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ムッ……。おでこ見過ぎ!



「はっ……かっ……ぅわっつ……!?」


「お……お……あ……え……うわぁ……おま……え……ハル……?」


「マジか……!?」


 出島くん、秋人、有馬くんの順に、着替えて戻って来た僕と夕夏と八乙女さんと園田さんを見てこの反応。




 男装純和風コンセプトカフェ【甘味のいろり彩雲堂】初バイト初日。


 開店前の店内のトイレで、園田さんと夕夏にメイク、浴衣の着付けをしてもらって店内に戻ってきたら、秋人たちの反応は文字通り開いた口がなんとやらで。

 

「お、お……お待たせ」


 夕夏にセットしてもらった僕の男装は、最近肩くらいまで伸びてた髪を、毛先をピョンピョン跳ねらせて、前髪を後ろで結ったシンプルなセット。夕夏曰く「『リベンジャーズ』のマイキーヘアって感じ?」だそうです。


「芽吹ちゃん、その髪型ってもしかして、マイキー!?」


「ふぇっ!?そ、そうみたい。出島くん知ってるの?」


「ったりめーじゃん!マジか!」


「これセットしたのアタシだかんね!」


 夕夏がドヤった。


「芽吹ちゃんがマイキー……!?」


 有馬くんも驚いてる。


「芽吹ちゃんのおでこルックやべぇ!レア感ハンパねぇ。なぁ秋人!?」


「おっ……お?……おう。ハルの……おで……こ……」


 何でかやたらと顔を紅くして僕を見詰めてくる秋人。


「ムッ……。おでこ見過ぎ!」


 ペチッ!


 僕はおでこを隠したくて手で隠そうとしたらカワイイ音が鳴ってしまった。


 夕夏は自分でセットして、ハーフアップからの(まげ)を作っただけでのシンプルな髪型。園田さんのメイクで僕も夕夏も眉毛がキリッと濃い眉毛になった。たったこれだけで男装になるのかイマイチよく分からない。八乙女さんにいたっては本当にただポニーテールに結って眼鏡を掛けさせただけ。これは男装というより、


「秋奈っちは男装っていうより敏腕マネージャーって感じだよね。あるいはやり手美人秘書?」


「それでは男装になっていないだろうが!」


「でも、八乙女さんすっごいカッコいいと思う。余計なメイクとかもいらない感じ。うん。カッコいいと思う」


 何故か2回言ってしまった。けど本当に八乙女さんはこれで良いと思った。


「そ……そうか。芽吹ちゃんがそう言うなら……。男装も、わ、悪くはないな」


 照れ隠しなのか眼鏡をクイッと上げる仕草をした瞬間、


「どぅぶぉえっ!」


 出島くんが鼻血を出して卒倒してしまった。


 園田さんはもう慣れているらしく、秋葉原の駅で合流した時にはもうメイクは完成していた。秋葉原では男装メイクやコスプレをしてても誰もあまり気にしないらしい。僕はさすがにお店以外の所で変装する勇気はまだ無いけど。


「あれ、そういえばミヅキちゃんは?」


 初めての男装メイクに初めてのバイトってことで頭がいっぱいで全く周りが見えてないことに気付いた。

 後を見ても、店内を見ても見当たらない?

