う~ん……、手羽先!
期末テスト最終日。最後の科目を終え、無事期末テストを乗り越えた芽吹たち。
「やっと終わったああああ!」
「終わったぁ〜……別の意味で」
「マジか。何の教科落とした?」
「……英語」
「あ〜、分かるわ〜」
「なに?出島君もしかして英語赤点?」
「いやぁ〜どうだろ?ギリセーフだと思うけど、ヤバいかも」
「僕は数学と家庭科がヤバいかも。栄養素の種類とか、包丁の切り方の名称とか全然勉強してなかったし。数学も、あれ無理だよ!答え求める記述式長すぎて意味分からないよ」
「それなぁ〜。俺もそれ分かるぜ芽吹ちゃん。なんでいちいちあんな長ったらしい式まで書き連ねて答えなきゃいけないんだよ。答えだけ分かりゃいいじゃん?ネ?」
「ね」
「あるあるだよねぇ〜」
共感し合う芽吹と出島と夕夏だった。
放課後、芽吹たちは期末テストのお疲れさん会を彩雲堂で開き、みんなでスイーツで食べて疲れを癒やした。
その帰り道のこと。駅まで向かう途中の一本の街路樹に、小さな人集りが出来ていた。
「なんだろ?」
「なんかあったのかな?」
芽吹たちも気になって様子を見てみることに。すると、
「あ……!」
「捨て猫だ」
街路樹の根元。生け垣で僅かに隠されるように、段ボール箱とタオルに包まれた猫が一匹。張り紙には【どうか良い人に拾われますように。】と書かれていた。子猫とまではいかないがそれでもまだ幼い感じだった。
「こんな所に……。酷くない?」
「まあ、なんか事情あったのかもな。張り紙を見る限り喜んで捨てたって感じじゃなさそうだし」
「そうだけど……」
「助けてあげたい。けど……」
「俺たち電車乗って帰るのに、猫連れて行けねえよ」
「軽々しく拾っても、そこから育てるには、私たちじゃまず親の承諾がいる。あと秋人の言う通り、このまま電車に乗るのはちょっとマズいと思う」
夕夏、出島、芽吹、秋人、八乙女さんは、目の前の捨て猫を助けられないことに肩を落とした。
「この猫、俺連れてっていいかな?」
急にそう言ったのは有馬京弥だった。
「え?」
街路樹を囲むようにその場にいた人全員が驚きの声をあげた。
「俺ん家ならたぶん、まだもう一匹なら飼っても大丈夫だと思う」
「え?」
「まだもう一匹なら大丈夫ってどういうこと?」
夕夏が聞いた。
「てかこのままだと電車に乗れねえぞ?」
「大丈夫だ。出島、お前の鞄と俺の鞄交代しろ。お前の鞄にこの猫入れてけば大丈夫だ。出島、お前今日俺ん家まで付き合え」
「え!?」
「ちょっと待って!え?京弥君ん家って猫飼ってる?」
「ああ。先住猫3匹いるけど」
「えええええええ!?」
「初耳なんですけどぉ!?」
「ああ……。言ってなかったっけ?」
「今から京弥君ん家に遊びに行きたい人ー?」
「ハァーイ!」
「は!?ちょっと待て!なんで急にそんな話になる!?」
「ぼ、僕も行ってみたいなぁ〜。他の猫も見てみたいなぁ〜。この子のことも気になるし。有馬君が良ければなんだけど?」
「くぁっ……!?」
「出た!芽吹ちゃんの天然おねだり美少女。アタシの京弥が心持ってかれてる」
京弥の発言からまさかの展開で全会一致。芽吹たちは捨て猫を連れて、有馬京弥の家に遊びに行くことになった。
出島のカラッポの鞄に猫を入れて電車に乗った芽吹たち。京弥がそれを膝に抱え、出島が代わりに京弥の鞄を持っていた。
「そもそも出島君なんで鞄カラッポなわけ?教科書とかは?」
「普段から机に置いてってる。テスト前だけは持ってってるけど」
「マジで?高校生でそんなんいるんだ!?」
「夕夏、俺を舐めんなよ。常日頃から常識に囚われないのがこの出島様だ!覚えとけ」
「貴様はただの阿呆だ。覚える価値もない」
「……八乙女さん、相変わらず出島君のことバッサリだね」
