第3話 初めてのラブレターには気をつけろ
いつものように夕食を済まして、部屋に戻った後のことだった。
最近トラウマのようになりつつある携帯の通知音が鳴った。
おそるおそるスマホに手を伸ばして画面を覗いてみると、
『新しいフォロワーがいます』
というSNSの通知が表示されていた。
新しいフォロワー?
誰だろう。
そう思って通知をタップすると、知らないアカウントが出てきた。
そのアカウントの名前は『こはくちゃん♡』という。
琥珀がアイコンの少し変わった感じのプロフィールだった。
画面をスクロールすると、
『今日もムラムラするなぁ♡』
『早く男子に触れたい♡』
『わたしじゃだめ?♡』
と言った感じの“裏垢男子と繋がりたい”というハッシュタグが付いてるつぶやきがずらりと並んだ。
どうやら俺と同じ、裏垢の女子のようだ。
ただ、よく見てみると、まだこのアカウントのフォロワーは0だ。
最近新しく作った垢なのだろうか、つぶやきの日付もわりと最近のものばかり。
それにしても、やはりこの世界は元の世界とは違うなと感じてしまった。
前世なら新垢だろうが、裏アカ女子はすぐにフォロワーが付くものだった。
しかし、ここは貞操逆転世界。
女子はあくまで“攻める側”で、追いかけられることはない。
常識がバグってる感覚はあるのだけど、こんなもんだと割り切るしかない。
俺は何も考えずに、フォロバをして今日のつぶやきの内容について考え始めた。
そういえば、最近放送したお色気アニメは確かにノーパンの男子が登場していたな。
俺からしたらちょっと気持ち悪いのだが、女子からの人気は高かったみたい。
ちょっと前世の女子がエロアニメに反感を抱いてるのを理解できてしまった気がする。
あれは男の願望を詰め込んだもので、同性からしたらたまったもんじゃないだろう。
ただし、女の子になると話は別だ。
この世界の男子は女子の下着とか興味はないが、あいにく俺には前世の記憶がある。
だから、今日のつぶやきは――
『ノーパンなのにスカートをギリギリ短くしてる女の子って可愛いよね』
にしたのだった。
学校に着いたあと、俺は昇降口で上履きに履き替えようとした。
その時に下駄箱を開けると、一通のピンク色の封筒が靴の上に丁寧に置いてあった。
俺はフリーズする。
これどう考えてもラブレターだよね?
誰宛?
俺?
いやいやさすがにないよ!
でも、ね。
ほら、ここって貞操逆転世界なのだから、ワンチャン、ね。
俺は急いで封筒をカバンにしまいこんで教室に駆け込んだ。
机に着くと、俺は誰にも見られていないのを確認してから手紙を開いた。
ここでラブレターではなく、手紙と呼んだのは俺の期待がはずれた時に傷つかないための保険だ。
『藤宮くんへ
放課後、屋上で待ってます♡
小野寺』
俺は急いで視線を柏木さんのほうに飛ばした。
柏木さんと談笑しているのは、彼女の親友の小野寺琥珀さん。
普段柏木さんに隠れて目立たないが、かなりの美少女だ。
柏木さんが太陽みたいな存在だとしたら、小野寺さんは――その隣で静かに輝く月のような人だった。
長い黒髪は腰のあたりまでまっすぐに伸びていて、手入れが行き届いているのか、光を受けてさらりと流れる。
派手さはないのに、どこか目を引く不思議な魅力があった。
瞳は少しだけ伏し目がちで、感情をあまり表に出さないタイプ。
柏木さんのようにころころ表情が変わるわけではなく、常に落ち着いた空気をまとっている。
まさか、そんな小野寺さんが……?
「―――ッ!?」
俺の視線に気づいたのか、今一瞬だけ小野寺さんがこっちを見て口元をゆるめた。
まさかほんとに小野寺さんが、俺にラブレターを書いてくれたのか?
この時、俺は胸のざわつきを抑えるのに精一杯だった。
放課後、教室から人が出払ったのを見て俺は急いで階段を駆け上がった。
それはもう、肩で息をするほど走った。
屋上のドアを押し開けた瞬間、ひんやりとした風が頬を撫でた。
フェンスの向こうに広がる空を背にして、小野寺さんは静かに立っていた。
長い黒髪が風に揺れて、陽の光を受けて淡く光る。
「来てくれたんだ」
俺に気づくと、小野寺さんは透き通るような声で話しかけてきた。
「……あ、うん」
息を整えながら頷くと、小野寺さんはゆっくりこちらに歩み寄ってくる。
その足取りは控えめなのに、不思議と距離が一気に詰まった気がした。
ドクン、ドクンと、心臓が早くなっているのを感じる。
前世含めて女の子に告白されたことのない俺からしたら、今のシチュエーションはまるで白昼夢のようだった。
「わたし、最近気づいたの」
少しため気味に小野寺さんが切り出す。
空気がピンと張り詰めた。
俺は、これから小野寺さんに告白されるのだなと確信はあった。
受けるべきか。
それとも断るべきか。
俺は小野寺さんのことをよく知らない。
でも……。
「どうしても気になるの……」
「う、うん」
こくりと喉を鳴らす。
しかしこの時、空気を読まない女神のいたずらのような突風が吹き抜けた。
そして、風によって捲られた小野寺さんのスカートの下はなにもない肌色の――
「あら、バレちゃいましたね……♡」
「え、えっ!?」
固まってしまった俺を、小野寺さんが下から覗き込んでにんまりとした笑顔を浮かべた。
「はじめまして、《《ハルト》》くん♡」
なぜ。
なぜだ。
なぜ小野寺さんが俺の裏垢の名前を知っている……!?
この時、俺は知らなかった――
小野寺さんの隠された一面が、そんなに恐ろしいことを。
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