第十九章:また異世界に?
銅鏡の世界で出会った“神照経”と不思議な手串。
その贈り物は、今後の鍵となる──。
第十九章:また異世界に?
三人は、あの不気味な歌声をたどって宿屋の中を進んでいた。幽かな歌声が館内にこだまし、肌を刺すような不気味さが漂っていた。
「歌声は、この部屋から聞こえてきた。」
三人はその声を頼りに、黄字第四号室の前で足を止めた。
扉は半ば開いており、漆黒の隙間が奥を覗かせている。
「この部屋、さっき誰が調べた?」
王随風は低く問い、腰の錦の袋に手を添えると、霧のように冷たい“凝雪剣”がその手に現れた。
三宝は深く息を吸った。直感が警告を発していた——この扉の向こうに、未知の危険が潜んでいる。だが彼女はそれでも静かに近づき、扉の隙間からそっと中を覗き込んだ。
鏡台の上に掛けられた一枚の銅鏡が、彼女の視線を真っ直ぐ受け止めた。その瞬間——
空っぽだったはずの鏡に、突然女の顔が浮かび上がった。
鏡の中の女は、まっすぐ三宝を見つめ、その唇がじわりと裂けるように広がり、ぞっとするような微笑を浮かべた。
「ドンッ!」
三宝の脳内で爆音が響き渡り、世界がぐるりと回り出した。視界は霞み、耳が鳴り、身体はバランスを失って床に崩れ落ちる。地面が揺れ、天と地が混ざり合う。彼女は必死に抗ったが、吸い込まれるように漩渦の中へ沈んでいった。
——そして次に目を開けたとき、彼女はまた、あの見覚えのある“水晶の洞窟”にいた。
あたりは不安定で、色彩が揺れ、空間そのものが流れるように変化していた。懐かしく、そしてどこか異質。
彼女の傍らには、あの次元を超えた人型の存在が、静かに立っていた。その目には、感情の起伏がなかった。
「私……死んだの?」
「いや、お前に“超高速回復”の才能がなければ、死んでいた。」
存在は淡々と告げる。まるで事実を読み上げるように。
三宝は眉をひそめた。「さっき……何が起きたの?」
「鏡の中の女鬼の不意打ちを受け、お前の魂は鏡の中に吸い込まれた。短時間で脱出できなければ、肉体は死に至る。」
三宝は息を呑んだ。「王随風と唐明理は!? 二人は無事なの?」
存在は深い眼差しで言った。「お前が戻ってどう行動するか、それにかかっている。」
「……どういう意味?」三宝は困惑した。
答えの代わりに、存在は手を振ると、光が宙に現れ、薄い冊子がふわりと三宝の手に落ちた。
「これを持て。読み終えたら、戻してやる。」
三宝は冊子を開いた。中身は——真っ白だった。
しかし霊力を込めて見ると、白紙に三文字が浮かび上がる——《神照経》。
三宝の瞳が大きく開いた。
「神照経……?」彼女は思わずつぶやいた。脳裏に、ぼんやりと前世の記憶がよみがえる。そうだ、この名前……かつて武侠小説で目にしたことがある!
冊子のページには、精神を集中すると文字が浮かび上がり、読み終えると消え、次のページが現れる仕組みになっていた。
「これは初級の修行法だが、お前の世界では“天級”に相当する。」
存在は静かに言った。「これを極めれば、お前は今いる世界で頂点に立てる。」
「頂点に——」三宝の胸が震えた。
前世で卑屈に生きていた彼女にとって、それは何よりも強く心を惹かれる言葉だった。
彼女が夢中で冊子を抱きしめているのを見て、存在は意味深な笑みを浮かべた。そして再び手を動かすと、金色の光が走り、三宝の左手に赤い数珠——南紅の“七宝手串”が現れた。
「これは空間法器——“七宝手串”だ。」
三宝はぱちぱちと瞬きをしながらそれを眺めた。「これは何ができるの?」
「法器とは宝器にあらず。しかしその効力は、宝器の大半を凌駕する。」
「物を大量に収納できる。中はまるで世界のように広大だ。」
「世界……?」三宝は驚いた。
「今はほんの一部しか使えぬが、修為が上がれば中の空間も拡張され、やがては天地をも収められる。」
三宝はうなずき、まず基本操作を学ぶことにした。
左手で神照経を押さえ、右手で手串の赤玉をなぞる——
次の瞬間、冊子は消えてしまった。
「どうやって取り出すの?」
「赤玉のいずれかを撫で、霊力を込めよ。心に思い浮かべたものが現れる。」
三宝は言われた通りに試すと、たちまち神照経が手に戻ってきた。
「生き物も入るの?」と彼女は訊ねた。
「可能だ。」存在はうなずく。「日月星を収め、霊草を育て、霊獣を飼うこともできる。」
「霊草に霊獣……」三宝の脳裏に、かつて読んだ修仙小説の主人公たちが浮かぶ。丹薬を作り、植物を育て、異世界で栄える——そんな世界が、今まさに自分の手の中にあるのだ。
彼女は喜びと興奮の中で、思考が雲の上へと舞い上がっていた。
——「時間だ、戻すぞ。」
存在の声が、彼女の意識を現実へと引き戻した。
またもや、天地が反転し、視界が高速で流れていく。そして空から落ちるような感覚——三宝は吐き気をこらえながら、目を固く閉じた。
「もう……次は無いといいな……」
目を開くと、そこは黄字第四号室の前。
王随風が両肩を強く揺さぶりながら、焦った顔で彼女を見つめていた。
その背後では、唐明理が剣を抜こうとしていて——
「え?」
三宝は本能で、王随風を押し飛ばした。
彼は驚いたようにたじろぎ、よろめいて後ずさる。その顔には、思いもよらぬ表情が浮かんでいた。
ご褒美回みたいな章です(笑)
強くなるだけじゃない、大切な出会いもここから。感謝!




