生きてさえいれば
「どうしてサルとサルなんだ……」
「《見ざる、言わざる、聞かざる》、悪いことは見たいし言いたいし聞きたいものだけど、己からそれらを知りに行かずともいずれ知ってしまう。だから今は生きることだけを考えて、約束の日に向けて己と己を闘わせる。見るのは己、言うのは己、聞くのは己。未来は明るいよ」
ふむ、どうやら聖戦の例えではなさそうだ。合戦なのに己と闘う自滅の合戦、そんなんじゃ合戦どころか毛も生えない。つまりカグヤの見ている聖戦は例える必要がない平和な物語であって、『生きていればどうとでもなる』ということか。
しかし謎だな、この聖戦も物語もいろいろな物や事を巻き込んでの暴力で解決する悲劇ではないか。なぜ未来は明るいと言った?
「随分と高度な悪口だな。意味不明どころか、おれには百回繰り返しても悪く聞こえなかった……いや、もしかしてそれが悪いことと言いたいのか」
「うん? 悪く言ったつもりはないんだけど、そう聞こえた?」
聞こえなかったね。ついでに見たくもないし言いたくもないね。おれは猿じゃないから、おとなしく箱の中に入っていた方がまだマシな人生を送れる。
「どうだろうな、困ったことに頭の回転が悪い方なのでいつも深読みしてしまうんだ」
「そっか、これが生きようとする意志なのね」
それにしても、こいつとの会話はニレンとの会話並みに疲れるな。そろそろ祭りの最後だし、ここでおれが気になっていたことを訊いてからお暇させてもらうとしよう。
「そういえばニレンには会えたか? 会って振られてこんな場所でエーテルの観光か? 竹から生まれたカグヤ姫様は傷心してしまい竹からやり直そうって気分かな」
まあ、振られるだけいい方だぞ、おれなんて挑戦しないから振られたことすら無い、つまり気に病む必要なんてない。うん、しかしその美貌で振られちまったのなら、お前が狂っていると見抜かれたということで、挑戦するならもう少しまともになってからということだ。
「そうそう、百鬼夜行の魂が表れる場所を教えてあげようと思ってさ」
「それはそれは、ニレンの試験を受けている暇はないな。暇つぶしにおれに教えてくれ」
「うんいいよ、あなたに教えるためにここにいたからね」
なるほど、ここまで話していて気付いたが、物は言いようって感じだな。
「まあそれはいいとして、今日の獲物はリジーって名前の番なし結晶人なんだってさ」
咄嗟、おれはカグヤを睨んでしまった。それは冗談にしても聞き捨てならないね、リジーが何か悪いことしたって言うのか……ああそうか、結晶人のこどもたちに戦場での死なない方法を教えているからだな。帝国では恨まれないが、神生国に恨まれることはあるだろうな。
それでも、それでもだ。
「あり得ないだろ……」死なない方法を教えているヒトが無差別に殺されてたまるか。
おれの立てない舞台で、あんなにも誇り高く輝いているヒトが消されてたまるか。
「彼女は強いけど第四世代だし、神を殺す実績もないんじゃ獲物として狩られることはあり得ないことでもないじゃない」
「なら百鬼夜行の魂の居場所はどこだ……」
「それを教える前に、このセカイが誕生してからの最初期の空白を語ってあげるよ」
「はぁ、どうせ何もかもがお前の妄想話だろ。おれには知らなくてもいいことだね」
そうに決まっている。この変女の流れに乗ったらおれの負けだ、ため息をついた時点でもう負けているけど、これ以上負けられないんだ。
「わたしと彼が寿命を削ってでも目覚めさせたり語らなくちゃいけないんだよ。だから嫌でも知らなくちゃだめなの。このセカイが彼の一族により創造されて、彼の者がこの地へ封印されて、猿と蟹が共存して、そしてある者たちが悲劇観たさにセカイへと干渉していく聖戦記の空白だもの。あなたは知らなくちゃだめだよ」
「寿命を削ってお喋りね。冗談を語るのは面白そうだな」
「聴きたいですか? 聴きたいですよねそうですか、ではでは制約破って語ります」
なんだなんだ、勝手に話を進めてくれるではないかこの自己中変女め。勉強はもうこりごりだというのに……仕方ないか、久しぶりに頭を使うとしよう。
「そんなに勉強を教えたいなら短くしてくれ。おれも寿命という時間を無駄にしたくないんだ」
やったやった、とカグヤは両手を胸の前で拍手にもならない音のない拍手をした。