有馬京弥の家に到着。
「着いたよ。俺ん家ここ」
塀に広い庭付き、瓦屋根の立派な一軒家だった。
「へぇ〜。立派な家!」
夕夏の今の、もしかしてダジャレかな?と思いつつ敢えて反応しないでおこう。
「豪邸に住んでる夕夏に褒められてもなぁ……」
「アタシん家って言ったってあれはお祖父ちゃんお祖母ちゃが凄かったおかげで。アタシは何もしてないからね」
「俺ん家も一緒だよ。祖父さんの代までは農業で成功してたらしい。今は農業だけじゃ昔みたいには行かないらしいけど」
「ただいま〜」
「おかえり〜!」
玄関から京弥が挨拶をすると、女性の声が応えた。
「母さーん、また猫拾って来たー!あと友達も拾って来たー!計六匹!」
「……!?」
「へ、ちょっと何!?情報量多いんだけど!?」
いきなりテキトーなこと言い出す京弥の意外なキャラに驚いた芽吹たち。
「なになになに!?どういうこと!?」
パタパタと慌ただしくスリッパで玄関まで出て来た京弥のお母さん。
「……!?」
「おかっ……お母さん!?」
「若っ!?」
「つーかギャルママ!?」
「お姉さんの間違いではないのか!?」
黒髪で割と落ち着いている有馬京弥のイメージとは真逆で、高校生の息子がいるとは思えない見た目の若さに、みんな漏れなく驚いた。
「そこの黒髪ロングの娘、合格!お姉さんでいいよ」
「母さん……、俺いる前でそのノリは寒いからやめてくれ」
「うわっ!ヒドっ!京弥可愛くない!」
居間に通されると、そこには猫が3匹。窓際の日向でくつろいでいた。京弥と芽吹たちが居間に入ると、知らない人間に反応して少し警戒の雰囲気を見せる。
「うわぁ〜、本当に猫飼ってたぁー!しかも3匹。カワイイ〜!ねぇねぇねぇ、この子ら名前なんていうの?」
「グイグイ来るなぁ……」
「僕も知りたい!です!」
「えっと……、右から、白黒2色のがブチ猫の『ねぎま』」
「ねぎま……?」
「真ん中の……あっ、逃げた。あいつが茶トラの『つくね』」
「つくね……」
「3匹目が三毛猫の『ハラミ』」
「ハ、ハラミ……」
あまりの名前のセンスに芽吹たちは困惑の表情を隠せなかった。
「なあなあ、京弥?」
「ん?」
「なんでみんな焼き鳥?」
堪らず聞いたのは出島だった。すると京弥は、
「なんでって聞かれても……、覚えやすかったから?あと美味しそうな名前だから」
「そ、それだけ?」
芽吹も呆気に取られた。
「まあ、強いて言えば、ねぎまは白黒2色だからねぎま。茶トラのつくねは、いい感じの焼き加減のつくねっぽかったから」
「で、三毛猫は何故にハラミ?」
「メスなんだけど、『ハラミちゃん』て響きがなんか良かったからって、母さんが付けた名前だ」
「な、なるほど……」
一応納得した芽吹たちだった。
「じゃあ、今日連れて来たこの子の名前はどうする?」
夕夏が出島の鞄から、拾ってきた猫を出して抱き上げた。
「白猫だよ?」
京弥はじぃ〜っとその猫を見詰めながら考えた。猫もまた、京弥をじぃ〜っと見つめ返していた。
「しろ……焼き鳥……」
「やっぱ焼き鳥シバリ!?」
「う〜ん……ナンコツ」
もうみんな苦笑いしか出来なかった。
京弥の家で飼う猫なのだから、友達といえど部外者は文句を言えなかった。
「でも実際、美味しそうな名前の方が案外覚えやすいかもね」
「俺今めっちゃ焼き鳥食いたくなってるんだけど」
「実は僕も」
この後帰り、出島も夕夏も八乙女さんも、そして芽吹と秋人も、各々帰りに商店街で焼き鳥を買って帰ったのだった。
「焼き鳥はねぎまと砂肝が一番好み!」
「ナンコツつくねもウマいぞ!」
「僕もいつか猫飼うことあったら焼き鳥の名前にしよっかな」
「例えば?」
「う〜ん……、手羽先!」
「ははは!ウマそ!」
続く……




