感情
「あら、アザミは御一人様のお殿様みたいだね」
と、偶然にもスパルタ教師様と出くわしてしまったからには、おれの氷菓子が一つ消えてしまうこと間違いなし。これでは嬉しいのだか悲しいのだか、嬉しくて泣いてしまいそうだ。
「これはこれは、凶暴教師リジー殿下ではありませんか」
「ほほー言ってくれますね。じゃあこれは没収ということで」
隣に座ってくるリジーはおれの氷菓子を奪った。おれの瞳は未来が見えていたようで一安心。この未来だけじゃなく他の未来も見えているから自分を誇りに思うよ。
「アザミってさ、暑くても寒くてもいつもここに座っているよね。他のところ行けばいいのに、それか他にやることないの?」
「やることはないがやらなくちゃいけないことは山ほどあるぞ、例えば修行だ。おれの修行は今の暇な時間こそが大切でな、将来のことを考えて不安になって、知らぬ間に自殺を考えて少し明るくなって、生きることを考えて真っ暗になってと、いろいろ大変なんだ」
「へー、大変だね。じゃあ死ぬとき教えてよ、わたしも一緒に死んであげるから」
おぉう、どうやらリジー相手に恐ろしいことを口走ってしまったようだ。安心してくれ冗談だぞ、おれは本気で言ってない。お前はそういうところが怖いんだよな、本気で言っているのかも分からないし、本気でヒトの話を聴いているのかも分からない。どこか天然が入っているというならかなり計算高い天然だ。ああ、おれはお前の天然な計算高さに下っている。
「ヘンテコな発言を本気にするよな。さっきのは冗談だ」
「冗談でそんなこと言うヒトはね、こころの中にそういう感情が芽生えてしまっているの」
感情か、感情は金で買えるからな。ということでおれの勘定はいくらですかな? おれはニレンと同じ第五世代だからかなり豊な値段で造られた事は分かっている、ならば感情もかなり豊かに造られたのだろう――いやいや、感情と勘定は似て非なる言葉だった、無感情のニレンが誕生して帝国民は泣いて喜んだし、おれの誕生も同様だった。まあしかし、かく言うおれは成長と共にハイパーインフレで数字だけデカくなって紙切れよりもゴミへと成り果て、感情豊かなおれを見て悲しい悲しいと偉い人間共は泣いて駄々をこねたのだよ。つまりですねリジーさん、感情という言葉を持ち出すのは混沌を招くのですぞ。
「良くも悪くも芽生えるのが感情だろ、おれたちは笑顔が素敵なお花じゃねぇんだ」
「アザミのは良くない感情だよ」
「ならどうしてニレンは感情表現できないと思う……表現しても嘘っぽいだろ」
「え? 表現できているじゃない。笑うし、戦場では怒ったような顔もするし、結晶人の仲間が死んじゃったら悲しい表情するし、嘘っぽい表情なんてしてないじゃない」
ああ、確かにニレンはよく笑う。ヒトが好さそうな外面で、人間を憎んでいる笑顔をよくしている。怒ったような顔をした時も悲しいような顔をした時も、いつも裡側は憎しみと絶望で溢れている。そんな気持ちの悪いニレンについて不思議がっているのはおれだけなのか。




