またメイド喫茶?
二学期も残りあとわずか。修学旅行も終わって今日からまた普通の登校日。三連休から明けて、さすがにもう修学旅行気分は落ち着いて、むしろ今度は冬休み気分に切り替わり始めているところだろう。
修学旅行の時はあまり気にならなかったけど、12月の朝はやっぱりさすがに寒い。
「さむいぃぃぃ……」
モコモコダウンを着て、マフラーに顔半分を埋めた状態の芽吹。ただでさえ小柄な芽吹が尚更何かのゆるキャラみたいになっていた。
「寒いなぁ。大阪とかはそんなに寒く無かったと思ったけどな」
「う〜……バタービール呑みたい」
「『熱燗呑みたい』みたいに言うなよ。酒飲みの発言みたいだな」
「じゃあココアで」
「買って来いと?もう学校に着くぞ」
「だよね。自販機でココア買お」
温かいココアで手を温めながら、一週間ぶりの教室に到着。
「おはよう」
扉を開けた途端、
「ウィンガーディアム・レビオーサァ!」
「ふぇっ!?」
教室に入った途端男子の一人から呪文を掛けられた。
「あ、芽吹ちゃんおはようー!」
「あ、吉澤さんおはよう。いきなり何これ?ビックリしたんだけど」
「基本呪文の物を浮かせる魔法だぜ」
「うん。それは知ってる。ビューン、ヒョイだよね?」
「そう、それ!スカート浮かせられなかったけど」
「浮くかバカ。芽吹ちゃんに何しようとしてんだよ!」
それを聞いて咄嗟にスカートを抑えてしまった。寒いから下に黒タイツと短パンも履いて来たから平気といえば平気なんだけど。見られたらそれはそれで恥ずかしい。
スカートを咄嗟に抑えてしまった自分の反応に、一応残っている男心が複雑な気持ちになった。
教室内をよく見ると何人かの生徒がホグワーツのローブとマフラーを着てハリー・ポッターの真似をしていた。
「エクスペリアームズ!」
「エバーテスタティー!」
二人の男子が杖を振って闘っていた。
「マフラーとローブ、あれ高かったと思ったけど、買ってた人いたんだ。杖まで?」
「いや、あいつらが持ってんのただの枝だよ」
「ズコッ……!」
思わずズッコケてしまった。
USJの興奮はまだまだ冷めていなかったようだ。よく見れば、女子は女子で小物類のお土産を見せ合いっこしている子たちもいた。
昼休み。
芽吹はいつものメンバー。秋人、夕夏、八乙女さん、出島、有馬と学食で昼食をとっていた。
「そう言えば俺、冬休みバイトしようと思ってんだけど」
有馬が言った。
「京弥くんバイトするの?」
「何のバイトにするか悩んでんだよ」
「コンビニとかファミレスとかが定番っぽいけど?」
「接客系かぁ……。ちょい苦手かも」
「京弥くん接客向かなそう。愛想無いもんねぇ」
「ハッキリ言いすぎだろ。自覚はあるけどな」
「アタシらカワイイ女子だったらクリスマスはミニスカサンタのバイトとかあるあるだよね!」
「あれは止めておいたほうがいい。寒いし、ナンパ多いし、風邪引くぞ」
「マジレス。やらないってば。ナンパ嫌だし。それに寒いしね」
「バイトねぇ〜……」
みんなが頬杖をついてバイトについて考える中、
ズルッ……ズルッ……ズルルルル……もぐもぐもぐ……。
サクサク……。もぐもぐもぐ……。
ズズズゥ〜。
「もいひぃ〜。出汁ウマぁ〜!」
ひとり海老天うどんを味わう芽吹。
「芽吹ちゃんはなんかやってみたいバイトとかある?」
夕夏が聞いてきた。
「ん?バイト?う〜ん……特には……?」
「そう言えば芽吹ちゃん去年猫メイドみたいなバイト一回やらなかったっけ?」
「……?」
猫メイド……?そんなのやったっけ?
バリボリバリボリ……。ムシャムシャ……。
汁に浸した海老天の尻尾をバリボリ食べながら記憶を辿ってみる。みんなもそんな記憶を思い出そうと考え込む。
「う〜ん……。去年の文化祭でメイド喫茶はやったよな?」
有馬が言った。
「僕もそれは憶えてるんだけど。バイトした記憶は無いんだようね……?」
芽吹も記憶を辿ってみるが、バイトをした記憶は無い。
「その前にアキバに行ったりしなかったっけ?メイドカフェに」
出島が言う。
「あぁ〜。そう言えばあった。メイドカフェだった。思い出した」
でもあれ?バイト……だったっけ?
学食の天井を見上げて思い返す芽吹。
「あん時のって確か誰だかに誘われて行ったんじゃなかったっけ?」
「ああ〜、そう言われると……確かに?」
出島くんの言葉に僕も何となくそんな気がしてきた。誰だったっけ?
「誰だっけ?」
「誰だったっけ?」
芽吹と夕夏と出島がそう呟いた。
するとその時、
「この中に芽吹ちゃんいないっすか?」
学食の入口からそんな声が聞こえてきた。眼鏡をかけた子の問いかけに、入口付近にいた何人かの生徒が、芽吹がいるテーブルを指差して教えると、一瞬眼鏡が光り、こちらにロックオン。アラレちゃん走りで芽吹がいるテーブルまで激走して来た。
「探したっすよ芽吹ちゃん!早速だけどバイトしないっすか?」
ボンボンに結った神楽ちゃんヘアに赤いフレーム眼鏡の、オタク特有のテンションの高い子がきた。
「あ……」
「あー!」
「お前か!」
「アキバのバイトリーダー!」
「え、誰だっけ?」
「いやいや……リーダーじゃないっすよ」
「ん?」
芽吹だけが分かっていなかった。
「加奈っすよ!園田加奈。3組の。去年の文化祭でメイド喫茶一緒に盛り上げたじゃないっすか!」
園田加奈。
去年、文化祭の模擬店でメイド喫茶をやるという話から、実際にアキバのメイド喫茶に行って接客を体験したことがあった。その切っ掛けが彼女だったのだ。
「思い出した。メイド喫茶の。まだ学校に内緒でバイトしてるの?」
「しー!しーっすよ。芽吹ちゃん!極秘なんすから」
「みんなが集まる学食まで来て極秘も無いだろうに」
「秋奈っち、そこはツッコまないであげようよ」
「そうっす。ウチがバイトしてるってぇのは極秘なんす」
割と大きな声で胸を張る園田加奈。
「バイトの話なら僕よりも有馬くんが欲しがってるみたいだよ。僕は正直あんまりやる気無いよ?」
「一応聞くけど何のバイトだ?俺でもやれそう?」
「またメイド喫茶?」
「いや、今回はメイド喫茶じゃぁ〜ないんすよ」
「あくまで芽吹ちゃんだけを誘いに来たつもりだったんすけど、イケメンが一人付くならそれも有りっすかねぇ?とりあえずじゃあ今日の放課後、試しに店の方行ってみますか?」
そして放課後……。やっぱり秋葉原。
四の五の言わずの勢いでバイト先へと案内された芽吹たち。
「ここ?」
「はい。ここっす」
「いらっしゃいませー!」
芽吹たちが案内されたのは、男装した女の子たちがウエイターを勤めるボーイ&執事喫茶。いわゆる『コンセプトカフェ』なるものだった。
続く……




