617【兄の目覚め】
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今話は、ふつうの長さです。
翌朝。朝食の用意をしている最中に、兄が目覚めた。
オレは、すぐにまぶたが開いたのに、気付いた。
「起きたか?」
オレを見て、反射的に起き上がろうとする兄。
それを片手で抑える。
「安心しろ。捕まえたわけじゃない。おまえが倒れてしまったのをムーナちゃんが助けを呼んで、保護しただけだ」
観念して、身体を横たえる兄。
「まず、名前を教えてくれ。オレはサブ。冒険者だ」
「テリー」
よかった。ムーナちゃんと同じく、喋れないことも覚悟していたのだ。
「テリーか。盗みはよくないのは、わかっているな?」うなずく。「だが、そうしないと、食べ物が得られなかった。それはわかっている。気分はどうだ?」
「良くなった」
「多少な。腹が減っただろう?」
どう答えるべきか逡巡している。
だが、腹は正直だ。テリーの腹から大きな音がした。
それに気付いたムーナちゃんが、こちらに駆けてきた。
テリーにウーアー言ってる。
「大丈夫だ、ムーナ」
テリーのその言葉に、ムーナちゃんは彼に抱き着いて、泣き出した。不安だったのだろう。
「マナミ?」
「用意できてます」とアイテムボックスからスープ鍋を出した。
「話はあとだ。食事にしようか」
「でも、カネない」
「心配するな。あとで働いてもらうからな」
「わかった」
ムーナちゃんの背中をトントン叩いて落ち着かせるテリー。
テリーにはスープ。食事をしてこなかった胃に、突然、固形物を入れるわけにはいかない。
「誰も取らないから、ゆっくりと飲むんだぞ。急ぐと、胃がひっくり返って、せっかく飲んだものが無駄になるからな」
テリーはうなずいて、スプーンをスープに浸した。持ち方がなっていないが、今は注意しないでおく。
対するムーナちゃんは、すでにマナミに教わって、正しい持ち方になっている。
テリーがスプーンを動かすのをやめて、こちらを見た。その前からチラチラ見ていたが。
「ふたりは、食べない?」
「あとで食べる。スープだけじゃ、足りないからな。目の前で美味しそうなものを見せられてもイヤだろう?」
「そうかも」
「だから、安心しろ。元気になったら、たらふく食べられるから」
「たらふく?」
「たらふくは言い過ぎかな。それでもひもじい思いはする必要がなくなる」
「ホントに?」
「ふたりの働き次第だ。だが、今は元気になることだけを考えろ。ほら、飲んで」
「うん」
兄が目覚めたことではしゃいでいたムーナちゃんは、すぐに眠ってしまった。
「テリー、少し話を聞かせてくれ」
うなずくテリー。
「この町に来ることになった理由だ」
「オレたち、おとうとおかあと一緒に、森の中に住んでた。おとうが狩りに行って帰ってこなくて、おかあが代わりに狩りに行くようになった。でも、そのおかあが大ケガして帰ってきた。魔獣に襲われたって。それでおかあが言った。町に行けって」
「そうか。それで町までは歩いて?」
「馬車に乗った。休んでるところを入り込んで」
「両親もタヌキ獣人か? おまえたちと同じ?」
「うん」
「そうか。それで今後の話だが、働く気はあるのか?」
「ある。何ができるかわからないけど」
「そこは、こちらが考える。仕事をすれば、お金を得られる。お金があれば、盗む必要なく、食べ物にありつける。わかるな?」
うなずく。
「よし。今日はここまでだ。お休み。あっ、オシッコはあそこでしてくれ」
彼を抱き上げ、トイレを見せる。どう使うかも教える。
「わかったか?」
「うん」
寝床に寝かせる。
「お休み。また、明日」
「おやすみ、なさい」
テリーは、まぶたを閉じた。まぁ、閉じただけで、眠ってもいないが。少しすれば、自然と眠るだろう。
マナミと示し合わせて、外に出る。
小屋前で、ランタンを灯して、夕食を摂る。
「よかったですね、目が覚めて」
「とりあえずね」
「あとは、ギルド次第ですか?」
「そうなるが、なんとも言えないな」
「ムーナちゃんのことが心配です」
「文字はすぐに覚えそう?」
「絵を描いていたせいか、名前はすぐに覚えました。書字板が気に入ったみたいですよ」
「だろうね。あれはもうあの子のものだ」
「ですね」
「できれば、文字を覚えさせたいところだな」
「私たちがいるあいだに?」
「いや、オレたちが出発したあとでもだな。とりあえず、単語帳のようなものでもあると、良さそうだが」
「単語帳ですか。試験勉強を思い出しますね」と苦笑。
「おじさんは、遠い昔でございます」
「またまたぁ」と笑うマナミ。
その笑顔を見て、素敵だなぁと思う。
「マナミがいてくれて、助かったよ」
「ひとりなら、もっと先に行っていたでしょ。あの子たちと出会わずに」
「ああ」
「それであの子たちが死んでしまったかもしれないと考えたら、私も一緒に来て、よかったと思います」
「うん」
食事を終え、お茶休憩。
春にしては暖かい夜だ。
それでもときおり、涼しい風が吹く。それで身体が冷やされるが、すぐに風はやみ、体温が戻る。いい気候だ。
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