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偶然過ぎにも程があるよ

よーーやっと、修学旅行編が終わりです。今回から日常編に戻ります。

 

 その日の夜、ホテルに戻ってきた芽吹たちは、夕食バイキングでもお風呂でも、消灯時間を過ぎてからもUSJでの興奮の熱が冷める様子はなく、ほとんどの生徒が寝不足のまま最終日を向かえた。

 最終日はバスで大阪の数カ所の道の駅などを巡り、新幹線で帰る日程となっている。

 ホテルから出発し、午前中の内はまだみんな元気にお土産の買い物を楽しんでいたようだったが、お昼を食べて新幹線に乗った後は、昨晩の寝不足の代償と旅の疲れが一気に押し寄せたのか、生徒も引率の教師も一切無抵抗のまま睡魔に身を預けたのだった。

 八乙女さんを真ん中にして夕夏と芽吹がその肩を借りるように眠る。可愛い女子高生のとても微笑ましい姿だった。

 少しして、そろりそろりと何故か出島が芽吹たちが眠る席へと移動して来た。そしてその3人の可愛い寝姿に、


「やべぇ……。なんちゅー絵面だよ。眠れる花園かよ。見事にみんな寝てるし、少しなら。今だけ今だけ」


 いやらしく鼻の下を伸ばした出島は、そーっと静かに、八乙女さんの足元にしゃがんで、八乙女さんの太ももに頭を乗せた。


「おぅ……、引き締まった八乙女スワンの膝まく……」


 ゴスンッ!


「らばっ!?」


 出島の額に八乙女さんの拳が振り落とされた。しかし、見れば八乙女さんはまだ眠っていた。


「寝たままだと!?さすが。油断ならんなぁ……」


 出島は頭を擦りながら今度は向かいの席で眠っていた吉澤さんに視線を向けた。

 吉澤唯。高校生ながらもかの有名な『壇蜜』を彷彿とさせるような豊満な体格。USJでフェルンのコスプレが似合っていただけのことはある。


「よし。吉澤さんでもいいや。よいしょっと」


 出島はそーっと、吉澤さんの太ももに頭を乗せてみた。


「うむ……。有りか」


 そう、一人で納得した出島は、ゆっくり仰向けになった。


「ワォ……。空が……半分しか見えん」


 数秒の間……。フワッと吉澤さんが目を開き、出島と"半分目が合った"。合ってしまった。

 吉澤さん視点で説明すると、自分の胸元の向こう側に、何故か出島の顔が半分覗いているという感じだ。

 しばしの沈黙……。

 吉澤さんの表情がみるみる赤く、そして驚愕に染まっていく。


「いやあああああああ!!」


 スパーンッ!


 吉澤さんの悲鳴と強烈なビンタの音が新幹線内に響き渡ったのだった。




 バスが学校の最寄り駅に到着すると、そこで現地解散となった。芽吹と秋人は、芽吹の親が迎えに来るということで、みんなとはここで別れることに。

 改札前で別れるみんなの中で、出島だけが笑いの的になっていた。吉澤さんのビンタと八乙女さんからの鉄拳制裁の跡が痛々しかったからだ。しかしそれを出島本人は、


「フンッ。男の冒険には名誉の負傷は付きもんだぜ!」


 真っ赤に腫れ上がった顔に鼻血止めのティッシュを突っ込んだままの出島がドヤ顔で言った。


「出島くん大丈夫?まだ鼻血止まんない?」


「芽吹ちゃん、この変態野郎にあまり優しくしないでくれ。芽吹ちゃんにまた不埒な手が伸びるぞ」


「見損なってもらっちゃ〜困るなぁ〜。秋奈ちゃん」

 

