ご都合主義って?
楓店長のはからいで、秋人とのクリスマスデートを許された。というか恥ずかしいし別に無理にデートしたいというわけでもないのに半ば強引にお店を追い出されたような感じになった。
学校が終わって店に着いた時はまだお昼過ぎで明るかったが、今はもう午後4時半を過ぎていた。空はまだわずかに雲のシルエットが見える程度ではあったが、もうほぼ夜だ。街路樹や生け垣、お店の看板などに設置された沢山の電飾で街中がクリスマスネオンで彩られていた。
「な、なあ……ハル?」
「う……うぃ!?」
なんかめっちゃ緊張して変な声で返事しちゃった。
「な、なんでしょう?」
「お前ちょっと緊張しすぎだろ」
「べ、べ、別に?そんな緊張なんてしてないけど?」
「声裏返ってるけど?」
「あぅ……」
「さっきはさ、デートしようなんて言ったけどさ……、それだとなんかかしこまっちまうっつーか、落ち着かないからさ、いつも通り普通に飯食いにとか、遊びに行く気分で行かねえか?」
「ん……うん。それなら」
片手をポケットに突っ込んで、ちょっと照れ隠しで後頭部をポリポリ描きながら秋人が言った。
僕と秋人との今までの関係上、幼馴染で、僕が一応異性という感じにはなったけど。去年のクリスマスの時に彼氏彼女の関係にはなったけど。僕と秋人の関係は、一般的な男女とか、友達以上恋人未満とかとも違う。決して秋人がゲイとかホモで僕を好きなんじゃなくて、逆に僕がゲイとかホモでも無くて、なんて表現すればいいか分からないけど、僕は秋人と過ごす事が楽しい。恥ずかしいから好きとかそういう言葉はまだ言えないけど。
「とりあえずどこ行くか?」
「う〜ん……あ、ドクタードーナツ食べたい!」
「いやいやいや、待て待てハル。店に戻ったら店長の美味しいスイーツ食えるんだぞ?」
「あ、そっか。そうだった。んじゃあ……とりあえずラーメン!」
「ハル、デート的な雰囲気は止めようつったけど、ラーメン?」
「ダメ?」
「いや、まあダメでは無えけど、俺的にはちょっとだけデート感欲しいんだけど……」
「デート感あるお店ってどんなの?」
「例えば綺麗な夜景が見れるレストランとか?」
「僕たち高校生だし、そんなお金ないよ?」
「じゃあ、水族館?」
「今から品川行くの?」
「嫌か?」
「お腹空いたし、水族館ではないかな。あ、焼肉は?」
歩きながら途中で近くの焼肉屋から美味しそうな匂いが。
「焼肉にするか?」
「あ、でもやっぱりラーメンの方が早くて安上がりだよ。やっぱりラーメンにしない?ダメ?」
「俺が悪るかった。俺もラーメンの口になってきたかも」
「よし。じゃあラーメンにしよう!」
立ち寄ったラーメン屋で、僕が柚子胡椒味噌ラーメンで、秋人が辛味噌ねぎチャーシューを食べた。
秋人は卓上からニンニクと豆板醤もトッピングしていた。
店を出たあとで僕は秋人に言った。
「秋人さん秋人さん?さっきデート感欲しいからラーメンはちょっとって言ってたくせに、めっちゃニンニク入れてたね。普通デートの時ってそういうのは控えるものなのでは?」
「そりゃあお前……それはキスとかエッチとかする前提のカップルの話だろ?」
「……!?」
「控えてたら俺とキスしたか?」
「キ、キキ、キキキ……キスゥ!?」
一瞬、秋人とのそういうシーンを想像してしまった。
「ぴゃあああああ!?」
顔を真っ赤に沸騰させて一人で悲鳴をあげる芽吹だった。
羞恥で火照った気分を紛らわすため、次にたちよったのはアニメイトや、秋葉原のラードマークショップ。ラジオ館だ。
アニメグッズやラノベ、フィギュアをいろいろ見て回った。
見れば見るほど欲しくなるフィギュアだけど、今の僕の経済力では例え買えても後が恐いので諦めた。
「フィギュアはさすがにどれもかなりの値段だな」
「それなりのクオリティの物はやっぱりそれなりだもん。1つくらい買えるようにバイト頑張ろう」
最近一番好きなアニメ『葬送のフリーレン』のフィギュアの値段を見て項垂れる芽吹。そんな芽吹を見て秋人は、
「ハル、もう一回アニメイト行かね?」
「ふぇ?」
「フィギュアは今回は諦めるとして、アニメグッズなら何個か買えるんじゃないか?」
「うん。そうする。そうしよう」
芽吹は秋人に励まされてさっきのアニメイトに戻った。
芽吹はお財布の中身と相談しながら気に入ったアニメグッズを厳選してレジへと持って行った。
「これでお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
マグカップ、ポスター、缶バッジ、クリアファイルを店員さんが丁寧に袋詰めしてくれていた。
「お、良いの買えたか?」
「うん。厳選に厳選を重ねたよりすぐりだと思う。ん?秋人も何か良いの見つけたの?」
「まあな」
丁寧に袋詰めされた商品を受け取って会計を済まさた僕は他のお客さんの邪魔にならないように店の外で秋人を待った。
