乱れ模様 ~しのぶもぢずり~
「お父さま、お母さま、皆々さま方も、これまで大変お世話になりました」
白無垢衣装を着た陸奥家の令嬢、美月の嫁入りを見送るため、彼女の家族と、小夜を含めた他の使用人たち一同も、玄関先に集まっていた。
塀の向こうの道には婚家の車が控えている。美月が出立した後、彼女の身内も祝言の時刻に合わせて婚家に向かうことになっているが、家族ではない小夜は当然出席しない。
白一色の婚礼衣装を着た美月は終始笑顔だ。
華族同士の政略結婚ではあるが、美月は夫になる男に恋をして、この結婚を心の底から喜んでいた。それは小夜もよくわかっているし、使用人の一人にすぎない自分が口出しできる立場でもなかった。
小夜も小夜で、親が決めた相手との結婚が待っていた。故郷へ帰れば、二度とこの地は踏めないだろう。
小夜は送られてきた写真を一度見たきりで、あとのことはすべて親が進めた。結婚相手がどんな人物かは知らない。
いい加減、自分の人生と向き合わなければならないと思う反面、小夜の心は未だ別のものに囚われている。
美月は小夜に言葉をかけることはなかった。紋付袴を着た結婚相手に手を取られ、幸せそうに微笑み、踵を返して門の敷居を跨いで行く。
小夜は、華族として洗練された美月の所作の一つ一つを、網膜に焼き付けた。
他の者たちと共に見送りのために道まで出た小夜は、車が見えなくなり、周囲の者たちが家の中に戻って誰もいなくなっても、道に一人で佇み続けた。
『小夜ちゃん』
美月にはもう会えない。けれど、美月の存在は小夜の奥深い所に刻まれている。
小夜は見えなくなった美月の姿を思い、乱れ模様の着物の袖を握りしめながら、和歌の一つを諳んじた。
「みちのくの しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし われならなくに」




