第二十一章:玄陰伏煞陣(げんいんふくさつじん)
鬼を誘い、封じる陣──
三人の力を一つに、宿の闇に決着を。
第二十一章:玄陰伏煞陣
サンボウは微かに息を整えながら、脳裏で『神照経』の内容を素早く思い出していた。
右手の指先に霊力を注ぎ、左手の七宝数珠にある南紅珠にそっと触れると、七本の桃木釘と小さな桃木の槌が手のひらに現れた。
「行こう。黄の四号室の前に戻るわ」
ワン・スイフォンとタン・ミンリーは顔を見合わせ、彼女の意図は分からなかったが、無言でついて行った。
サンボウは定位置に立ち、息を整えた。桃木釘と槌を掲げ、霊力を注ぎ込んでから、勢いよく地面に打ち込んだ。
瑞斯特旅館(ルイステ旅館)の廊下の床は硬い青石で敷き詰められており、普通の剣ですら傷一つつけられない。しかし桃木釘が触れた瞬間、床はまるで柔らかな土に変わり、釘はあっさりと沈み込んだ。
ワン・スイフォンとタン・ミンリーは目を見開いた。特にワンは、探るような眼差しをサンボウに向けた。
彼女は北斗七星の方位に従い、七本の釘を打ち込んだ。次に七宝数珠から朱砂の小瓶を取り出し、丁寧に釘に塗りつけた。すると、釘は微かに震え、赤い光を帯び始めた。
「これは……陣法か?」ワンが尋ねる。
サンボウは額の汗を拭いながらうなずいた。「玄陰伏煞陣っていうの。雑書で読んだことがあって、ずっと試してみたかったの」
「雑書で?この陣法は失われたもののはずだ。うちの蔵書にも断片だけしか残ってなかったし、起動の呪文すらない」とワンは鼻を鳴らす。
《神照経》から学んだとは言えず、サンボウはさらりと答えた。「その雑書も不完全だったけど、私の悟性がちょっと高かっただけよ」
その言葉にワンは考え込むような表情を見せ、タン・ミンリーは微笑を浮かべた。
サンボウは汗だくになりながらも、ようやく布陣を終えた。タン・ミンリーは絹のハンカチを差し出し、彼女は笑顔で礼を述べた。
一方、ワンは無言で顔をそむけ、どこか不機嫌そうだった。
サンボウは陣の中心に立ち、空中に指を走らせながら、低く呪文を唱え始めた。
「天地清明、正気長存。邪祟退散、鬼魅無踪。太上老君に奉じ、急急如律令、勅!」
その瞬間、七本の桃木釘がまばゆい光を放ち、七本の銀白の光柱が走廊の奥へと飛んで行った。
三人は息を潜め、じっと待ち続けた。
——茶一杯の時間が過ぎた。
何の変化もない。光柱はまるで跡形もなく消え去っていた。
重苦しい沈黙が場を支配した。
「玄陰伏煞陣なんて大したことないな」ワンは冷笑し、腕を組んで斜めにサンボウを見た。
彼女の顔色が青ざめ、場は気まずい空気に包まれた。
「じゃあ、お前にあの女の幽霊を引っ張って来る手があるのか?」とタンが睨み返す。
ワンは口を閉ざした。
そのとき——
黄の五号室から物音がした。
三人はすぐに行動を開始。タンとワンは左右から同時に剣を構え、それぞれの剣「龍淵」と「凝雪」から罡気と霜気がほとばしり、五号室の扉を撃ち抜いた。
「ドン!」と扉が粉々に砕け、三人は中へ飛び込んだ。
室内をうねる無数の黒い影——それはすべて女鬼の髪だった。
サンボウは舌を出した。「びっくりした、ただの髪の毛か……」
次の瞬間、髪の毛が蜘蛛の巣のように膨れ上がり、三人に襲いかかってきた!
幾筋かの髪がサンボウの首に巻きつき、彼女の体を宙へと持ち上げた。
「また私!?」サンボウは心中で叫ぶ。「なんでいつも黒いのやら幽霊やら、私ばっかり狙うのよ!」
そのとき、一本の剣が飛来し、彼女を締め付ける髪を一刀両断!
地面に叩きつけられた彼女が見上げると、ワン・スイフォンが天井の女鬼を鋭く睨んでいた。
「お前たちは時間を稼げ!私は陣を起動する!」とサンボウは叫び、外へ走り出した。
「足引っ張るなよ!」とワンは冷笑しながら剣を振るう。「俺は口だけの誰かさんとは違う」
「剣術がそんなにすごいなら、髪の毛じゃなくて本体を狙えば?」とタンも挑発的に言い返す。
ふたりは応酬しながらも息の合った動きで戦い、しかし女鬼には決定打が届かない。
「結局頼りになるのは私か……」サンボウはため息をついた。
彼女は再び陣の前に立ち、七宝数珠から銀の小刀を取り出す。
両手のひらに刃を当て、血を絞り出しながら八卦図を描き始めた。
——女子の純陰の血で描くことで、極陰の陣が完成し、鬼の力を大きく弱める。
痛みに耐えながらも、彼女は図を完成させた。
「陣の中へ誘い込んで!」サンボウが叫ぶ。
「待ってました!」ワンが笑みを浮かべる。
「剣の速さ、勝負しようか?」タンが挑むように言った。
ふたりの剣気が女鬼を一気に押し出し、ついに陣の中心へと叩き込んだ。
陣が起動し、透明な鎖が女鬼を縛り、黒い霊気が吸い込まれていく。
好機を見たサンボウは、血に濡れた銀の小刀を手に、鬼の胸元へと突き刺した——!
「アアアアアーーッ!!」
絶望の悲鳴とともに、女鬼はたちまち朽ち果て、塵となって消えていった。
その瞬間、空間に変化が起こった。黄の部屋の幻影が消え、三人は元いた天の号室へと戻っていた。
部屋を見渡し、馴染みのある荷物と配置にタンが呟いた——
「……ここ、俺の部屋だ。」
陣法×退魔×チーム連携、楽しく書けた回でした。
中国から読んでくださる皆さんに感謝します!




