319【アダナン町に到着】
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2話連続投稿します(1話目)
ここから、貴族の護衛編になります。
翌日。
ふつうに起きたら、彼ら《守護獣の誇り》は全員起きていた。
朝の挨拶をして聞くと、ぐっすりと眠れたそうだ。二度寝も考えたが、お風呂に入りたい、と言う。
女性陣、男性陣という感じで入ってもらう。
お風呂大臣のウーちゃんが、嬉々として世話を焼く。やはり、同好の士というのは、うれしいのだろう。
朝食を摂り、お茶休憩。
「サブたちは、これからどうするんだ?」とベズーラ。
「王都に向かう予定だ」
「そうか。隠れ里の話、連絡はどうすればいい?」
「依頼したら手伝ってくれる、って話?」うなずくベズーラ。「なら、ミゼス町の冒険者ギルドに連絡してくれるか。そこが冬越しの場所なんだ」
「わかった。こちらはオオベ町だ。こちらも冒険者ギルドに頼む」
オオベ町は、ミゼス町のとなりの町で、位置としては、王都側ではなく、こちら側だ。つまり、うまくすれば途中で拾える。
それで、オレたちはテントを回収して、出発した。
その日のうちに、アダナン町に到着した。ウーちゃん様々である。
商業ギルドに立ち寄り、依頼受注書を提示して、目的の邸宅の場所を尋ねる。何も提示しないと、不審人物の誹りを受けるからな。
どうやら、邸宅は、町の奥にあるらしい。広場とは、反対方向だ。
その場所は、広大な敷地を高い塀が囲んでいた。門は、錬鉄製で蔦をデザインしたもの。そこから見える邸宅は、立派な二階建ての建物だった。
門前に馬車を停車させる。
「何者だ!」と声を掛けられた。姿は見えない。
「護衛依頼を受けた冒険者です!」と大声で答える。
「待て!」
五分ほどして、門扉が開けられた。ただし、人がひとり通れるだけ。
そこから現れたのは、中肉中背の五十歳ほどの男性。見た感じ、庭師に見える。
「受注書を見せろ!」
さっきの声だ。
彼に、依頼受注書を見せる。
しっかり見てから、返された。
「中に馬車を入れろ。入れたら、降りて、待て。勝手に動くな。いいか?」
「わかった」
彼によって、門扉が開けられ、馬車を中に進める。
彼の手による指示で停車し、そこに全員が降りる。言われたとおり、歩きまわったりしない。
庭師と思われる彼が、近付く。
「リーダーは?」
「オレだ」と前に出る。
「これで全員か?」
「はい」
「途中で、仲間と合流はしないな?」
「はい」
「王都まで、まっすぐに向かうか?」
「途中、ミゼス町の我らの屋敷に寄りたい。しかし、護衛を優先する必要があるならば、まっすぐ向かいます」
「ふむ」と考え込む庭師。しばらくして、顔を上げる。「滞在はどのくらいか」
ん? 貴族言葉?
「寄らなくても構いません。ですが、寄る場合は、手配に一日を予定しています」
「わかった。旅路では村や町に宿泊するつもりか」
こいつ、明らかに貴族だ。鑑定さん、よろしく。
「失礼、ガイナルク伯爵様でいらっしゃいますね」
疑問ではなく、確認言葉。
みんなが驚いている。
伯爵様は、怪訝な顔で、オレを見る。
「オレは、鑑定スキル持ちです」
それでうなずいた。
「なるほど。中に入るといい。もてなしは期待せぬように」
彼を先頭に、邸宅に入る。
玄関ドアを開けると、執事がドアを開けようとしている姿にぶつかった。
「旦那様?」
「冒険者だ。例の件で、話す」
執事は、脇に寄り、頭を垂れる。
入る前に、伯爵様に尋ねる。
「失礼ですが、この邸宅には、何人がいらっしゃいますか?」
「なぜ聞くか」
そこでラーナを示し、彼女の体質を説明する。それから御守りを渡す。
「これで彼女の結界に入れます」
実際に伯爵様が試す。御守りを身に付けずに執事に預け、ラーナに近付き、結界に当たる。それから御守りを身に付け、近付く。今度はラーナに触れた。なるほど、とうなずく。
それで人数は教えてくれなかったが、念のために三十個を執事に渡した。
伯爵様に案内されて、リビングに。促されて、ソファーに座る。
伯爵位なのに、室内は質素な感じがする。裕福そうには感じられない。貧乏というレベルではないが。
「ブレナン・ガイナルクである」と自己紹介。「国王陛下から紹介を受けた。ではあるが、容易く信用できぬ」
「もちろんです」
「あの馬車での移動になるか」
「はい。しかし、浮遊の魔導具にて、乗り心地は大変によくなっております。ですから、不快な旅にはならないかと」
「魔導具を使うか」と驚いている。
「快適な上に、移動時間も短縮されます」
「なるほど、それは助かる」
「我々は護衛依頼を受けておりますが、途中、妨害などがあると?」
「妨害はない。問題は」と上目遣いでオレを見る伯爵様。
「問題は?」
そこでなぜか諦めた顔をする伯爵様。
「送って欲しいのは、うちの娘だ」
「お嬢様、ですか?」
そんな顔をするようなことか?
「どこにも寄らずに、王都に行けるか?」
「できます」
そこでため息ひとつ。
「会えば、わかるだろうことだ」と本当に諦めの声。「娘は……精神を病んでおる」
ムムム、これは予想外だ。精神を病んでいる、って。判断に困るぞ。
「それで、まっすぐ王都へと?」
「うむ。村や町に寄らずに、願いたい」
つまり、娘の状態をほかの貴族の誰にも知られたくない、ということか。
「なるほど。暴れますか?」
「いや、言動に難があるのだ。貴族としては恥ずかしいが、どうしようもない。せめて環境を変えてはどうかと医師に助言をもらったのだ」
言動か。場合によっては、睡眠剤で、眠らせての旅もできるが……
「その言動は、意味をなしていらっしゃる?」
「なんとも言えぬ。娘としては、言葉の意味を説明しようとしているようなのだがな」
ふむ、少なくとも、意思疎通を図ろうとしている、と。
「では、説明をすれば、態度を改めてもらえるでしょうか?」
「うむ」
「突然、暴れたりは?」
「それはない」と首を振る。「どうやら自分に対して癇癪を起こしているようだ。貴族令嬢としての礼節は身に付けておる」
「それはパーティーに出しても?」
「パーティーか」険しい顔をする。「難しいな。デビュタント・ボールも諦めた」
デビュタント・ボールとは、貴族令嬢の成人式パーティーのことだ。いくつかの作品では、貴族家の令嬢が自宅で行なっているが、本来は王城やホテルなどに、令嬢たちを集めて、国王陛下などに拝謁し、ほかの貴族家に見てもらうことで、社交界デビューさせる。その場で、婿探し嫁探しもするとか。この国では、どうなのかは、知らないけども。
「ほかの貴族家に気付かれたくない、と?」
うなずく伯爵様。
「わかりました。貴族令嬢として、あの馬車に乗ってもらえるでしょうか?」
「乗馬は習わせている。うちに馬車はあるが乗せたことはない。だから、初めての馬車となろう」
「なるほど」
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