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赤子

「残念ながらおれの故郷は月に置いてきたんだよ……と失礼、お前の台詞だったかな?」


「あははっ、今宵は月が綺麗に見える日なんだけど、あなたは晴れないどころか雨に変わるかもしれないね。舞台に立つ者が怠け怠けの《ものぐさ太郎》だって磨けば輝く、それを知っているから剣を引き抜けるか見極めるのに……まさか月の言の葉を曇らせるなんて」


 ふむ、確かに月が綺麗な日だ。カグヤ姫様が帰るには絶好の日ではないかな。


「なんだ? ロマンでおれをバカにするのはニレンだけで十分だぞ、それ以上のロマン主義者を抱えるなんておれには出来ない」


「抱えられているのはあなただよ。負んぶに抱っこまでしてもらっているし、オムツも替えてもらっているじゃない。こんなにも過保護にされているのにまだ過保護にされたいの……そろそろお父さんお母さんを困らせるくらいの反抗をしてみたら?」


 うむ、一つ言わせてもらうとだ、お前は出会った時から厳しすぎやしませんかな? そのソプラノの音域でおれを罵るのは勝手だが、もう少し穏やかでもう少し母性というものを含んでくれ。そうしてくれないと過保護に育てられたおれは泣いてしまいそうだ。


「話の内容を間違っていない方向に持っていくのはニレンの方が上手いと思っていた、しかしお前はニレンよりも厄介だ」


「いないいないばぁ! どう? 面白い?」


「赤ん坊でも笑わねぇよ」


「あらあら、夢現に苦悩する赤子(ややこ)かと思ったらいまだにねむねむなのね」


 ほんと失礼な変女だな。赤子に帰れるなら今すぐにでも帰っているぞ、いやどうせなら人工子宮の中に帰って、おれという意識が結晶化する人生に修正したいまである。おれさえ生まれていなければ歴史の転換点やら特異点やらと人間様は満点の大喜びよ。


「こちとら眠くても今日中にやらなくちゃいけない試験があるんだよ」


「なら合格だね。今まで見てきた中の話だけど、あなたの評価はかなりいい線になっているの。残念な型なのがちょっと不安だけどね」


「評価? 評価ってあれか、良い奴隷悪い奴隷って評価か。そりゃあ試験受けなきゃ判断できなそうで腹が痛いね」


「そう、正当な評価」


 正当? 何を口走っているのだカグヤ殿。正当な評価を受ける時にはおれたちみんな死んでいるぞ、もしくはジジイやババアになっていて、動かないカラダやボケた頭で評価されたことを良き事と考え、そのさなかいつ死ねるのかを考える。つまり正当な評価とは生き続けることだ。ニレンだって生き続けて良き評価をされているだろ。並みの結晶人が評価を得たいというなら戦場で一輪咲かせるしか方法がないのだよ。


「おれは相撲型の結晶人(ほだしと)だぞ、しかも戦場で評価されるような力すら出せない。高く造られた安いいのちの捨て駒だ」


「ふーん、すもうってなに?」


「知らないのか。瑠璃の国発生の競技で、脂肪と脂肪や筋肉と筋肉のぶつかり合いみたいな競技……と言うと迫力に欠けるから、爆弾と爆弾のぶつかり合いと覚えておくといい」


 この変女が結晶質の例え話を知らないとは意外だった。先ほど『残念な型』と言ったのは何のことだったのか。ふむ、こいつは間違いなく変女だな。


 とディテールを一つ、結晶質は戦闘の型だ、その戦闘の型を人間がする運動競争(スポーツ)で例えるのが一般常識となる。結晶人の第一世代から第四世代までは長距離走型の【結晶体】で生まれる、いいや――第五世代も結晶体で生まれるはずだった、しかし非結晶体と準結晶体という規格外が誕生してしまった。それから早二十二年、準結晶体(ニレンの結晶質)は神を紙のように丸めたり破ったり切り刻んだりとルール無視やら禁じ手使い放題やらの不正を合法とする頭の悪い型で、おれの型はと話したいが、まぁいろいろあって非結晶体(おれの結晶質)はゴミよりも使えない高性能だと分かった。


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