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まったく……。男というやつは。




 体調を崩して宿泊先の旅館で療養している夕夏とその付き添いで留守番をしている八乙女さんのスマホに、芽吹からのLINEが届く。


「あはははは!何これ。芽吹ちゃんお爺ちゃんじゃん。これはこれでカワイイんですけど!」


「『水戸黄門』だな。まさか芽吹ちゃんがこっちをやるなんて。カワイイ……」


「府川くんとか藤田くんとか、他のキャラは何?てか吉澤さんはなんでタオル一枚なわけ?エロいんだけど」


 芽吹が水戸黄門だというのは分かったが、夕夏は水戸黄門の主要キャラをよく知らないらしい。


「男子2人はスケさんカクさんで決まりだろう。出島は……ウッカリ八兵衛か」


「あははは。誰それ?」


 吉澤さんはいつもお風呂シーンでお馴染み、お色気担当くノ一のかげろうお銀。城内さんはこれも忍びの風車かざぐるま弥七。


「水戸黄門ね。今度動画探してみよっと。ところで秋奈っち、昼ごはんどうする?」


「芽吹ちゃんかわいい……」


「秋奈っち?……お〜い!あらら、芽吹おじいちゃんにハマっちゃってるヨィ。」





 時刻は午後1時を回ったところ。夕夏の体調もだいぶ良くなり、昼ご飯はどうするかという話に。


「旅館の人に一応断って外出ない?なんか温かい蕎麦とか食べたくない?」


「そうだな。体調のことも考慮して温かいものがいいだろうな」


 夕夏の提案に八乙女さんも納得して、旅館周辺の蕎麦屋さんをスマホで探し始めた。


「そろそろ芽吹ちゃんに体調の具合報告しておいた方がいいんじゃないか?」


「そだね!とりあえず蕎麦行こ。蕎麦。月見蕎麦とか食べたい!」


「うん。食欲があるのは良いことだ」





 芽吹サイド。

 

 芽吹たちもお昼を過ぎてから、太秦映画村を出て周辺のグルメスポットを探索中だった。


「さっきのLINEには返信無かったけど、夕夏、具合大丈夫かなぁ?」


「旅行中の生理はいやだなぁ〜。しかも一番重い日と重なるのは最悪。私も一応薬は持っては来てるけど」


 吉澤さんが自分のお腹を擦りながら心底嫌そうな顔をしていた。


「八乙女さんがいるから大丈夫だとは思うけど、お昼ご飯どうしてるかな?」


「そっちも心配だろうけど、俺らも早くどっか店入ろうぜぇ〜。もう腹減ったよぉ〜!」


 こっちの男子はまた別の意味でお腹を擦っていた。


「出島太矢もう限界であります。芽吹ちゃん、太ももか、ふくらはぎを一口……」


 そう言いながら芽吹へフラフラ屈み込む出島に、


「八乙女さんの代わりにここは私が」


 そう言って、地面にうつ伏せの状態にになった出島の上に座ったのは城内さんだった。


「首、折れたらごめんね」


 後ろから顎を持ち上げて、強制上体起こし。


「ぐぅええええ。ギブギブギブギブギブ……。ちょっ……まっ……し……ぬ……!?」


「じょ、城内さんストップストップ。出島くんホントに死んじゃうってば!?」


「大丈夫でしょ」


 吉澤さんかバッサリと言った。


「あ、あそこの店いいんじゃない?芽吹ちゃんあそこ行こう!」


「えー、ねーちょっと、出島くんは!?」


 出島を道端に放置してみんなは何事もなくお店へと入っていった。

 芽吹は、注文した料理を持っている間に見たLINEで、夕夏と八乙女さんが元気であることを知る。夕夏は月見そば。八乙女さんが山菜そばの写真だった。






 

 門限の16時までにみんな無事旅館に帰還した。



「夕夏、八乙女さんただいま〜!」


 僕が部屋に入った途端、夕夏が飛び付いて来た。


「芽吹ちゃんおかえりー!」


「ぅわっちょっ、夕夏いきなり危ないよ。体調はもう良いの!?」


「ねぇねぇねぇねぇねぇ芽吹ちゃん芽吹ちゃん芽吹ちゃん!」


「なななな何何何何何!?」


「着物着た?町娘とかやった?脱がされた?お姫様とか、悪代官で帯をあ~れ~ってやった?」


 夕夏が僕の手を握って、ピョンピョンパタパタしながらなにやらいっぱい聞いて来た。人生で初めて『矢継ぎ早』という言葉を今ここで使いたくなった。

 夕夏が言いたいのは若い着物の女性が悪代官に帯を剥ぎ取られる時に勢いでクルクル回るやつのアレのこと。


「やってないよ。写真で送った水戸黄門のお爺さんしかしてないよ。吉澤さんの方がなんかとんでもないことになってたけど」


「よし。じゃあやろう。今ここで!」


 なんか夕夏の圧が強い……。


 と、そこへ、


「芽吹いるか?晩めしの時間まで暇だからなんかして遊……ぼへっ!?」


「遊びに来ましたー。芽吹ちゃん暇ですぅー!」


「にょわっ!?」


 秋人を跳び箱代わりしてミヅキちゃんが部屋に飛び込んで来た。

 

「夕夏もいるか?」


「京弥!」


「もう具合はいいのかよ?」


「うん。もう大丈夫」


 夕夏を心配して有馬京弥も来た。


「八乙女さんが具合悪いって聞いたけど大丈夫なのか?」


「出島くんも来た!?」


「八乙女さんが生理でツラいって聞いたから、俺気ぃ利かせ買ってきたぜ。ピル!」


 その場にいたみんなの表情が一瞬で引きつった。


「私じゃないし、いらんし、余計なお世話だ馬鹿者。さっさと返品してこい!」


「え……、ちげぇーの?」


「出島、高校生男子が安易にそういうのを買って来ない方がいいぞ」


 秋人が優しく肩を叩く。


「ダメなの……?」


「やめとけ」


「マジで……?」


 全員が静かに頷いた。


「まあ〜……、でもいつかそのうち?使う日も来るだろうし?俺これ持っとくわ。一応」


 出島のこの軽い口調の一言は、その場の女子の何かに触れたらしく、然るべき制裁の後、部屋から叩き出されたのだった。




 

