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その考え、今すぐ忘れないと……襲うぞ?

 




 昨日作ってみようと約束した蒸しパンの材料を購入して帰って来た芽吹と秋人。ホットケーキミックスと牛乳と、トッピング用にはサツマイモの代わりに甘栗を買って来た。


 秋人の家のキッチンを借りて調理開始。



「秋人の家でこうやって2人で何か料理するのって始めてじゃない?うまく出来るかな?」


「初めての共同作業みたいに言うなよ。結婚式みたいで照れるだろう?」


「そっ……そんなつもりで言ったんじゃないよ。何言ってんだよバカ!」


「すまんすまん。冗談だ。あぁ、ハルあとこれ、エプロン」


「あ、ありがとう」


「それ、母さんが昔使ってたエプロンな」


「へぇ〜……え?」


 よく見ると、可愛らしい花柄とレースのフリルが付いていた。


「ちょっと!なんで僕にこれ!?」


「いや、なんか新妻っぽくてハルに似合うかなぁと思って」


「に、にに、に、新妻ぁ!?」


「嫌だったか?」


「秋人ぉ〜?」


 心なしかニヤついている秋人に、芽吹はジト目で見詰めた。


「さっきからさぁ、僕のことからかってるだろ?」


「ちゃんと照れてくれるハルが可愛くってな」


「なんだよもぉっ!もう照れない!秋人の思い通りにはならないからな!ほら、早く蒸しパン作るよ!」


「悪かった。もうからかわねぇって」


「ジトォ〜……」


「ごめんて……。信じろ」


 秋人も謝り、芽吹も気を取り直して、蒸しパンを作ることに集中。しかし、その後も秋人の興奮はなかなか治まらず。


 ホットケーキミックスと牛乳と卵の生地を交代で混ぜている時。


「ハルのエプロン姿って、見てるとなんかやっぱり……新妻感が」


「新妻言うな!」


 蒸しパンにトッピングする甘栗を、包丁で細かくカットしている時。


「包丁でまな板を叩くエプロン姿のハル。可愛い新づ……」


「いい加減刺すよ……?」


「八乙女さんより怖っ!?」



 生地を紙のカップ容器に詰めて、オーブントースターに入れる。試しで2個だけ焼いてみる。


「うまく行くかな?」


「美味しく出来るといいな」


「うん!」


 焼き方、温度や時間設定をネットで調べた。あとは焼き上がるのをただ待つだけ。芽吹はずっとオーブントースターとにらめっこ。秋人はYouTube動画で蒸しパン以外のアレンジ方などを調べていた。


 チーン!