「今すぐここで本気でぶっ飛ばしていいか?」


「俺は芽吹ちゃんファンクラブの親衛隊隊長なんだぜ。その俺が芽吹ちゃんに手を出すなんてことは絶対ありえない!」


「しょっちゅう出してんだろうが!」


 やっぱりぶっ飛ばされる出島だった。




「あはははは!みんなじゃあねー。気を付けて帰ってね!また明日ー!」


 改札前で芽吹が手を振って言うと、


「いや、ハル、俺ら明日から三連休だぞ


「あれ、そうだっけ?」


「芽吹ちゃん、土、日、月は休みだよー!」


「えへへへへ。間違えたぁー!じゃあまた火曜日学校でねー!」


 芽吹と秋人はみんなと別れ、それから程なくして芽吹の母親、菜花の迎えで無事修学旅行は終わったのだった。

 

 




 無事修学旅行も終わり、今日は三連休の中、日曜日。

 昨日は修学旅行の疲れのせいか、昼近くまで二度寝。少し起きて少し動画を見て、また寝て、おやつを少し食べてはまた寝て。また起きて、少しだけゲームをしたけど、眠いからまた寝てを繰り返した一日だった。夜は先にお風呂に入ってからご飯を食べて、食後の眠気に身を任せるようにまた寝て。今起きて10時過ぎ。


「さすがに寝すぎたかも……」


 気分的なダルさと微かな頭痛。お酒はまだ呑んだこと無いけど、


「二日酔いってこんな感じなのかな?……とりあえず顔洗って歯磨きして、中途半端だけど朝ごはん食べよ」


 洗顔と歯磨きを済ませ、最近少し長めになった髪を結って、何を食べるか考える。


「まずはご飯だよね。米は重要。あとは……」


 インスタントだけど味噌汁があった。フリーズドライのナスが入ったやつ。


「味噌汁も大事大事。目覚めの味噌汁」


 と来れば次は……。


「お母さ〜ん、卵使ってもいい?」


 居間にいる母さんに一声聞いてから。


「何個ぉ〜?」


「目玉焼きにしたいから2個ぉ〜!」


「いいよぉ〜。火傷に気を付けてね〜!」


「ふあ〜い!」





 ご飯、ナスの味噌汁、目玉焼きと、冷蔵庫にあったゴボウの漬物。ワンプレートを居間のテーブルに持っていき、ひとまず水を一口。全ての食材と生産者さんに感謝を込めて……。


「いただきます」


「はい。召し上がれ」


 まずは温かい味噌汁で内臓に元気を。


「ぶはぁ〜。ナス美味しい」


 そして、半熟に焼き上がった目玉焼きをご飯の上にパイルダーオン!味の素とウスターソースを少し。半熟の黄身を割って、チョイTKGを味わう。


「うん。美味!」


「美味しそうねぇ!芽吹ちゃん昨日はとことん体を休ませてたもんね。今日は食で体力回復ってとこかしら?」


 雑誌のクロスワードパズルと睨めっこしながらしゃべりかけてくる母さん。


「縦の⑤番は『くじらとり』。だとすると、横の13番は……ん〜……『く』……く?」


 母さんがつまづいてる。さりげなく問題を覗いてみると、『く』で終わるワードらしい。


「ヒントは?」


「『アメリカの首都ではない』だって」


「ん……?ニューヨークとか?」


 パッと浮かんだワードを適当に言ってみた。すると、


「あっ、当たりっぽい。芽吹ちゃんすごい。やるじゃん!」


「適当に言っただけなんだけど。良かったね。ご馳走様でした」


 


 部屋に戻ってとりあえずベットに横になった。すると、満腹感がまた眠気を連れて来ようとする。このままだとまた夕方までグダグダしてしまう。三連休もあと明日一日したかない。このままでは勿体無い。そう思った僕は思い切って部屋のカーテンと窓を全開にしてみた。わずかに冷たいけど、でも程よく心地よい風が体と部屋全体を撫でた。スマホの天気予報を確かめると、天気は明日まで晴れ。日中の気温も13〜15℃。グデ寝するにはあまりに勿体無い。ゲームもそんなにしたい気分でもない。


