もう止めて秋人。燃えちゃう!
二学期最終日。12月24日。
「え〜、世の中、校長の挨拶というものは長ったらしくて眠い。というのが定番ですが、私の場合はその心配はありません。手っ取り早く終わらせましょう。―――え〜……皆さん、無病息災で良いお年を!はい、以上です」
「ん……?うわ……これいつの答案だろ?……12点。フッ。我ながらまあまあだね」
「芽吹ちゃーん!一緒に帰ろ。何してんの?」
「ふぇっ!?」
ホームルームが終わって、机の中を整理していたとこへ、夕夏と八乙女さんが教室に入って来た。焦った僕は咄嗟に、12点の答案で鼻をかんでゴミ箱に放り投げた。するとまさかのホール・イン・ワン。
「ワオ!芽吹ちゃんナイッシュー!あ、でもダメだよ芽吹ちゃん。今日はゴミは持ってかないと」
夕夏はそう言って、ゴミ箱からゴミを拾い上げた。
「ん?」
丸められた紙を見て違和感に気付いた夕夏はその紙クズを開いた。
「あっ……ま、待って。それは……!」
少しだけ鼻水をかんだ12点の答案が明らかに。それを見た夕夏は、
「芽吹ちゃん……これ……」
「そ、それは……」
「……食べてもいい?」
「え?」
「やめい!」
即座に八乙女さんにド突かれる夕夏だった。
「今日クリスマスイブじゃん。なんか美味しいもの食べて帰らない?」
「ごめん。今日僕、彩雲堂バイトなんだ」
「あっ、芽吹ちゃんのシフト今日だったっけ」
「うん。秋人とも。あと確か園田さんも」
「あ〜、そっかぁ〜。そうだった。せっかくのクリスマスイブなのに芽吹ちゃんとイチャイチャ出来ないなんて……残念」
「イチャイチャって……。僕、元男の子だよ。イチャイチャは不味いんじゃない?それに今は一応同性」
「何言ってんの。今まで何度も一緒にお風呂とかも入ったじゃん。それに芽吹ちゃんが相手ならむしろバッチコイだよ!それに、元男の子なら一度は想像したこと無い?アタシという女子を合法的に抱けるよ?襲えるよ?ウェルカムだよ!」
「いや、ダメだろ」
ぺしっ!
八乙女さんが冷静にツッコミを入る。
満月の夜とクリスマスは人をえっちにするって、前に愚兄が言ってたなぁ〜。該当する人いたんだ……。
「八乙女さんバイバーイ。夕夏"も"またねー!」
「"も"って何芽吹ちゃん!?"も"ってーー!」
「バイバーイ!」
「はぁ……」
思わずため息が出てしまった。女子ってみんな女子同士でいちゃいちゃするの平気な生き物だとは思ってたけど、夕夏は僕のことどう思ってるんだろう?前に一時的に男の子の体に戻っちゃった時に、本当に元男の子だって事知ったはずなのに、夕夏は何の遠慮も気不味さも無く、いつもああやってふざけて戯れて来る。
僕がもし女体化なんてしてなくて、普通に男の子だったとしても同じように仲良く出来たかな……?
そんなことを考えていると、
「おーい、ハルー?帰ろ。バイトに遅れぞ」
廊下で秋人が待っていた。
「おっ、そうだった。うん。今行く」
今日はクリスマスイブ。秋葉原駅に降りると、駅前広場や通りでは、ミニスカサンタやトナカイの角でコスプレをしたメイドさんたちが、ティッシュ配りの激戦を繰り広げていた。
若い男性もおじさんも、デレデレ顔で喜んであっちこっちのメイドさんからティッシュをもらっていた。
「どうぞー。クリスマス限定メニューやってまーす!」
「ご来店お待ちしてまーっす!」
「アイドルメイドのクリスマスライブもやってまーす!是非見に来てくださーい!」
「今だけ。サンタに鞭でシバかれたいトナカイ募集してまーす!」
「秋人はこういうのにデレデレとかしないの?」
一応男の僕も目の前に可愛いミニスカサンタさんがいたらちょっとは興奮する。足綺麗だし、可愛いし。でも秋人を見てみると、なんか普通だった。
「カワイイとかエロいとか思わないの?」
「俺には、その気になればお前がいるだろ?」
「……?どういうこと?」
「俺はハルのミニスカサンタが見たいって意味」
「ふぇ……?」
一瞬考える。自分がミニスカサンタになった姿を想像する。秋人が後ろから優しく抱きしめて来て……、
「っ……!?ダメだよ!ダメダメダメ!何で僕がそんなっ……!嫌だよ。秋人のスケベ!」
「なんか俺よりも邪な想像してなかったか?」
「し、してない!してないからね!」
「お前なら絶対可愛いと思うぞ?」
「着ないよ!可愛くないよ!ダメだよ!」
「じゃあせめてトナカイは?」
僕はチョッパーの着ぐるみをを想像した。
「それなら可愛い」
クリスマスムード満開の秋葉原を秋人と一緒に歩き、彩雲堂のあるビルに到着。
「なあハル?」
「ん?」
「今日バイト終わったらさ……」
「うん」
秋人はジッと空を見上げながら、何か言いづらそうに髪をいじりながら、
「デ、デートしねぇか?」
恥ずかしそうに、遠慮がちに、聞いてきた。
