第二十章:鬼影の迷い道
本物の唐明理は、地に倒れていた。
“偽物”は、吊るされた女の亡霊──三人の信頼が試される。
第二十章:鬼影の迷い道
三宝は突然、王随風を押しのけ、唐明理を警戒の眼差しで睨んだ。目には明らかな疑念と警戒心が宿っていた。
しかし、唐明理の顔に浮かんだ殺気は一瞬で消え、すぐに表情を整えて彼女に駆け寄った。そして彼は三宝を支えながら、優しく声をかけた。
「大丈夫か?…さっき、どうしたんだ?」
王随風も地面から立ち上がり、すぐに三宝の傍に寄った。眉をひそめ、真剣な眼差しで言う。
「無事か?…急に倒れたから、心配した。」
三宝は深く息を吸い込み、頭を振ってから、手を振って二人を遠ざけた。
「…ちょっと距離を取って。少し一人にしてくれる?」
彼女は唐明理の手をそっと振りほどき、額に手を当てながら立ち上がった。
「…どうしたのか、こっちの台詞よ。むしろ、あんたたちがどうしたの?」
王随風と唐明理は一瞬目を合わせ、困惑の色を浮かべた。
「お前は…あの部屋の隙間から中を覗いた直後、突然倒れたんだ。」王随風は低い声で言った。「…本当に驚いたぞ。」
「それで?」三宝は内心に緊張が走るのを感じた。
「それで、俺が支えて起こそうとしたんだ。」王随風が説明した。「その間、彼は後ろで警戒していた。」
「どれくらい気を失ってたの?」三宝は眉をひそめた。心中で驚きを隠せなかった。
「ほんの一瞬だ。…刹那のうちに。」王随風が答えた。
—「刹那」とは、この世界の時間単位で、彼女の前世の世界における数秒ほどの短い時間である。つまり、数十秒にも満たない時間だった。
たったそれだけの時間?
でも…あの間域の水晶の洞窟では、ずいぶん長く話し込んだし、《神照経》の修行もした。さらに「七宝の腕輪」も授かったはず。
思い出した──あの高次元の存在が言っていたことを。
「この間域では、君のいた世界の時間とは流れ方が違う。ここでは、あの世界の時間は停止している。」
「なるほど、そういうことか……」
三宝は得心がいったように、ぼんやりとした表情を装って言った。
「…あの部屋の中を少し覗いたら、ちょうど目の前に銅鏡があったの。鏡の中に女の霊がいて、目が合った瞬間──意識を失ったの。」
その言葉を聞いた王随風と唐明理は目を見交わした。
二人は同時に左右に別れ、勢いよく部屋の扉を蹴破った!
そして唐明理は龍淵剣を振りかざし、部屋へ踏み込むと同時に、剣の閃光が空気を裂いた!
「ドンッ!」
銅鏡と化粧台が一瞬で真っ二つに斬り裂かれた!
三宝もその後を追って部屋に入り、粉々に砕けた鏡の破片を見下ろした。鏡の中には──何もなかった。虚ろな空間が映るだけ。
空気が凍りつくような静けさが満ちた。
その時だった。
隣の部屋から、再びあの幽かな歌声が聞こえてきた。
「あなたを待ってる… あなたを待ってる……」
その歌声は壁を通り抜けて響き、怨念のような重たく湿った響きを帯びていた。まるで言葉にならぬ未練を訴えるように。
三人の顔色が一斉に変わる。無言のまま、同時に部屋を飛び出し、隣の部屋へ向かった。
しかし──
部屋を出ようとした瞬間、彼らは驚愕の事実に直面する。
「……扉が、消えた?」
王随風が低く呟いた。
周囲を見渡すと、そこにあったはずの家具も銅鏡の破片も、影も形もなかった。部屋全体が、まるで現実から切り離されたような…異質な空間に変わっていた。
壁の向こうから、再び歌声が聞こえてくる。
「なぜ…戻ってこないの? なぜ…帰らないの?」
三人は顔を見合わせた。
王随風は声を低めて言う。
「……どうやら、閉じ込められたようだな。」
三宝は目を細め、決意を込めて言った。
「この壁、壊すしかない。」
唐明理と王随風が一瞬ためらったのを見て、三宝は叫ぶ。
「何を迷ってるのよ! お二人とも男でしょ? 女の私に壊させるつもり!?」
王随風は面食らいながらも、錦囊から重たい鉄槌を二本取り出した。
「……鉄槌まで持ち歩いてるの? 一体、他に何を入れてるのよ…」三宝は内心で突っ込む。
彼らは一心に壁を打ちつける。
「ドン!ドン!」
壁が震えるたび、木屑や砂埃が舞い上がる。
「ドガーン!」
壁が崩れた。
三人は瓦礫を踏み越え、隣の部屋に入った。
そこには──
倒れている人の姿があった。その服装…体つき…どこか見覚えがある。
三宝は駆け寄り、仰向けにした瞬間──息を呑んだ。
「唐明理!?」
目の前に倒れているのは、紛れもなく唐明理。
──じゃあ、さっきから一緒にいた“唐明理”は一体……?