 と思っていたら、


「ちょっと店長ぉー!あれ、店長まだいない?蓮さーん!」


「どした?」


「この新人の格好なんなんですか?キツネのコスプレって……、ウチのコンセプトに合ってないですよー!男装でもないし!」


「二次元には男の白キツネもいるそうですよ?」


 入口のちっちゃな案内担当の真さんの苦情と一緒にミヅキちゃんが現れた。

 着ている着物は確かに男物っぽい。でもそれ以外は何故かキツネだった。帯の先端がキツネの尻尾になっていて、頭にキツネ耳のカチューシャ。そしてキツネのお面。


「あれ……ミヅキちゃん、さっきトイレで一緒に園田さんにメイクされてなかったっけ?な、なんでお面?」


「ああ、心配御無用ですよ。ほらこの通り!」


 と、言って軽くお面をはずして見せた。しかしその顔は……


「っ……!?」


「へっ……!?」


「ンなっ……!?」


「……!」


「おいおいマジか……!?」


 幼い顔立ちのミヅキちゃんがなんとも言えない絶世のキツネメイク美少女になっていた。その場にいた全員が息を呑んだ。


「キツネだけに傾国の玉藻の前ってか?こりゃあ驚いた。もう男装とか関係無いね。とんだ逸材だったとは」


 楓店長だけが冷静な顔をしてそう言った。


「ん?」


 また仮面をつけると、コテリと頭に傾げたミヅキちゃん。みんなの反応の意味がいまいち分からないといった感じだった。





 お店が開店すると、程なくしてお客さんが入って来た。最初は一人。次は二人。どちらもどうやら常連さんらしかった。お店は狭いからファミレスみたいに大勢で賑わうような場所でもない。このくらいの人数ならバイト初日にはちょうど良いかもしれない。

 最初はお手本で蓮さんが接客に当たった。


「いらっしゃいませ。ご注文をお伺いします」


 ――――――――――――


 あとは見様見真似で夕夏、八乙女さんの順に、接客、注文を受ける。

 

 次は僕の番か……。

 またお客さんが入って来た。と、とりあえずマニュアル通り。マニュアル通り。


「芽吹ちゃんなら大丈夫」

 

「芽吹ちゃん一旦深呼吸。ヒッヒッフーだよ」


「ヒッヒッフー」


「夕夏、それはラマーズ法だ。バカ者!」



 ではいざ!


「い、いらっ……いらっさい……まふぇ!」


 店内が微妙な空気に包まれた。


 噛んじゃったよぉ〜〜〜〜!!恥ずかしっ恥ずかしっ、もう嫌だぁ!どどどど、どうすればいいの!?


 完全にパニクる芽吹。すると、


「見習いさんか。だいじょ〜ぶだいじょ〜ぶ。噛んでも気にしない。大丈夫大丈夫」


 そうお客さんに優しく言われて、僕は不思議とすぐに立ち直れた。


「取り乱しちゃってすいません」


「とてもカワイイ見習いさんだね。今日から?」


 お客さんの視線は僕の胸元の名札を見ていた。『ハル◇修行中』と書かれた名札。


「あっ、は、はい」


「初日はさすがに緊張するよね。大丈夫。私ここの常連だから。ゆっくり、ゆったりやろう。ここはそういう場所だから。静かに深呼吸してみて」


 何故か言われるがまま、僕はその人の目を見詰めながら静かに深呼吸をしていた。


「ふぅ〜……」


「はい。これでもう大丈夫。どう?」


 さっきまで心臓バックバクだったのに、いつの間にか自分の息も鼓動も静かになっていた。


「ほぇ……?」


「それじゃあ早速。注文いいかな?」


 よく見ると、その女性は少し白髪混じりの長いポニーテールを肩に流した、とても柔らかい、暖かい感じのする女性だった。


「ミルクレープ抹茶アイス乗せと、梅塩かぼちゃパイと、マロンショコラと、あとねぇ……ミルクチョコたっぷり揚げ餃子。それとぉ……」


「ま、まだ頼むんですか!?」


「クルミ味噌団子を……ん~、4つ。これがシメに最っ高なのよ!」


 さっきまでの謎に優しい雰囲気から一変、スイーツ大好きお姉さんに変わった。

 

「あっ、やっぱもう一つ。アップルパイ。ホールで!」


「えええええええ!?」


 


 

 小ぢんまりとした店内は入れる客数も少なく、喫茶店というだけあってお客さんも時間もゆったりとしていた。ところが、午後3時を過ぎた頃から、お店の前に行列ができ始めた。何事かと蓮さんも店長も驚いていたのでミヅキちゃんと真さんに様子を聞いてみたら、


「凄いですね芽吹ちゃん。今噂になってるみたいですよ」


「え、なにが?」


「芽吹ちゃんと八乙女さんが大人気らしいですよ」


「へ?僕と八乙女さんが?」


「キツネのあなたもよ!」


 注文を受ける時にお客さんから話を聞けた夕夏の話によると、可愛すぎる男装コンカフェがあると噂になっているらしく、マイキー風の僕と、キレッキレクール眼鏡の八乙女さんがヤバいらしい。