 オーブントースターから取り出して見る。見た目だけならまずまずの出来のようだ。


「一応切って中の火の通り見てみよ」


「だね」


 1個を半分に切って火の通りを見てみる。


「大丈夫そうじゃね?」


「っぽいけどね。食べてみよ」


「俺も半分」


 食べてみると、


「うん……うん……。生地が甘いあんまんだな」


「え?違うよ。甘いふわっふわのパンケーキだよ!」


「それじゃ普通にパンケーキだろ。例えるなら生地が甘いあんまんだろ」


「違うよ。パンケーキだよ。だって材料がパンケーキだもん!」


「それじゃあ例え方に捻りがないだろ」


「てゆーか僕たち蒸しパン作ってたんだからあんまんは別に捻りでもなんでも無いじゃん!」


「俺は今例え方の話を……」


「……?」


「そうだよな。蒸しパン作ってたんだから、例えも何も蒸しパンは蒸しパンだよな。なんかすまん」


 なんだかよく分からないちょっとした喧嘩になってしまった。


「なんか……僕もごめん。なんでかちょっとムキになっちゃった」


「出来具合、ハルの感想はどう?うまくいった感じか?」


「うん。意外とうまく出来たと思う」


「ならヨシ!あと残り全部焼き上げるか」


「おう!」


 YouTube動画を真似て竹串で焼け具合の感触を見たりしながら、合計10個の蒸しパンが出来上がった。


「出来たー!」


「出来たー!」





 秋人の母親、綾さんと一緒に3人で手作り蒸しパンを試食した。


「へぇ〜。上手に出来てるじゃない!市販だとサツマイモが入ってるものだけど、甘栗もいいんじゃない?小さく刻んであるのが食べやすくていいと思うわ」


 それを聞いて芽吹と秋人はハイタッチをして喜んだ。


「将来結婚したら、奥さんにばっかり料理任せっきりにしないで、こうやって一緒に料理つくれる良い旦那様になるのよ秋人」


 綾さんにそう言われて、秋人は芽吹の方を見た。それに反応して芽吹もまた秋人の方を見る。一瞬だけど長い時間見つめ合ってしまう2人。


「っ……!」


「っ……!」


 恥ずかしさに気付けいてお互い勢い良くそっぽを向いてしまった。そんな2人の様子を見て、秋人の母親、綾さんは、


「甘いわねぇ〜。昔の私もこんな頃があったのよねぇ〜」


 頬杖を付いて一人昔を思い出していた。

 残った蒸しパンは芽吹が持ち帰って春風家で美味しく頂くことに。




「ハル、先に部屋に行ってていいぞ。洗い物は俺やるから。部屋で適当にしててくれ」


「いいの?」


「大した量でもないし、すぐ終わるよ」


「分かった。ありがと。でもやっぱりここにいる」


「そうか?まあ、別にいいけど」


「エプロンしてキッチンに立ってる秋人のこと見てる」


「食器片付けるだけだぞ。何が良いんだ?」


「エプロン姿の秋人」


「……俺はそんなんじゃ照れないぞ」


「チッ」


 舌打ちして悔しがる芽吹にちょっとドヤる秋人だった。


 



 秋人の部屋に戻ってひと息付く2人。


 ドサッとベッドに寝そべる秋人。それにつられて芽吹も秋人の隣に寝そべって満足そうに全身で伸びをした。


「思った以上に上手く出来てよかったな」


「美味しかったぁー!」


 『あの花』を観たことで秋人の思い付きで蒸しパンを作ることになって、思いのほか上手く出来上がった。学校の調理実習以外で、しかも秋人の家のキッチンで。2人で恐る恐る作った初めての蒸しパン。秋人はふざけて新妻みたいだなんて言って来て、あの時は恥ずかしくて怒ったけど、今思えばまんざらでもない気もして来た。

 チラリと秋人を見て、芽吹はふと思う。

 めんまとじんたんのとあるワンシーンが頭に浮かぶ。


「秋人ぉ?」


「ん?」


「前にも聞いたかも知れないことなんだけどね、聞いていい?」


「何だよ、急に改まって?」


「秋人はさぁ、将来、僕がお嫁さんで本当に良いのかなぁって?だって僕ってつい2年前まで普通の男子だったわけだし……。秋人とは男同士だった年数の方が長いわけで……」


「……」


 芽吹の問いかけに、秋人はすぐには答えなかった。しかし、


「ハル、こっち見ろ」


「……?」 


「その考え、今すぐ忘れないと……襲うぞ?」


「へ……!?」


 そう言いながら秋人は芽吹に覆いかぶさってきた。


「無理やり抱き締めてキスするぞって言ってんだよ!」


「え……ちょっ、ちょっ、秋人……!?」


 キ、キス!?顔近いし!?


「いいに決まってんだろ。俺はずっと……お前のこと……、す……」


「……」


 この時芽吹は内心ちょっとだけ期待してしまった。


「……す……」


 ベッドの上で見つめ合う2人。秋人は何か大切な言葉を言おうと必死で、芽吹はその必死そうな秋人を見つめ返すのが精一杯で。見つめ合うの2人の間の空気も、顔も熱くなっていく。


「す……す……」


「……」


 お互いの瞳が揺れる。

 芽吹の、受け入れようとしているような、でも不安そうな切ない視線が秋人を見つめてくる。


「す……す……、スパゲッティ食べるか?」


「……?」


 間が止まった。


「……ほぇ?」


 キョトンする芽吹。


「ば、晩飯スパゲッティにしようと思うんだけど、ハ、ハルは今日晩飯どうする?うちで食ってくか?」


「……え?あっ……う、うん。そ、そうだね……。す……スパゲッティいいね!」


「ちょっと、トイレ行ってから軽く作ってくるわ。ここで待っててくれ」


「あぁ……う、うん。分かった」


 秋人は熱くなった顔を隠すように部屋を出て行った。一人ベッドに横になったままの芽吹は、よく分からない緊張の糸が突然切れたようで、ただただ瞬きを繰り返すことしか出来なかった。


 秋人、あれたぶん『好き』って言おうとしてたよね。 もしかして……あれが秋人の、本気の照れ……?なのかな?

