おぉぉ、お侍さんだ!
自主研修は太秦。
京都駅も大きくて綺麗ですね〜。いろんなお寺もいいんですけど、高校生の当時はつまらなかったのが正直な感想ですね。
夕夏、八乙女さん、吉澤さん。そして僕。
3人共静かに眠っている。開けっ放しのカーテンから入る外からの僅かな灯りに照らされた部屋の中。
夜の静寂さがより一層眠ることを邪魔する。
芽吹の頭の中でこれまでの記憶が巡る。
夕陽ケ丘高校に入学する前。あの日から、僕は女体化してしまった。それから僕の女子としての生活が始まった。今となってはもうほぼ慣れたようなものだけど。そんな僕の事情を知ってるのは、秋人と夕夏と八乙女さんだけ。同室メンバーの中で、吉澤さんだけが僕の事情を知らない。ビュフェから戻って来てしばらく休んだ後、4人で大浴場に行く流れになり、夕夏と八乙女さんはこっそり僕のことを気にしてくれたけど、僕は吉澤さんに気にされないようにと思い、普通に一緒に大浴場に入りに行くことにした。一時は何故か突然男の子の体に戻ってしまった瞬間もあったけど、今はちゃんと女の子の体に戻って……戻って?ちゃんと女の子だから大丈夫。もう慣れた。
(……と思ったけど。脱衣所からもうすでに目のやり場が……////。僕は女子!僕は女子!僕は女子!)
芽吹の視界は四方八方オッパイ、オッパイ、尻!
ボンッ!
ボイン!
ベンッ!
夕夏は夕夏で女子高生らしい、健康的なタイプ。対して吉澤さんはちょっとぽっちゃりかと思ってたけど、ちょっと違った。グラマーボディだった。更に八乙女さんはグラビアアイドルみたいなボンッ、キュッ、ボンッ!出島くんならきっと鼻血出血多量間違い無しの光景だったろう。
今の僕の心は男子でもあり女子でもあり。でもやっぱり元男子だったため、羞恥心やら、後ろめたさやら、気まずさの極みみたいな状態になるのはどうしようもなかった。でも、そんな僕に夕夏と八乙女さんは、普通に僕を女子として接してくれていた。
(夕夏のスキンシップはちょっとアブナイ感じするけど……)
道頓堀から今日の鹿公園のこと。大浴場でのこと。ビュッフェのこと。明日の自主研のこと。芽吹は布団の中で今日までを振り返って嬉しさと恥ずかしさで寝付くまで時間がかかってしまったのだった。
修学旅行3日目。
今日は各班で決めた研修スポットを自分達だけの資金と足で周る自主研修の日。
「芽吹ちゃん起きろー。朝だぞー」
吉澤さんの声に、ふわりと目が開いて、朝だと気付く。何秒間かぽわ〜とした後。
「ふぁ〜……ふぅ〜……。おはよう」
大きな欠伸と背伸びをしながら吉澤さんに挨拶をする。
「おはよう。顔洗って朝ご飯食べに行こう。8時半集合だから今ならゆっくりご飯食べれると思うよ」
「ふぇ、今何時だっけ?」
「7時だよ。大丈夫、起きれそう?」
まだ眠そうな僕を心配してか、一応気遣ってくれる吉澤さん。さすが班長だ。
「夕夏と八乙女さんは?」
「八乙女さんは今シャワー浴びてる。もうちょっとで上がると思うけど。鳴海さんはまだだね」
「朝シャンかぁ〜。なんかカッコいい……」
「え、なんで?」
「え、なんで……?」
「……ぷふっ!」
吉澤さんと僕は一瞬キョトンとしてから思わず二人で吹いてしまった。
すると、
「二人して何笑ってるのぉ〜?」
夕夏が目を覚ました。それと同時にバスルームから音がした。八乙女さんがシャワーから上がったようだ。
「夕夏おはよう!」
「う〜ん……おはよ〜……」
何か夕夏の様子が変なような?と、その時僕はそう思った。
八乙女さんが洗面所でドライヤーをかける音。僕の体は自然と八乙女さんがいる洗面所へ。
「八乙女さん?」
「ん?あぁ、芽吹ちゃんおはよう」
「うん。おはよう。ねぇ……」
僕はなんとなく感じた夕夏の感じを八乙女さんに言ってみた。
「夕夏今起きたんだけどさ、なんか変な気がするんだけど、気のせいかな?」
「変……、具合でも悪いのか?」
「かなぁ〜……」
夕夏の所に戻ると、吉澤さんが困った顔をしていた。
「どうした夕夏、具合でも悪いのか?」
八乙女さんが様子を聞くと、夕夏は……。
「生理か……」
「念の為と持って来ていた薬は今飲ませたが……」
中学卒業直後まで男子としと生まれ育ってきた僕は、女体化してから数日後、人生初の生理を味わった。
トイレで流血。
あの時はもう「死んじゃう!?」と思ってしまった。風邪で熱が出た時みたいなダルさと腹痛。母さんのおかげでいろいろ対処法も教えてもらったし、もうだいぶ慣れたと思うけど。僕の人生はもうほぼ女の子。
「夕夏のはたまに人一倍重い時がよくあるんだ。今回のがそうでないといいんだが」
八乙女さんは夕夏の家ではメイド。というより夕夏の御付きの世話役。
「アタシのことはいいから、朝ご飯食べて来なよ。時間無くなるよ」