「デート……」
それに芽吹は不意を突かれたようにパチパチと瞬きを繰り返して言葉の意味を咀嚼した。そして恥ずかしさに段々顔が熱くなっていくのに気付いて、首に巻いていたマフラーで顔半分を隠した。
「……べ、別にいいけど」
手で口元を隠す秋人と、マフラーで真っ赤になった顔を隠す芽吹。クリスマスイブ尊し。
「さ、寒いからもう中入ろ」
「だ、だな。バイト頑張るか」
「うん!」
「いらっしゃませ。ご注文をお伺いします」
クリスマスイブでもお店が開いていればお客さんは来る。むしろクリスマスだからこそお客さんが来る。特にレストランやスイーツ店はクリスマスムード全開のメニューを出しているお店が多い。芽吹がバイトをすることになったここ【甘味のいろり彩雲堂】も漏れなく。コンセプトは和風だが、クリスマスに合わせたメニューを出していた。
「お待たせ致したました。こちらが、苺サンタと雪うさぎ大福。そしてこちらが、かまくらクレープでございます。ごゆっくりどうぞ」
ゆったりとした慣れた所作で蓮さんがテーブル席に持って行ったのは、一皿は、二匹のうさぎをイメージした真っ白な大福。バニラアイスを包んだものと抹茶アイスを包んだもの。苺サンタは半分にカットした苺でホイップをサンドした小さなサンタ。もう一皿は、バナナ、苺、バニラアイスにチョコホイップ。それをクレープで包み、雪のかまくらに見えるように横に倒して粉砂糖を振りかけたもの。
「なにこれ超可愛い!」
「オシャレ〜。でもちゃんと和風感ある!」
「うん!しかもしっかり冬仕立てって感じ。うさぎと苺サンタ可愛い!」
美味しそう……。僕もあれ食べたいなぁ……。明日は確かバイト休みだし、明日はお客として食べに来ようかな?秋人は休みだっけ?夕夏と八乙女さんのシフトも聞かなきゃ。あれは絶対食べてみたい。いや、絶対食べたい!
「あの〜、店長?」
「ん?どうした?」
芽吹は店長に、クリスマス限定スイーツを食べたい旨を伝えてみた。
「明日はシフト休みでしょ?なら遠慮無く食べに来な。柊くんと。割引くらいならしてあげるよ」
景気良くそう言ってくれた。
「ありがとうございます!」
「イイねぇ〜。クリスマスに彼氏とデート。羨ましい」
「え?」
「あれ、違った?柊くんて芽吹ちゃんの彼氏じゃないの?」
「え、あ、いや……えーと……そう……なん……で……すか?」
「は?」
あまりにも唐突に秋人が彼氏だとバレて、ちょっとパニクって逆に聞き返すような感じになってしまった。
そこへ丁度、材料の搬入作業が終わった秋人が帰って来た。
「搬入作業終わりました」
すると店長は、
「柊くん、ちょっとごめんね?君って芽吹ちゃんの彼氏で合ってる?」
「え、あ、はい。勿論ですけど?」
恥ずかしげもなく即答する秋人を見て、顔が赤くなる芽吹。
「俺とハル、幼馴染なんすよ。ハル、めっちゃ可愛いんですよ」
「ちょ、ちょっと秋人!?」
芽吹沸騰レベル2
「幼馴染!?ラノベみたい」
「ですよね!小さい頃から可愛くて、昔から好きだったんすけどね」
「はぅっ……!」
芽吹沸騰レベル3
「去年のクリスマスに告って、俺の彼女になりました。」
「もう止めて秋人!燃えちゃう!」
芽吹沸騰レベル4
「え、てことは今日が記念日?明日?」
「今日っすけど。バイト終わってからでってことで約束してます」
すると店長は、
「記念日はズラシちゃダメ!イブはイブ!明日は明日!よし。お店が全面協力してあげる!デートのフィナーレは絶対ウチに来ること。ラブホとか行っちゃダメだからね!」
「いや、店長さすがにそれは無いですよ!俺らまだ高校生だし!」
「ラ、ラブホっ……!?ピャぁ!?」
芽吹沸騰レベル5
午後4時を回り、お客さんの出入りがだいぶ落ち着いた頃。
僕と秋人は店長のはからいでバイトを上がらせてもらえた。それはいいんだけど、そこから何故かバイト先公認のクリスマスイブデートが決行されてしまった。
バイト先公認って何!?告白記念日とか恥ずかし過ぎるんですけど!?
デートの最終地点を彩雲堂で食べてくれれば全メニュー半額にしてくれるという条件で、秋人とのイブデートが始まろうとしていた。
一応彼氏彼女の関係にはなったが、普通の彼氏彼女や幼馴染カップルとも少し違う関係の芽吹と秋人。普通の恋愛観とは違う関係の二人。デートという概念で二人っきりで何かをしたことがほとんど無い二人だけのクリスマスデート。
クリスマスネオンとそれに照らされて歩く楽しげなカップル、カップル、カップル。どこもかしこもカップル。学生も大人もベタベタ。そんな街並みの光景を前に、ウブ過ぎる芽吹はもう沸騰を通り越し、緊張のあまり吐き気を催していた。
「うっぷ……!……おぇ……」
普通のカップルってどうするの……?
続く……