「チョロっとどっか出掛けて来ようかなぁ〜」


 かなり久しぶりだけど、僕はとあるお気に入りの場所に出かけることにした。

 海岸バイパス道路の橋脚の下。そこは砂浜になっていて、橋脚の土台部分のブロックが、丁度よく寄り掛かって座れる場所になっている。砂浜に打ち寄せる波の音をBGMに、そこで読みたい本を読むのが楽しい。


 本を読みながら静かな時間を楽しむ。

 たまに、小さい子供とおばあちゃんが散歩していたり、海を眺めながらただただ歩く人とか、カップルとか、犬の散歩をしている若い夫婦とか。街の中と違ってここはゆっくりしている。12月にしてはぽかぽかと温かい午後の日差しの下で、何にも気を使わずに読書。そんな感じが僕は好きだったりする。

 ふと気付くと、僕が座っている橋脚の土台ブロックの段差のところまで犬が来ていた。黒柴ちゃんだ。


「うぉっ、ビックリしたぁ!」


「ハァハァハァハァ……ワン!ワン!」


 目を合わせると、尻尾をブンブン振って人懐っこそうに鳴いた。


「あはは!カワイイ!」


「こーら、サブー!初対面の人にいきなり近づいちゃダメ。ビックリさせちゃってすいませ〜ん」


 若い女性が心配して走って来た。


「あっ、全然大丈夫ですぅ。この子サブって名前なんですね。はじめましてサブさん」


 僕はブロックから降りて黒柴の前に座った。手をかざすとペロペロと舐めて来て、顔まで舐められた。人懐っこい子のようだ。


「んんん〜。嬉しいけど、ちょっと……舐めすぎ……。息できない」


 困り顔のご主人様の横で、ひたすら僕に興味津々な黒柴のサブちゃんとしばらく戯れさせてもらった。まだ名残惜しそうに吠えるサブちゃんを引っ張りながら僕に手を振ってくれるご主人様。僕も二人に手を振り返した。


「ふぅ……。可愛かったけど、顔ベトベト……可愛かったけど」


 スマホで時間を確認すると、時刻は3時を過ぎていた。太陽も徐々に夕陽色に染まり始めていた。天気が良いとはいえ12月の午後は気温が下がるのが早い。うっかりしていると体が冷えてしまう。


「そろそろ帰ろっかな」


 読んでいた本は切りのいいところまで読み進めて、しおりを挟んで鞄に仕舞う。

 もと来た道の防波堤の階段を上がりきると、そこに立っていたまさかの人物に驚いた。


「え、秋人!?」


「あれ、ハル!?なんで居んの?」


「いや、それこっちのセリフ!」


 秋人は、親に頼まれた買い物の帰りで、景色が良かったから何となく見ていたらしい。すぐそばに自転車もあった。


「偶然ってすげぇな」


「偶然過ぎにも程があるよ」


「運命感じちゃうな?」


「アホか。そろそろ寒くなるから僕はもう帰ります」


 秋人があまりにも当たり前にそういうことを言うから、ちょっとだけ冷めた。


 本当は二人乗りはダメなんだけど、家までのほんのちょっと。帰りは秋人の自転車の後に乗って帰った。


「そう言えばさ、もう時期またクリスマスが来るね」


「だな。二人だけでイチャイチャするか?」


「そ、そういうのは……しない!まだ……」


「……」


 秋人からのリアクションが無い。自分で言って顔がアツくなってきた。秋人の耳も心なしか赤い気がする。


「で、デートは……しよう……。す、するぞ?」


「お……の、望むところだ!お手並み……拝見?」


「武士かよ!はははははは!」


「あははははは!」



 ごく当たり前な男女の関係とは少し違う二人だが、去年のクリスマスからもうすぐ1年……。芽吹と秋人の関係は確かに、少しずつ、もっと深い関係へと繋ぎ合わされていく。


 夕陽に変わった太陽に優しく照らされた二人の後ろ姿を見て、兄の筑紫(つくし)の胸中は、応援したいような、邪魔したいような複雑の極みだった。




 続く……

ブラコンでシスコン。実兄筑紫(つくし)。久々に登場!


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