僕達はとりあえず夕夏を部屋に置いて朝食を済ませて来ることに。
食堂で夕夏のことを美城先生に報告し、食事を終えると先生と一緒に部屋へと戻った。
「鳴海さん、今の具合はどう?」
「う〜……ん。ど〜にもしんどいっすかね。自主研どうしよっかなぁ〜……」
「出発まであと30分か……。無理に行かせる訳にもいかないけど。ギリギリまで様子を見ようか」
出発の準備は整った。夕夏の準備も八乙女さんが済ませてくれたようだ。
しかし……、夕夏の具合はさっきとあまり変わらず。結局、夕夏は部屋で療養することになった。
美城先生がスマホで他の先生と連絡をとっていた。自主研の監督は他の先生に任せ、美城先生は夕夏の看病に当たることに。女子の生理事情ゆえに大人の女性が適任であること。先生が修学旅行中の保護者であること。生徒を旅館に一人で置いてはいけない。
「美城先生、夕夏のことは私に任せて下さい。先生も自主研の監督に回って下さい。外で万が一のトラブルがあってもここに居ては対応が遅れます」
「いや、しかし……。折角の修学旅行を生徒に留守番させるわけには……」
「…………」
どうしたものかと、みんなが押し黙り、その沈黙に耐えられ無くなった僕は言った。
「ぼ、僕も夕夏のそばにいます」
「芽吹ちゃん……」
「ほ、ほら、意外と早く体調戻ってさ、その時一緒にいれる友達は多い方が良いだろうし」
と、僕は言った。すると、
「「ダメ!」」
「へ!?」
4人から一斉にまさかの強めのダメ出し。夕夏まで?
結局―――
夕夏と八乙女さんの班の人達には事情は伝え、夕夏の看病は八乙女さん一人に任せることに決定した。
僕と吉澤さんは気を取り直して部屋を出発することに。
芽吹の班メンバーは、女子が班長に吉澤唯、城内要、そして芽吹。男子が出島太矢、府川涼太、藤田真広。
そして研修スポットは、『京都東映太秦映画村』。いろんな時代劇で使われる江戸の町を再現したセットスタジオ。
電車とタクシーを乗り継いで、迷うこと無く到着。有名なスポットだけに、タクシーのドライバーさんに伝えたら一発だった。
「着いたー。太秦映画村!」
「京都の街並みも結構江戸っぽい場所あったけど」
「ここはガチのロケ場所だもんな!」
「京都なのに江戸ってのも面白いな」
「ここ来たら日光江戸村も行ってみてぇー!」
「つーかさっきのタクシーの運転手のおっさん、話エグかったな」
「下世話すぎ……」
「いきなり、『高校生?彼女は出来た?もう筆下ろしはした?まだやったらええ風俗案内しよか?関西のおねーちゃんと喋ったこと無いやろ?』だってよ。高校生に風俗紹介しようするなっての!」
「しかも修学旅行中だっての!」
タクシー2台男女別れて乗ったんのだが、男子が乗った方のドライバーさんはなかなかだったようだ。
男子のそんな愚痴を聞いてドン引きする吉澤さんと城内さん。芽吹も苦笑いが精一杯。
「そっちのタクシーはどうだったよ?」
それに城内さんが一言で返した。
「……無言」
ドライバーのおじさんは最初の一言目で、
「いやぁ〜、こんな可愛い女子高生乗せれるなんて、今日は当たりやなぁ〜。しかも3人も。可愛いし、育ちのええ身体つき……」
おじさんの口はそこで閉じた。城内さんと吉澤さんのオーラが禍々しい赤黒さを帯びたからだ。おじさんの言葉の気色の悪さに芽吹も寒気を感じたが、両サイドからのオーラの方が余程恐ろしかった。そん芽吹の内心では、
(僕の場合普通の女子じゃないし、それに2人みたいに胸も無いし。そんな可愛くも無いし)
その頃、旅館の部屋ではーーーー
「えええええ、芽吹ちゃんの班て太秦だったの!?」
「なんだ、知らなかったのか?」
「知ってたら絶対同じ場所選んでたのに〜」
「それは残念だったな。まあどの道お前は療養だ。諦めて寝ていろ」
「時代劇なりきりやりたかったぁ〜。町娘姿の芽吹ちゃんの帯をあ〜れ〜的なくだりやりたかったなぁ〜」
「お前はまたくだらんことで。いいから大人しく寝ていろ」
「秋奈っちは豊満なくノ一かなぁ〜」
八乙女さんはちょっと不快そうな視線を夕夏に向ける。
「エロい罠に嵌まって悪代官にマウントとられて、豊満な胸やら太ももやらが……きゃあ〜……!」
「今すぐ強制的に眠らせて欲しいようだな」
「げっ……!?」
映画やドラマなどでなんとかく見たことがあるような江戸の街並みのスタジオ内を、スマホで写真を撮りながら歩き回る芽吹たち。
「あっ、ここってもしかして『奉行所』?」
「おぉぉ、お侍さんだ!」
「ねぇねぇねぇ、忍者忍者。あそこに忍者がいるよ!」
班の誰よりもはしゃぎ回る芽吹の様子に、班のメンバーたちや、他のお客さん、変装をしているスタッフたちまでもがその天真爛漫な可愛さにニヤけずにはいられなかった。
続く……
次回は八乙女さんに何かが起きる予感?




