第十八章:静寂なる怪夜(せいじゃくなるかいや)
静まり返った旅館と通り。
響き続ける歌声が、三人を異界へと誘う──。
第十八章:静寂なる怪夜
唐二公子の言葉が落ちた瞬間、
三宝と王随風は、
深夜の瑞斯特旅館に漂う異様な「静けさ」にようやく気づいた。
唐明理がゆっくりと近づくと——
「シャーーーッ!!」
三花宝、三宝が抱えている三毛猫が突然毛を逆立て、
箒のように膨らんだ尻尾を振り、彼の前に飛び出して威嚇した。
低く唸るその声、全身の緊張、そして敵意むき出しの瞳——
それはまさに危険の到来を告げていた。
「どういうこと……?」
三宝は目を細めて猫を見下ろし、
その異常な反応に戸惑いを覚える。
唐明理は薄く笑いながら、
「君の猫は、お前たちよりも賢いようだ」と皮肉った。
「……どういう意味?」三宝が問い返すと——
「君たち、さっきまでこの部屋であれだけの大乱闘をしたのに、
誰一人見に来なかったことに疑問を持たなかったか?」
唐明理は怠そうに窓の外を見やりながら呟く。
王随風は挑発的に笑い、
「おや、いつもはズバッと言う唐家の二公子が、
今日はずいぶんとまわりくどい言い方をするね」と皮肉る。
「ふっ。すぐに笑えなくなるぞ、王公子。」唐明理の口元は、意味ありげに歪んだ。
「旅館の者、全員——消えている。」
三宝の心が一瞬、ざわりと波立つ。
部屋の扉を一気に開けると——
廊下は闇に沈み、蝋燭の炎だけが壁に揺れる影を落としていた。
人気のない廊下、物音一つしない館内、
客も、店員も、旅人も……誰一人いない。
静かすぎる夜だった。
不気味すぎる静寂だった。
王随風は表情を引き締め、
「……妙だ」と一言。
「ま、あなたがいれば百人力でしょ?」と唐明理が嫌味を飛ばす。
「では、手分けして調査しよう」三宝が提案した。
唐明理は勝手に指示を出そうとするが——
王随風:「なぜお前が指示する?」
唐明理:「……不満か?」
王随風:「葱か何かか、お前は?」
火花散る口論の末——
三宝が「うるさい!!!」と一喝。
ついに主導権を握った三宝は、冷静に役割を振り分けた。
- 王随風 → 天の間の調査
- 唐明理 → 地の間の調査
- 三宝 → 玄の間の調査
「最後に三人で黄の間を一緒に見に行こう」
理由を問われても即答し、王随風も渋々納得。
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三人は手分けして調査へ向かい、約30分後に再びロビーへ戻った。
「どうだった?」三宝の問いに、
王随風:「誰もいない」
唐明理:「……全員消えていた」
旅館の全フロア、すべて空っぽ。
三人は外に出て街を歩くが、そこもまるで死んだような静寂。
人影はなく、風も吹かない、音もない。
まるで世界全体が「何か」に呑み込まれたようだった。
再びロビーに戻った三人。
「これから、どうする?」と三宝。
王随風:「……ここで待とう。
離れずにいれば、何が起きても対処できる。」
唐明理:「ふん、お前にしては消極的だな。」
王随風:「お前だって、打つ手がないんだろ?」
再び始まる口論を、三宝が冷たく一喝した。
「もう黙れ、あんたら。……じゃあ、退屈しのぎに、歌でも歌おうか?」
そう言って、三宝は《我等は君の帰りを待つ》を口ずさみ始めた。
♪ 燕は戻り、庭の花は咲く
なぜ、君は戻らないの?
なぜ、君は戻らないの?
私は待つ、帰りを待つ…… ♪
彼女の透き通るような歌声が、死のような沈黙の旅館に広がっていく。
——だがそのとき。
王随風が突然、三宝の手を掴んだ。
「……なにするの?」三宝が驚く。
王随風は黙って、彼女に「黙れ」と合図する。
だがその間も——
あの歌声が……止まらない。
♪ なぜ、君は戻らないの?
なぜ、君は戻らないの?
私は待つ、帰りを待つ…… ♪
三人の間に、再び「恐怖」が静かに忍び寄っていた——
日本の怪談的な雰囲気、実は影響を受けています。
中国からですが、どこかで繋がっていたら嬉しいです!