「ぼ、ぼ、僕そんなに噂になってるの!?」


「だって芽吹ちゃん男装しても可愛いんだもん。ギャップ凄いと思うよ」


「えええええ〜!?」


 でも、噂の最たるは圧倒的にミヅキちゃんだった。USJの時のフリーレンのコスプレも違和感が無かったほどロリエルフを地でゆくミヅキちゃん。今度はお面を着けて白キツネの格好。珍しさもあると思うけど、圧倒的に可愛かった。


 スイーツメニューだけでやってるここ彩雲堂のキッチンは、スイーツはあらかじめもう出来上がってる物を店長と蓮さんがほとんど器に盛り付けるだけの作業だった。それでも、今日はその3時以降のお客さんの流れにはさすがに目が回ったらしかった。



「今度からはスター新人は一日一人のシフトにしたいんだけど……?」


 疲れ切った顔の楓店長と明日以降のシフトの打ち合わせをした後、午後6時で未成年の僕たちは帰宅となった。夜は夜でお酒が入ったスイーツバーにきり替わるらしい。

 それはそれでちょっと食べてみたいかも。



 秋人と二人で帰りの途中……。


「凄かったな」


「3時以降のこと?真先輩を差し置いてミヅキちゃんが大人気になっちゃってて。八乙女さんも大人気だったって」


「まあ、それもあるけど、俺が言ってんのはハルのことだよ」


「え、僕?」


「あぁ」


「僕の男装、そんなにやばかった?」


「マジでヤバかった」


「そ、そんなに?」


「俺BLとかは興味ねぇけど、ハルがもし完全に男の身体に戻っても、俺お前のこと普通に抱ける自信あるわ」


「はっ!?ちょっ……え!?な、なな、な……何言ってんのさ急に!?だ、抱けるとか……!?」


「今日のハルの男装、なんかグッと来てさ……。可愛いのに、カッコいいって感じで」


「か、可愛いとか言うなってば!」


「面白いよな。ハルはもともとは男で、でも女の子になって、男装してみたらやっぱり可愛くて」


「もう、だからそういうのは……、もう!アホ!」


「ハル……」


 秋人が静かにこっちを見詰めて来た。


「な、なんだよ。ジロジロ見るなよ」


「……やべ。ちょっとムラムラして来た」


「コラー!」


 例え相手が秋人でも、万が一にもこんな道端で襲われるのは嫌なので、僕は秋人を置いて走った。というか逃げた。恥ずかし過ぎて。


「ちょっ、おいハル!すまん。逃げんなよ!別に襲わねぇって!」


「今の秋人怖いからやだぁ!僕帰る!」


「ちょっとマジ待って。お前足早えんだよ!ハルーーー!」


「秋人のアホーー!スケベーー!」






 ◥◤◢◣◥◤◢◣◥◤◢◣


「店長!」


「はいよ。どうした?」


 閉店後、夕夏が楓店長に質問をした。


「アタシたちの名札の名前って、これいわゆる源氏名的なやつですよね?」


「いわゆる、まあそうだね」


「芽吹ちゃんは苗字の春風から取って『ハル』。アタシは鳴海から取って『ルミ』」


 八乙女さんはそのまま『八乙女』。ミヅキちゃんもそのまま『ミヅキ』。僕たちがそう呼んでいたから。園田さんは『おソノさん』。ここまで来てよく考えたら、男装コンセプトのこだわりは見た目だけで、名前自体には特にこだわっていないようだった。


「真さんは?」


「私の名前が真琴だから」


「なるほど」


「じゃあ、楓店長のは?」


「う〜ん、秘密かな」


「おっと、そう来たか」


「じゃあ飛ばして蓮さんは?」


「私に痴漢してきた人や弱い女性にちょっかい出そうする輩をあの世に送る時に祈るの。(はす)の花が浮かぶあの世をイメージして」


「おおおお!まるで遠山の金さん!」


 八乙女さんだけが凄い共感。


「……ってのは冗談。私の名前ね、実は蘭子って言うの。でも蘭だとあまりにも女の子っぽいからちょっと変えて(れん)以上」


「へぇ〜。蘭子さん!」


「蘭子さん止めて。むず痒いから」


 やっぱり男装設定は見た目だけだったみたい。でも覚えやすいし、みんないい名前だった。

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