表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

『白』

 借りた家はこじんまりと、1Kにした。築年数は古く、家賃は安く、大通りからは逸れた、静かな住宅街。


 ただいま、と玄関を開ける。新しい仕事をしながら、私は黙々と日々を過ごしていた。


 お弁当箱を洗い、洗濯を回し、シャワーを済ませたら、大体は手抜きの夜ご飯を食べる。気が向いてスーパーに買い物に行った時だけ、まあまあちゃんとした料理を作る。


 半ばルーティンになった日々の生活は、淡々としているものの、どことなくエモ……エモーショナルの中に生きている気がして、そんな自己満足を楽しんでいた。



 ピコン、とスマホの通知がなる。


 この時間のこの通知はもしかして。嬉々として通知の正体を確認すると、やはり予想通り。「仕事おわったよ、お疲れ様!」というメッセージ。


 ひとり暮らしを良いことに、にやける顔は抑えない。


 私は遠慮なく、メッセージの相手に電話をかける。



「もしもし、お仕事お疲れさま! 今日もお互い頑張ったねー」


「ありがとう、本当にね。明日は久しぶりに会えると思って、頑張れたんだよ」



 簡単に人が喜ぶことを言ってくる、そんな相手は私の新しい恋人。付き合ってからもう、半年が過ぎている。


 毎日こうして電話を繋げては、のんびりと時間を共にしている。喋りたいことがあったら喋るし、話題がなければ穏やかにお互いの生活を過ごす。



 私がそうしたいと言った。そして、彼もそうできるなら幸せだと言った。


 口が上手い人に気をつけろ、とはよく言うけれど、この人は、実は口が上手くない。普段の人との交流はどちらかといえば聞き専だし、親しい友達も多くない。恋人がいたことさえ無い。


 ただいつも「思っていることを素直に伝えているだけ」「人はいつ居なくなるか分からないから、毎日を大事にしたいだけ」と、繰り返し言っていた。


 私はその思いに深く共感しているし、日々の積み重ねで、心からこの人を信頼していた。




 私が真っ直ぐにぶつかれば、真っ直ぐにぶつかってくれる。


 私が寄り道すれば、手を繋いで寄り道してくれる。


 私が道に迷えば、一緒に星を探してくれる。


 前世を共にした気がするくらいに価値観が同じで、笑う場面も同じだった。




 私は電話をしながら、玄関に置かれた花瓶に近付いた。白いヒナゲシの花が、綺麗に挿されている。


 もう、いいかもしれない。


 願いを込めて挿した花だった。以前の恋愛は、あっさり忘れられるような過去じゃなかった。


 でも今は、この人に出会って。


 この人と出会うために、きっと彼と別れたんだ。

 そう思えるようになったから。


 同棲、そして結婚を、ふたりで目標にして働いている。


 毎日、ふたりで笑って、ふたりで生きている。


 私は今、人生で一番幸せにしたい人と生きている。





 ヒナゲシの花を花瓶から取った。


 空になった花瓶も、水を捨てて片付ける。


 次に置くものは決めていた。


 前々から準備していた、ひとつの写真立て。


 多分そのうち、こうすると思って。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