。
「ぁ……」
という小さな悲鳴。
「気持ちいい?」
「……」
柏木さんは何も言わない。
少し落ち込む。
俺は、同じ要領で柏木さんのもう片方のニーハイを脱がした。
すると、柏木さんは再び脚を俺の脚の間に入れる。
直接伝わる柏木さんの体温。
すべすべな感触。
俺の脚に挟まれて変形した柔らかい肉。
そのどれもが今まで体験したことのないものだった。
俺は謎の安心感に包まれていた。
いつしか目を開けるのも億劫になった。
心地よい眠気。
昨日は一睡もできなかったから、もう限界だ。
気づいたら俺は眠りについていた。
だから――
「好きよ、綾人くん」という柏木さんの声を聞き逃していた。
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