 時刻は夜8時過ぎ頃。

 大浴場から出てきた夕夏と八乙女さんは、ロビーで涼んでいた。売店のお土産屋はもう閉まっていて、辺りにあるのは、コインで遊ぶスロット台やワニワニパニックやガチャポンなど。親子連れで遊べるゲームスペース。ワンコインで飲めるバリスタ珈琲メーカーまであった。もちろんウォーターサーバーもある。

 夕夏と八乙女さんは無料のウォーターサーバーから紙コップで水を飲んで一息。


「ふぅ〜……。良い湯だったねぇ〜」


「ああ。気持ちよかったなぁ〜」


「整うねぇ〜」


「整うなぁ〜。火照った体に冷たい水がよく染み渡る」


「秋奈っちの火照った体が煽情的で目に染みるねぇ〜」


 夕夏は頬を染めながらエロいニヤケ顔で八乙女さんの浴衣の胸元を見下ろす。


「またそうやってバカなマネを。アホかキサマは!」


 そうして二人がくつろいでいる所へ、


「おーいお前らぁ、消灯時間は9時だぞ。早く部屋に戻れぇ〜」


 ジャージ姿の本田先生がダルそうにロビーに現れた。


「あ、本田先生だ。どしたの?」


「どしたの?じゃねぇーよ。これからお前らの部屋を一つ一つ見回りすんだぞ。眠みぃし、ダリィし、眠みぃからここの珈琲飲んで、先生は頑張ろうとしてるんだ」


「『眠みぃ』2回言ってるし。先生、なんかお疲れさまです」


「ホントにな……。つーかお前らも高校生なら、もうちっと大人に気ぃ使え。そんで早く寝ろ」


「いやいやいや。修学旅行で時間通り大人しく寝る人なんていないでしょ!?」


 そう言って笑う夕夏に、八乙女さんも否定はしなかった。それを見て片眉をビクリとさせた本田先生。

 珈琲片手にエレベーターに乗る先生。そしてドアが閉まる直前で、


「消灯時間までに部屋に入ってなかったやつは明日のUSJは無し!」


「えっ、うそマジ!?」


 そしてドアが閉まり、エレベーターは先生を乗せて上の回へ。


「秋奈っちヤバい。早く部屋戻ろ!」


「いくらなんでも本気ではないだろうが、戻るのが賢明だな」




 泊まっている部屋の階にエレベーターが止まり、八乙女さんが先に降りた直後、走って来た小さな男の子が八乙女さんにぶつかってしまった。


「きゃっ!」


「わぶっ!」


 「おっとっと!大丈夫?」


 八乙女さんは思わず小さな悲鳴を上げ、夕夏はちょっとびっくりしてから二人を心配して見る。


「ご、ごめんなさい!」

 

 男の子は慌てて謝りながらぶつかってしまった相手を見上げた。その視界からは浴衣を盛り上げる大きな胸と、それに半分隠れた八乙女さんの顔があった。


「君、大丈夫。痛い所はないか?」


「あ……あ……あの……えっと……」


 男の子の目線に合わせるように少し前屈みになった八乙女さん。男の子から見れば浴衣から溢れるような谷間が。それに圧倒されて思うように言葉が出ない男の子。


「君、大丈夫?」


 夕夏も心配して男の子に歩み寄る。


「あの、えっと……、あの……!」


 何かを必死に伝えようしている男の子の様子に、夕夏と八乙女さんは怪訝に顔を見合わせる。

 八乙女さんは男の子が何を言おうとしているのかちゃんと聞こうと、しっかりしゃがんで男の子に向き合い、優しく問いかける。


「どうした?」


 すると、男の子は思い切った様子でこう言った。


「お、おねーさん!」


「ん?」


「おねーさんを!」


「……?」 


「ぼ、”ぼくを”およめさんにください!」


「……?」


「……?」


「あれ、違う?ぼ、ぼくをおよめさんになりませんか?」


「……ねぇ、君?」


「えっと……えっと……」


 八乙女さんに見詰められてワタワタし始める男の子。

 夕夏も八乙女さんも、男の子の言いたいことはなんとなく分かったが、相手は小学生かそれ以下の小さな男の子。いきなりぶつかって、いきなりプロポーズされるという状況に戸惑わない訳がない。


「ぼくは、おっぱいの大きいおねーさんとおよめさんになりたいです!」


 エレベーターの前でそう叫んだ男の子は、やっと言いたいことを言えたのか満足げな顔をしていた。しかし、その不順な理由に八乙女さんの表情が若干引きつる。まだ小さな男の子とは言え、胸の大きさだけで求婚されるとは。

 そうこうしていると少し慌てた母親が現れて、夕夏と八乙女さんにぺこぺこと忙しなく頭を下げて男の子を回収して行ってしまった。


「びっくり。まさかいきなりプロポーズされるなんて。出会った直後で秋奈っちの母性に気付くとは」


「まったく……。男というやつは」


「いやいや、同性の私から見ても秋奈っちのナイスバディはムラムラすると思うよ」


「キサマはまた……。ムラムラとか言うんじゃない!」


 顔を赤くして怒る八乙女さん。それをキャッキャと笑いながら逃げる夕夏の笑い声が旅館の廊下に響いた。





 続く……

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