「フフフフフ……」
不気味な笑い声が背後から響いた。
振り返ると、“唐明理”が、長い髪をたなびかせた女の幽霊に姿を変えていた。
彼女は瑞斯特旅店の制服を着ており、妖艶な美貌を持ち、濃い化粧を施していた。
「気をつけて!」
三宝が叫ぶと同時に、水囊から水を引き出し、大きな水球を手のひらに作り出す。
「破っ!」
水球が女霊に向かって飛ぶ!
王随風も即座に反撃に移る。鋭い剣を連続して繰り出すが──すべて、わずかに届かない。
女霊は一撃で王随風を吹き飛ばし、三宝の首を締め上げた。もう一方の手には、突然、縄が現れる。
自らその縄を首に掛けると──
その美貌が瞬く間に歪み、目は飛び出し、舌が垂れ下がる。顔は真っ白になり、まるで地獄を覗いたような表情に変わった。
「キャアアアアアッ!」
鋭い絶叫が部屋に響き渡り、三宝と王随風の頭が痛む。
「まずい…これは高位の怨霊だ!」
王随風は腰の錦囊から一枚の符を取り出し、血で塗り込めた。
すると符が赤く光り、光が爆ぜるように広がっていく。
女霊は悲鳴を上げ──瞬時に、消え失せた。
静寂。死のような沈黙が、再び訪れる。
「唐公子を起こして!」三宝が叫ぶ。
王随風はまたもや錦囊から水桶を取り出す。
「もっと水を!」
「……今度は水桶!? あんたの錦囊、無限なの?」三宝の心の声が響く。
三宝は法を結び、水囊の残りの水と空気中の水分を集め、大きな水球を作って桶に注いだ。
その水を王随風が唐明理の頭からぶちまけると──
唐明理はびくりと身体を震わせ、目を覚ました。
水浸しの顔を見て、三宝は思わず笑ってしまった。
唐明理は少し呼吸を整え、口を開いた。
「…ロビーで少し休んでから部屋に戻ったんだ。入った時、机の上に銅鏡が置いてあって、それを見た瞬間──意識が途切れた。」
また銅鏡?
私はあのとき、高次元存在に助けられて脱出できた。でも、彼はただ水をかけられて目覚めた──?
あの存在は言っていた。「魂が戻らなければ肉体は死ぬ」と。
三宝の目が鋭くなった。
彼女はそっと後ろに下がり、王随風に合図した。
「…あんた、本当に唐明理だって証拠は?」
唐明理はまるでそれを聞いていたかのように言う。
「王兄、その符を一枚貸してくれ。」
王随風が符を渡すと、唐明理はそれに血を垂らした──
だが符は一瞬だけ光り、すぐに灰となって消えた。
唐明理は肩をすくめた。
「…これで信じてくれるかな?」
三宝と王随風はようやく息を吐いた。
「…さて、高位の怨霊はまだ消えたわけじゃない。」王随風が言った。「やつは、また戻ってくる。」
この章は書いててとても楽しかったです。
正体を暴く瞬間って気持ちいいですよね。読んでくれて本当にありがとう!




