カグヤの語り
「では無駄なく語りましょう」
そしてカグヤは、まるで神が憑いたかのように、
「旧世界より――『創世代冥王紀【猿蟹合戦】聖戦の敗残者。彼の巫こう記す、猿、これを人間とし、蟹、これを神とする。猿と蟹、これらかつて共に生きていた、しかし華族現われし暗黒時代開幕、これにより猿と蟹の血の合戦始まる。子蟹、親蟹殺されれば親猿殺し、親猿殺されし子猿蟹の子殺す。仇討ちせし猿の子神殺し蟹の子人殺し。聖戦観れば華族喜び、けものの子無心の怒りに我を忘れる。この暗黒の時代に落とされるは猿と蟹に愛されしふたつの命、争い絶えぬ猿と蟹、ふたつの命は見て悲しみ、断たねばならぬとこころに決め、これらふたつは不動の和平のため結ぶ宣言をした。しかし華族思うこと喜劇無きセカイ、故に聖戦の終わりは見えず、誓い合ったふたりは引き離される。されど華族の運命に抗うこと叶うふたりには神の壁も結晶の壁も存在せず。こうして親となるふたりのもとに和平の希望となる愛の結晶が誕生し、その末、赤子は土地に呪われた。敗残の呪いを宿すほか、闘争の宿命を親と共に背負う新たないのち。呪いは命短し成長遅し、永遠の闘争知らぬ負け犬の遠吠え。宿命は桃栗三年柿八年、獅子の子結実をかしこし恐ろしと思へど、生まれも育ちも譲る誉れは谷の底。呪われし獅子の子見し親獅子、聖戦から逃れる実付き無き子獅子すら可愛がり、我が子の血途絶えさせまいと不協和音の剣と共に結晶の内へ覆った。かくて結晶の内で眠る獅子の子は、夜明けを待たず目覚めてしまい、日も登らず発芽もせず、そこには子獅子の遠吠えだけが響き渡った。何もできずひとつの聖戦に勝利するが、獅子の子はひとりだけ枯れたように咲いていた。聖戦に勝ちて己に負ける、彼の聖戦の敗残者を――アーサー・アルトリウス、又の偽名を木枯獅子王と言った。聖戦記の空白をここに書き、そして劃とする』」
そこで語りを終えたのか、カグヤはおれをじっと見つめ、次にはニコリと笑顔を向けてきた。
「あなたはニレンとわたし…………ううん、あたなはよく頑張っているよ」また次にカグヤは、昨日のニレンと同じように胸部を抑えて、息絶え絶えと無理な笑顔を続けた。
「なるほどな、そういうことか」今の語りで何が分かったのか、カグヤやニレンのカラダに何が起こっているのか……おれには何もわからないということがわかったのだろう。
おれは知恵無しだ、おれは頑張っていない、おれは努力とかいう無駄な言葉を墓に捨てたんだ。今頃気付いたとしても遅いんだ。
「不明だな、未解決事件だ」
「今日はどんな花が天に咲くのか楽しみだね。あなたもそう思うでしょ」
「ああ、月を曇らせるような花が打ちあがるぜ」
「約束、守っているんだよね――彼女、護れるといいね」
まさか、ここでカグヤ姫様の助言か……これはこれは無理難題だぜ。そう言い返す暇もなく、おれは駆け出していた。あの場所で全て分かる、分かるはずだ。
(嘘だ、嘘に決まっている。全部嘘だ)そう願いながら、おれは呼吸と鼓動を早めた。
/*走れ獅子の子よ。零時の鐘は約束されておるが、約束の前に真実を突き止められるかもしれぬぞ。そなたが継承者ならば獅子を見せてみよ、士師を物語ってみせよ。
男子の一族として生まれたからには、勝てぬ相手であろうと噛みつき、決して諦めぬ振る舞いを心掛けよ。男子よ、男子よ、私も見ておるぞ。
これからひとりになるとしても、獅子の舞を忘れるな、獅子の心を吠えろ。
行きついた先でそなたは知ることになるだろう……この聖戦の意味を*/




