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神憑き人

「お前の黒歴史なんざ興味ねぇよ。聖戦記に記すんじゃなく自分の黒歴史に記しとけ」


「じゃあ黒歴史書の話をいきなりするけど、【神憑き人(グレイル)】って言葉は知っているよね?」


 そりゃあこのセカイのヒトなら誰もが知っている。帝国側に結晶人がいるということは、神生国側にもおれたちに似た連中がいるということ、つまりそれが神憑き人、結晶人と相対する存在。その神モドキの人間がどうして今の話に登場するんだ。


神生国の奴隷(グレイル)を知っていたら悪いのか? おれは死ねるのか?」


「神憑き人はこころを鍛えられる。どれだけ困難な状況でも希望はあると信じて、努力に努力を重ねられる。あなたに一番足りないのはこころだよ」


「帝国最強のニレンはこころを持っていない。何より神や人間を信じた結果が今のセカイだ」


「帝国には結晶人を制御するためのカライスクロスの血があるように、神生国エンルルには人間を制御する絶対的な力があるんだよ、それこそが――こころ。わたしは信心深いから、こころには無限の力が宿るって信じているの」


 こころだとさ、バカバカしい。むかし誰かに言われたぞ、『こころで飯が食えるならヒトは苦労して生きていない』ってな。こころってなんだ? 人間か結晶人かの違いか?


「そんなこころ無い話はいいとして、もっとこころ無い話をしよう。そう、例えば――カライスクロスの血を知っているおまえは何者なのか」


 カグヤはカライスクロスの血というワードを使った、つまりもう正体を隠す必要が無くなったということだ。皇帝様やニレンと繋がっているかもしれないこいつの正体を暴いてやる。


「そんなこころ無い話はしたくないよ、だからわたしはあなたの次の目的地を教えてあげるね」


「ほう。それで、お前は何が言いたい……」


 分からん、ますます分からん。このカグヤという女子はどこから来てどこへ向かおうとしている? ヒトの話を聴かない病人、おれと同じ病人だ。


「帝国に居場所がないならバビロンに行けばいいじゃない」


 唐突だった。カグヤ姫様の頼み事――否、提案はまさに無理難題だった。


「バビロン……神生国の首都じゃねぇか。敵地に行っても居場所なんかねぇよ。もしかしてあれか? 『パンが無いならもっと美味しい物を食べればいいじゃない』ってネタか? 笑わせたい思いで提案したってことなら、悪いが今は笑えねぇよ」


「わたしは真面目な話をしているんだよ、それにただのパンより美味しい食べ物はたくさんあるもの。餓死したくないなら毒林檎でも食ってみろってよく言うでしょ」


 カグヤ姫様は(たち)が悪いな。まるで民草を生贄にして己だけ生き残ってきた口ぶりだ。


「真面目に行くって言ってもバビロンへの行き方なんぞ知らねぇよ」


「クルガル山脈のオトリュスを越えて行くんだよ」


「ほー、面白いことを言うもんだ。『自害しろ』って命令と変わらん提案だぞ」


「死んでもいいじゃない、今のあなたは死者よりも死者だもの。自害するのと何か違いでもあるの……わたしは一周回って生きろって命令しているんだよ」


 一周回って、このセカイも一周回って、それで最後に行き着くのはどこだよ。地獄か天国か、はたまた虚無か。おれは一周だけじゃ足りねぇんだよ、何百周何千周と回らなきゃ生きることも死ぬこともできねぇんだ。黄泉の國に行っても、おれは誰にも顔向けできねぇんだよ。


「おれが知る限り、クルガル山脈を越えた奴は帝国側でも神生国側でも一人たりとも存在しない。結晶の土地にも神の土地にも染まらないあの場所は、山越えをして帝国の首都にも神生国の首都にも奇襲なんぞ出来ない。ましてあの一番高いオトリュスの山を越えろだと? 彼の大英雄ニレンでさえ死んでも無理だな」


「それがどうしてだか知っているの?」


「山には神さえ恐れる『ヤマ』が住んでいるんだろうぜ」


「わぁお、あなたってわたしが思っていた以上に想像力豊かなんだね」


 まあな、おれの得意分野は妄想だ。もっと褒めろ、褒め称えろ、この妄想癖が消えるまで褒めて褒めて褒め称えて、最後に殺してくれると嬉しい。


 と、おれはクルガル山脈の方に目をやった。山登りに行くのは簡単だ、無事に山越えできる保障も無ければ戻れる保障も無い。山登りなら人間様でも出来る、相手がクルガル山脈じゃなければおれでも簡単に頂上に立てる。


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