「お待たせ」
「秋人は何買ったの?」
聞くと秋人は、袋から商品を取り出した。手のひらに収まるほどの小さな何か。
「ん?」
秋人はゆっくりと握っていた手を開いて見せた。それは、とあるアニメの魔法の杖のキーホルダーだっだ。
「それ、フリーレンの杖……。秋人もそれ欲しかったの?」
「いや、俺が欲しくて買ったんじゃない。ハルにやろうと思ってさ」
「え、僕に?いいの?」
「一応クリスマスプレゼントというか、記念日的なというか……」
照れくさそうに目を反らしながら、秋人はそのキーホルダーを芽吹に渡した。
手のひらに渡されたフリーレンの杖のキーホルダー。僕はそれを見詰めて、自分のことしか考えてなかったことに気付かされた。僕は秋人の顔を見返した。
「なんか照れくさいから早く次行こう」
秋人は行こうとしたけど僕は我慢出来なくなって、キーホルダーを一旦秋人に預けた。
「え?」
「ちょっと待ってて。僕もう1つ買ってくる!」
「え?は!?」
芽吹がアニメイト店内に戻って行ってから10分程。
「ごめん秋人、お待たせ!」
芽吹が何かを買って戻ってきた。
「はい!これ秋人にクリスマスプレゼントのお返し」
「マジで?」
「うん。マジで。僕だけ秋人からもらうのはダメだと思ったから」
「中見ていいか?」
「どうかな。気に入るかな?」
秋人は袋から中の商品を取り出してみた。芽吹が買ってきたのは、『かてきょーチャッカマン・リボーン』のクリアファイルとアクリルスタンドだった。
「これ……?」
あれ……?なんか違った?
「これ、買うかどうするか迷ったやつだ。やっぱいいよな。カッコいいよな!」
お互いに好きなアニメグッズでクリスマスプレゼントということで、芽吹も秋人もホクホク気分でアニメイトを後にした。
なるべくバイト先から遠くならないように秋葉原の街を歩きながら、次の寄り道を探していると、1軒のゲーセンに何やら人集りが出来ていた。
「なんかのイベント?」
「何だろな?見てってみるか」
入口の人集りの隙間から店内を覗いて見ると、みんなの注目の的はどうやら1台のUFOキャッチャーのようだった。よく見ると、プレイヤーの足元にはぬいぐるみやらフィギュアやらお菓子やらが沢山積まれていて、そのプレイヤーは今もまたUFOキャッチャーの商品をゲットしていた。ギャラリーからまた驚きと称賛の声が上がった。
「なんか凄い人いるみたい。景品がいっぱいあるよ!?ゲーセンのプロゲーマーか何かかな?」
「なんだありゃ?すげぇな……」
「どんな人なんだろう?ここだとよく見えないや。もう少し前に……」
と、ようやくその人物が見えた。
「あれ?あれってもしかして……?」
「あのちっこい感じと……」
「エルフみたいな見た目に……」
「謎のお面といえば……」
「まさかミヅキちゃん!?」
そう言った芽吹の声に気付いてこっちに振り向いた人物。
「あっ!芽吹ちゃんに秋人さんじゃないですか。奇遇ですね。そこで何してるんですか?」
『チョッパー』のお面をしたミヅキちゃんが可愛らしく首を傾げて聞いてきた。
「いや、そりゃこっちのセリフだけどな」
「チョッパーだ!トナカイだからだね。クリスマスだもんね。チョッパーカワイイよね!」
奇遇なことにゲーセンで無双していたミヅキちゃんと合流した。
ミヅキちゃんがUFOキャッチャーで無双して取りまくった景品はミヅキちゃんが、
「持ちきれないのでどうしようか困ってました」
ということで、一部は半泣きになっていた店員さんに返却してあげて、残りは見物客の親子連れや、欲しがっていた女子高生たちに配ったのだった。
「どんだけ取ってんだよ」
「ミヅキちゃん凄いね。いくらぐらい使ったの?」
芽吹がそう聞くと、またお面のまま首を傾げながら考え、
「そうですねぇ……、1つ2、3百円ぐらいで取れてしまってたので……。全部で5千円くらいでしょうか?」
「どんだけだよ……。そりゃ店員も泣くわ」
「ミヅキちゃんて、つわ者だね」
「えっへん!日本一のモノノフです!」
「あっ!じゃあお面変えないと」
「こっちですか?」
そう言ってミヅキちゃんは瞬時にお面を変えた。
「早っ!武者ガンダムだ!かっけぇー!」
「中国伝統芸能か!」
「良かったら芽吹ちゃんもどうぞ。ホイ!」
「ふぇっ!?僕どんなお面着けられたの!?」
「これはたしか仮面ライダーだな」
「そうなりますね!」
「え、なに?」
「仮面ライダー鎧武だ」
「ミヅキちゃん何個お面持ってるの……?」
「ご都合主義ということで、いくらでも?」
「ご都合主義って?」
「ハル、これはこれ以上聞かないほうが良さそうだぞ」
「え、どういうこと?」
「世の中知らなくていい事もあるってことだ」
キョトン?な芽吹を静かに諭す秋人だった。
「どういうことでしょう?」
言ったミヅキちゃん本人もキョトン。
「お前もキョトンなのか!」
続く……