今日はエプロンのくだりからやたら秋人にからかわれて、一度は仕返ししようとしたけど効果は無くて。それ以上は諦めていた。でも今ので秋人が本気で照れた姿を見ることが出来た。普段は僕をからかうように可愛いだの好きだのって軽く言って来るくせに……。


 と、そこまで考えてふと、気付く。


「あそこまで本気で恥ずかしがってる秋人見たことないかも……。待ってこれ、普段軽く言われるよりもめっちゃ恥ずかいんじゃ!?」


 しかも『襲うぞ』とか『抱き締めてキス』とか言われた!?


「よく思い出したら、僕ちょっと受け入れる体勢に入ってなかった!?秋人だけじゃなくて、これ僕もめっちゃ恥ずかしいやつじゃん!なにこれ!?」


 ベッドから飛び上がって恥ずかしさのあまり部屋の中をバタバタと悶絶してのたうち回る芽吹だった。

 


 その頃秋人は……、


 さっきの場面を思い出していた。

 勢いだったとはいえ、覆いかぶさる自分を切なそうに見つめ返してくる芽吹の顔を。しようと思えば本当にキス出来た瞬間だった。さすがに本気で襲う気はなかったけど。そんなこと出来るわけない。


「あの時のハルはそんな別に嫌がってる感じは無かったよな……?でも……はぁ〜あ……。本当はあん時好きだって普通に言えたはずだったのに……情ねぇな……俺」


 キッチンで一人後悔のため息をつきながら、パスタの準備をする秋人だった。




 秋人の部屋で一人。羞恥ののたうち回りから解放され、落ち着きを取り戻した芽吹。何を見るとも無しに部屋を見渡していた。すると机の側に置いてあった、今日買い物に行った大型スーパーのレジ袋が目に入った。


「ん?買って来たの蒸しパンの材料だけじゃなかったっけ?他に何か買ってたっけ?」


 なんとなく気になった芽吹はその袋の中身を見てみた。


「え……、これって……ウィッグ!?何で……!?」


 中に入っていたのは、銀髪のロン毛のウィッグだった。


「何かのパーティーグッズかな?それにしてもこれ、なんか……めんまの髪みたい」


 そう思った芽吹は、すぐに秋人が戻っては来ないことを確認して、こっそりそのウィッグを被ってみることに。

 秋人の部屋には大きな鏡は無かったが、机に小さいのが置いてあった。芽吹はそれでどんな感じか確認してみることに。

 そして、鏡に写った自分を見て、


「めんまみたいには可愛くはならないか。さすがにねぇ……。でも、よく見たらこれ、僕髪伸ばしたら普通に女の子みたい」


 最近少し髪を伸ばし始めてはいたが、男の子の頃からの感覚で、あまり長く伸ばす気にはなれなかった。特別女の子らしくを意識する気も無かったが、ちょっとだけ、秋人のリアクションが見てみたくなった芽吹。だからその後、ウィッグを着けたまま秋人が戻って来るのをしばらく待って見た。

 しばらくして……、


「スパゲッティ作って来たぞー!ドア開けてくんねぇ?ちょっと手塞がってて」


 芽吹はキドキしながらドアを開けた。ウィッグを着けたままの格好で。


「お待たせー。今日は部屋で食おう。何か動画とか見ながらさ。……て!?」


 芽吹の格好を確認した秋人は両手にスパゲッティの皿を持ったまま固まった。


「び、びっくりした……?なんか、そこにあったからさ、試しに着けてみたくなって……。やっぱり気持ち悪いかな……?」


 胸元当たりまである長い銀色の髪の毛先を、恥ずかしそうにモジモジとイジる芽吹。その破壊的な姿と天然な可愛すぎる仕草に、秋人はゆ……っくりと、スパゲッティをテーブルに下ろして、


「お……お……ぁ……な……」


 ポカンと口を開けて、言葉にならない声を絞り出し、そして……、


 バターン!!


 気絶してしまった。


「えっ……ちょっ……秋人ぉぉぉ!?」




 続く……

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