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三宝夢行録  作者: 徐三宝
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第二十四章:四品黄龍丹(よんひんこうりゅうたん)

“野人”と呼ばれた復讐者。

欲望が踊るこの島に、賞金首の影が潜む。

第二十四章:四品黄龍丹よんひんこうりゅうたん


空気が一瞬、ぴたりと静まり返った。馬車の中に緊張が走り、短い沈黙が流れる。


野人やじんですって?」

サンボウは思わず声を上げた。「そんなの、あり得ない……」


「当時は誰も信じなかったよ。侍女が恐怖で錯乱して、でたらめを言っているんだとね」

タン・ミンリーは淡々と話を続ける。


「でもそれ以降、半月に一度、平江府の周辺で**襲撃事件**が起きるようになったんだ。遺体は引き裂かれたり、何かに**喰いちぎられた痕跡**があったりで、惨状は言葉にできない」


サンボウの顔が強張る。その手口は、霊獣というよりむしろ**鬼物や魔物**の仕業に思えた。


「再び重明島の悲劇が思い出され、例の侍女の“野人の復讐”という言葉が広まり、人々の恐怖は頂点に達した。皆、**邪術を修めた野人が人間に復讐している**と噂した」


「復讐って……?」


「実は、あの日の“踏青”は**狩猟**が目的だった。殷家の令嬢は、山中の洞窟で見つけた**全身毛むくじゃらの奇妙な幼獣**を他の獲物と一緒に持ち帰り、料理して食べたそうだ」


タン・ミンリーは一拍置いて続ける。


「後に分かったことだが、その“幼獣”は**野人の子ども**だった。その日の午後から野人は彼女たちを**追跡・襲撃**し始めた。護衛の数が多かった殷家の令嬢だけが、なんとか命を取り留めたんだ」


その後、殷バイワンは平江府守備司と協力し、**重明島を徹底的に捜索**したが成果はなく、襲撃は止まるどころか、**平江府の郊外や城内にまで広がっていった**。


「それで?」サンボウが食い入るように訊く。


タンは微笑みながら言った。


「それでついに、殷バイワンが殷氏商会の名義で**王国内全土に懸賞を発布**した。

犯人を捕らえた者には、**四品黄龍丹よんひんこうりゅうたん**と**莫大な賞金**が与えられるってね。生死は問わない」


「し、四品黄龍丹!?」

サンボウは目を丸くした。


「服用すれば、**霊根を持たない者でも異能を覚醒**させられる。四品以下の修道者・異能者・武道家なら、**一段階飛び級して突破**できる」


サンボウはごくりと唾を飲んだ。

——欲しい。喉から手が出るほど欲しい。


「でも、四品以上の者には意味ないの?」


「彼らは代わりに**資源や装備と交換**すればいい。賞金もかなりの額だし、個人や小規模門派にとっては垂涎の的だよ」


サンボウは手元の七宝数珠に触れた。

もしこの丹薬を手に入れれば、自分は**二品の水系異能者から三品へ昇格**できる。賞金で装備を揃えれば、護身用の武器や法具も手に入る。

独りで行動する際の危険も、格段に減るはずだ——。


そう思うと、彼女の目に情熱の炎が灯った。心の中で、丹薬を手にし、全身を装備で固めた自分を想像する。


その様子を見たタン・ミンリーは、ふっと口元を緩めた。


「……そんなに欲しいのか?」


「当たり前でしょ。こんな棚からぼた餅、逃す手はないってば!」


タンはふと彼女に顔を近づけ、低く囁く。


「でもね……俺には、君の匂いの方が、黄龍丹よりずっと魅力的だ」


「……は?」


サンボウは思わず身を引いた。「今、なんて言ったの?」


タンははっとして言い訳を口にする。


「違う違う、誤解しないで!香粉の話だよ。君、どこの香粉使ってるの?いい匂いがするんだ」


「使ってないけど?」サンボウは冷たく返した。「ていうか、そういう口説き方、古臭すぎ」


「こ、口説いてなんかない……」

タンは戸惑いつつも、真面目に言った。


「でも本当なんだよ。前に秣陵ばつりょうの外で君が**血で矢を作って山賊と戦ったとき**から、ずっと思ってた。君の血……なんだか特別な匂いがして、すごく惹かれるんだ」


サンボウの眉がぴくりと動く。**気持ち悪……**


彼女は無言で馬車の反対側へ移動した。


タンは軽く咳払いし、それ以上何も言わなかった。


サンボウは内心で「……この人、変態じゃないよね?」と疑いながら、そっとカーテンを開けて車窓の外へ視線を移した。


馬車は官道を駆け抜けていく。遠くに**重明島の輪郭**が霞の中に現れ始めていた。


重明島は南に平江府、北に松江府を望み、聖江の河口近くに広がる**広大な海沿いの島**である。江風が潮の香を運び、白波が岩を打ち、朝靄と共に水霧が海岸を包む。


島には**原始の森が広がり、樹々は空を覆い、霧が立ち込める**。野鳥や獣の鳴き声が静寂を破り、**蔦の絡まる古道**が幾筋も伸び、**無数の天然洞窟**へと通じていた。その中には、**地下河川とつながるもの、あるいは闇の底へと続くもの**もあるという。


今、その島には**殺気が満ちていた**。

昨夜から集まった異能者や修道者、武道家たちが続々と島へ入り、**密林の中で身を潜めたり、探索に出たり、互いを警戒し合っている**。


空気はまるで嵐の前の静けさ。

次の瞬間、血の雨が降り注ぐであろう気配に包まれている。


——これはただの“野人狩り”ではない。

**一つの丹薬と富をめぐる、無言の戦いである。**


黄龍丹は**一つだけ**。賞金も**一度限り**。

勝者は、**ただ一人**。


**生き残るのは、強者のみ。**


これが、修行界における最も冷酷な掟——


山に風が走り、重明島にて、殺戮の幕が上がろうとしていた——。


欲望、真相、疑念…情報量の多い章でした。

ありがとうございます!引き続き中国から書き続けます。

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